近年、シルクは美しさを装う衣服として用いられるほかに、掻痒症とかアトピ―性皮膚炎あるいは床擦れ等に効果があることからシルクが見直されています。また、シルクは人間の体や他のいろいろな物質にも馴染みやすい性質があり、 また、タンパク質としての特性や、繊維、溶液、ゲル、粉末、膜その他いろいろな材料形態を得やすいことを生かして、衣、医、食、住の広い分野に亘ってシルクの新しい利用開発が進められています。
シルクを食べる
最近、シルク入り食品が店頭に並ぶようになり、雑誌にも取り上げられています。シルクを食べるといっても、シルクの長い繊維をそのまま食べることは出来ません。シルクは37万以上にも上る分子量をもち、分子同士が互いに固く結び合い緻密な構造のため、食べても全く消化しません。そこで、シルクを薬剤や酵素等で分子量を200〜300位まで分解すると消化・吸収します。分解されたシルクは乾燥して粉末状で保存されます。これを用いて、シルク入り菓子、飴類、麺類、即席粥、豆腐、味噌、清涼飲料などを製造して市販されています。
シルクを構成するアミノ酸にはグリシン、アラニン、セリン、チロシンというアミノ酸が多く、これだけでシルクの全アミノ酸の90%を占めます。この中のアラニンはアルコ―ルの代謝を促進し、2日酔いの予防に効果があり、グリシンとセリンは血中コレステロールの濃度を下げる効果があると云われています。
シルクで肌を美しく
シルクの化粧品としては、シルク繊維を細かく粉砕し微粉末にし、“シルク入りパウダ−化粧品”として30年近く前に市販されています。当時はシルクの効用よりもむしろシルクを入れることにより、製品の高級感やイメージアップが大きな目的であったようです。
しかし、最近では、シルクタンパク質本来の特性を活かし、これを利用したバイオ化粧品として愛用されています。シルクを粉末にする技術も研究の結果5μm以下の超微粉末が出来るようになり、保温性、付着性、展性、肌触りが良いのでファンデ―ション用パウダ―ケ―キ、メ―キャップ化粧品の素材として用いられています。
これに、加水分解等で作ったシルクの水溶液や、これを乾燥して造ったパウダー、または、セリシンを組み合わせると、いろいろな特性をもった化粧品素材ができます。例えば粉末状や皮膜状のパック材ができます。従来の製品に比べ肌への刺激が少なく、肌の汚れを吸着し肌がみずみずしく滑らかになると云われています。
また、シルクとワセリン、ミツロウ等油性物質を加えることにより、ハンドクリ―ム、ヘアクリ―ム、スキンクリ―ム、毛髪脱色剤などになります。今、化粧品メ―カ―が注目しているのが、シルクタンパクの一部にチロシナ―ゼの活性化を押える作用があることから、美白効果を期待する研究が進められています。
その外、絹(シルク)石鹸はお馴染みの商品ですが、最近、酵素入り家庭用洗剤が増えています。シルクを入れることで酵素の効き目が長持ちします。
シルクが医療の分野に
医療分野のシルク利用といえば絹の手術用縫合糸が代表的で、今も昔も愛用されています。医療とは少し違いますが、近年はシルクの抗酸化作用、抗菌性を生かし、掻痒症とかアトピ―性皮膚炎に効果的として、シルクのインナ―(肌着)が健康衣料として注目されています。
シルクではないが、カイコ幼虫体内でウイルスを使って、ネコインタ―フェロンが実用化され生産されています。
シルクタンパク質に化学処理を施し、血液を固まらせない物質(抗血液凝固物質)の研究が進められています。この物質は血栓や血液検査時に凝固防止用試薬として広く使われるものです。
シルクタンパク質の吸水性をより高め、フイルム状にして傷口を覆うと、膿や体液を吸い取り治りを早める創傷被服材は、商品化されています。また、シルクフイルムは酸素透過性が良く、透明度に優れているため、コンタクトレンズの研究も行われています。
このように、シルクは、繭から糸、織物といった衣料衣服の利用開発にとどまらず、現在は、カイコ幼虫、蛹、シルク繊維、シルクタンパク等、それぞれの特性に応じた高度な利用技術をもって、私達の身の回りで新しい利用開発が果てしなく広がっています。 |