第115号(平成15年8月1日)

 − 脚光浴びるシルク −

上質感求める市場ニーズに応える
新たな意匠力や機能性で進化

繊研新聞社 編集局本社 編集部記者  北 川 民 夫ああ


 シルク素材がテキスタイルトレンドの中で脚光を浴び始めている。数シーズン継続した“綿トレンド”に変わる新しい素材感を求める声が市場から挙がるとともに、「上質」「エレガンス」をキーワードにしたファッションが浮上していることが背景にある。シルク素材は心地いい触感、ナチュラルな光沢感、しなやかなドレープ性などの素材特性を生かしながら市場を拡大する。

上質の天然素材−03〜04秋冬傾向

 「上質感」はアパレルメーカーが03〜04年秋冬で求める素材感の最も重要なポイント。レディスアパレルメーカーの今秋冬企画は03年春夏の基調を継続しながらも、よりエレガンス傾向を強めたものとなっている。クチュールや上質感、本物志向を軸にクラシック、モダン、スポーティーなどの要素がミックスされている。
 また、単品コーディネイトの重ね着のアイテムを拡充する動きは変わらず、ここ数シーズン続くニットヘの期待感も強い。
 使用される素材は「本物指向」、「ソフト感」、「軽さ」をキーワードに差別化している。この流れのなかでシルク素材の重要性が高まっている。

求められる「ポスト・コットン」−04年春夏

 テキスタイルコンバーター各杜は、04年春夏市場に向けて「ポスト・コットン」の素材軸を強化。素材の複合化や多様な後加工の組み合わせで提案する。意匠力を持ったシルク素材群は市場拡大に向け欠かせない素材アイテムとなっている。
 キングテキスタイルはシルク使いの付加価値を訴求する。プリーツ加工やジョーゼット、シフォンに淡色花柄をプリントするなど、軽やかでエレガンスな上質感を訴求する。シックな植物柄をプリントしたシルクと綿の羽二重に、同柄の薄地ポリエステルを重ねた素材も提案する。

 京都吉忠京都店は「一格上の上質感をアピールするために、シルク使いを拡充したい」としてシルク・レーヨン・バンブー複合によるメッシュ素材やコットン・レーヨン・シルク・スパンデックス複合のシルクネップ・ブッチャーストレッチなど、“凝ったシルク”をみせる。外村は「婦人高級ゾーンに絞り込んだ品揃えを重視する」として、スーツ用途でシルク・ウールの綾織り、ボトム用途にカジュアルエレガンスを表現するシルク・コットン複合を揃え、丸池藤井はシルク・コットンの交織にワッシャー加工を施すなどきれいめビンテージを提案する。

シルク独自のOEM

 アパレルメーカーが二次製品の生産をアウトソーシングする傾向が強まる中で、素材調達や縫製などの生産機能を担うOEM(相手先ブランドによる生産)企業が存在感を増している。特にシルク製品は独白の生産ノウハウが必要な素材だけに、専門知識を持つOEM機能はアパレルメーカーにとって欠かせないものとなっている。

 シルク製品のOEM及び自社オリジナルブランドの婦人服を販売するタクティック・アンド・カンパニー(埼玉県越谷市)は国産シルクにこだわった多様な加工や複合素材使いの製品を生産する。同社はシルク専業メーカー松岡(山形県松山町)のグループ会杜。同グループ内の生糸から二次製品までの一貫生産体制を生かした製品群で差別化を図る。超強撚糸を使ったライトトリプルジョーゼット、特殊偏平生糸「スーパーフラットシルク」使いのドビー織物、スパンデックス糸をシルクデカバーリングしたドレープ性のある素材など原糸からの独自の製品開発が特徴だ。

 富和(東京都渋谷区)はシルクとリアルファーを組み合わせた高級コートアイテムの生産を得意としている。特に撥水加工とコーティング加工を独自技術で組み合わせた機能性シルク生地は、03〜04年秋冬向けで売れ筋となっている。カラーはアースカラーを基調にしながらもエレガンスな雰囲気をみせる。

 フジ(東京都東村山市)は上海曼徳琳紡織品時装の生産するシルクテキスタイルを生かした二次製品を供給する。プリーツ、シワ、ウォシャブルのほかビーズ、刺しゅうなど後加工の生産技術を背景に「エレガント素材をカジュアルテイストにこなす。特にミセス分野ではシルクに対するこだわりがある。この分野で拡大したい」として自社のオリジナル企画を提案する。16匁デシンにウォシャブル加工を施したインナーブラウス、中綿入りコートの表地向けには先染めのシルク素材を投入し、昨シーズン非ウールコート市場を席巻したポリエステル・タフタ、シャンブレーに代わる素材として期待されている。

 デンエンチョウフ・ロマン(東京都大田区)は、ナノ・レベルの微粒子顔料染料を使ったインクジェットプリント・システムが特徴。コンピュータグラフィックで描いた多様な柄を染色し、ドレスやストールなどを生産する。シルクの薄地物についても表地と裏地の異色使いのリバーシブルをシルクの風合いを生かしながら表現できる。また、インクジェットプリントを活用しているため、染色工程で廃液が発生しない。エコロジー性の面でも今後の市場拡大が望める。

 各社の旺盛な素材開発力によって、シルク素材の可能性が広がっている。今日的な意匠力や機能性を付加することでシルク素材は進化し続けている。


 シルクの新しい利用
蚕糸科学研究所 前所長 勝野 盛夫ああ


 近年、シルクは美しさを装う衣服として用いられるほかに、掻痒症とかアトピ―性皮膚炎あるいは床擦れ等に効果があることからシルクが見直されています。また、シルクは人間の体や他のいろいろな物質にも馴染みやすい性質があり、また、タンパク質としての特性や、繊維、溶液、ゲル、粉末、膜その他いろいろな材料形態を得やすいことを生かして、衣、医、食、住の広い分野に亘ってシルクの新しい利用開発が進められています。

シルクを食べる

 最近、シルク入り食品が店頭に並ぶようになり、雑誌にも取り上げられています。シルクを食べるといっても、シルクの長い繊維をそのまま食べることは出来ません。シルクは37万以上にも上る分子量をもち、分子同士が互いに固く結び合い緻密な構造のため、食べても全く消化しません。そこで、シルクを薬剤や酵素等で分子量を200〜300位まで分解すると消化・吸収します。分解されたシルクは乾燥して粉末状で保存されます。これを用いて、シルク入り菓子、飴類、麺類、即席粥、豆腐、味噌、清涼飲料などを製造して市販されています。
 シルクを構成するアミノ酸にはグリシン、アラニン、セリン、チロシンというアミノ酸が多く、これだけでシルクの全アミノ酸の90%を占めます。この中のアラニンはアルコ―ルの代謝を促進し、2日酔いの予防に効果があり、グリシンとセリンは血中コレステロールの濃度を下げる効果があると云われています。

シルクで肌を美しく

 シルクの化粧品としては、シルク繊維を細かく粉砕し微粉末にし、“シルク入りパウダ−化粧品”として30年近く前に市販されています。当時はシルクの効用よりもむしろシルクを入れることにより、製品の高級感やイメージアップが大きな目的であったようです。

 しかし、最近では、シルクタンパク質本来の特性を活かし、これを利用したバイオ化粧品として愛用されています。シルクを粉末にする技術も研究の結果5μm以下の超微粉末が出来るようになり、保温性、付着性、展性、肌触りが良いのでファンデ―ション用パウダ―ケ―キ、メ―キャップ化粧品の素材として用いられています。

 これに、加水分解等で作ったシルクの水溶液や、これを乾燥して造ったパウダー、または、セリシンを組み合わせると、いろいろな特性をもった化粧品素材ができます。例えば粉末状や皮膜状のパック材ができます。従来の製品に比べ肌への刺激が少なく、肌の汚れを吸着し肌がみずみずしく滑らかになると云われています。

 また、シルクとワセリン、ミツロウ等油性物質を加えることにより、ハンドクリ―ム、ヘアクリ―ム、スキンクリ―ム、毛髪脱色剤などになります。今、化粧品メ―カ―が注目しているのが、シルクタンパクの一部にチロシナ―ゼの活性化を押える作用があることから、美白効果を期待する研究が進められています。

 その外、絹(シルク)石鹸はお馴染みの商品ですが、最近、酵素入り家庭用洗剤が増えています。シルクを入れることで酵素の効き目が長持ちします。

シルクが医療の分野に

 医療分野のシルク利用といえば絹の手術用縫合糸が代表的で、今も昔も愛用されています。医療とは少し違いますが、近年はシルクの抗酸化作用、抗菌性を生かし、掻痒症とかアトピ―性皮膚炎に効果的として、シルクのインナ―(肌着)が健康衣料として注目されています。

 シルクではないが、カイコ幼虫体内でウイルスを使って、ネコインタ―フェロンが実用化され生産されています。
 シルクタンパク質に化学処理を施し、血液を固まらせない物質(抗血液凝固物質)の研究が進められています。この物質は血栓や血液検査時に凝固防止用試薬として広く使われるものです。

 シルクタンパク質の吸水性をより高め、フイルム状にして傷口を覆うと、膿や体液を吸い取り治りを早める創傷被服材は、商品化されています。また、シルクフイルムは酸素透過性が良く、透明度に優れているため、コンタクトレンズの研究も行われています。

 このように、シルクは、繭から糸、織物といった衣料衣服の利用開発にとどまらず、現在は、カイコ幼虫、蛹、シルク繊維、シルクタンパク等、それぞれの特性に応じた高度な利用技術をもって、私達の身の回りで新しい利用開発が果てしなく広がっています。


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