第121号(平成16年2月1日)

   ―長い低迷から羽織が注目へ―
 長羽織のヒットに続き「ハオリノベーション」企画

きものジャーナリスト  徳 地 昭 治あああ


 京友禅協同組合連合会(池田佳隆理事長)の平成14年度の統計で1万余りにまで落込んだ染呉服アイテムが俄然、注目され始めています。そのアイテムとは「羽尺」です。ピークの時には、十日町の黒羽織だけでも年間100万反近い生産があり、きもの姿を引きたてる必須アイテムとして愛用されてきた羽織り。ところが、付け下げ人気が沸騰するにしたがって、折角の胸元の柄を隠してしまう、ということから“邪魔者”扱いさえされかねなくなって、羽織りは染呉服の人気アイテムから脱落して、年々生産量が減ってきていました。着尺と並んで染呉服の量産商品の両横綱商品も、なんと平成14年の京友禅の統計数字では、10,341反を数えるだけとなって、京友禅全体の生産量のわずか1.2%を占めるに過ぎなくなっていました。まるで絶滅品種さながらの推移を辿ってきたといえます。

 ところが、この羽織りに最近、注目が集っています。“火付け役”は、ストリートで目立つ“新・きもの族”。そのきもの族お気に入りのきものショップはきものリサイクル店ですが、ここでの中心商品は大正から昭和初期のきもの。銘仙などはきものリサイクルショップの人気商品ですが、羽織りも豊富に揃っていて、羽織りを着たスタイルが彼女達には新鮮なようです。

 柄と柄を合わせる“重ね”のファッションは、洋装のレイヤードスタイルとも通じるものがあるのでしょうか。街で見かけるきもの姿にも羽織りスタイルが目立ち、昨年12月、一般新聞が「街中で目立つきものスタイル」としてカラー写真で若い女性のきもの姿を載せていましたが、5人のきもの姿中、3人までが羽織りスタイルで、改めて羽織り人気の浸透ぶりを伺わせました。

 こんな羽織人気を業界が手をこまねいて見ているわけでもなく、昨春に室町の製造卸が「長羽織」として新規商品開発をしたところ、最近にないヒット商品となりました。その卸では「新タイプのきもの雑誌に盛んに取り上げられるレトロ調のきものを作れば、リサイクル人気を新作きものに呼び戻せるはず」と商品開発したものですが、きものの用尺で、きものにも長羽織にもなると発表したところ、俄然、長羽織に人気が集中したものです。直ちに前売り卸が取り上げ、同時に大手小売りチェーン店もオリジナルブランドで力の入った展開を見せるなど、最近にないヒット商品の登場となり、久々に業界の明るい話題を独占した形です。

 色柄はレトロ調。今のアンティークきものブームをそっくり頂いた、という形ですが、色目は、くすんだ大正ロマン調から明るさを加え、意匠表現のテクニックでも、板場と引き染めのミックスなど手の込んだ加工法で、新しい高級感を打ち出そうとしています。実は、この大正ロマンと言われたレトロきものはいまから20年ほど前に登場しています。

 この時も、業界を横断した一大ブームを巻き起こしたもので「ニューきもの」と名付けられました。撫松庵きものなど今に続く人気きものブランドが登場したのもこの頃で、大正ロマン調の色柄が席捲しました。この時の人気が再び浮上した形でレトロ調きもの人気はしかっり地下水脈で生き長らえていたということでしょうか。

 羽織り企画はこれに止まりません。京都織物卸商業組合内の染呉服製造部会では、久し振りに各企業を横断した共同の商品開発に取り組むことになりましたが、ここで取り上げられる商品が同じく、羽織りです。ただし、ここでのコンセプトは「羽織りを着るスタイルの定着を目指す」というもので、テーマも“ハオリノベーション・はおること…新しい”。

 リサイクルきものに馴染んだ新・きもの族を核に、羽織る装いの楽しさを広げていこうという企画です。長羽織のようなスタイルの提案をはじめ、様々な素材の提案や羽織りの楽しみの一つ、思いきった裏地に凝る、あるいは羽織姿のポイントとなる羽織紐やバッグなどトータルコーディネーションの提案など幅広い内容となっています。

 加盟各杜では現在商品企画中で、4月発表を予定していますが、作り手からの情報発信が途絶えていただけに成り行きが注目されるところです。いずれにしても、この春から秋にかけて羽織が熱い視線を集めることになりそうです。


  「2004ハイブリッド絹展」開催
   ハイブリッド絹展専門委員・説明員 水出 通男あああ

 「2004ハイブリッド絹展」が去る2月3日から5日までの3日間にわたり東京有楽町・蚕糸会館6階の特設会場で開催されました。この催しは日本製糸技術経営指導協会シルク開発センターが国産絹製品の一層の需要増進を図るため、毎年この時期に開催してきているもので、今年で14回を数えます。

 このハイブリッド絹展は新たに開発された新形質生糸・絹糸や他の繊維素材との複合素材などを用いたシルク製品を一堂に集めて一般に公開するもので、開催期間中はアパレル関係の専門家をはじめ、繊維関係の技術者・研究者、一般消費者など多数の来場者で賑わい、来場者は出展者やシルク開発センターの関係者に素材の製法や特徴・用途・価格などについて質問をしながら熱心に見学しておられました。

 出展者は特別出展者2、試作研究出展者15、地域ブランドシルク出展者10、試験研究機関出展者5、一般出展者18など合計57の企業や団体・機関で、出展された製品のアイテムは和洋の外衣・中衣・内衣類からスカーフ・ストールなどの装飾品やバッグ・靴下などの身の回り品、寝具・インテリア用品・化粧品・栄養補助食品まで出展品は477点に達し、会場は華やかな雰囲気に包まれておりました。

 これらの出展品のうち、今回の試作研究出展品は、シルク開発センターの公募に応じて無撚シルクとストレッチシルクの提供を受けた試作研究者達が、それぞれの技術を駆使して試作したシルク製品です。

 提供された無撚シルクは何本か引き揃えた生糸を熱水収縮率の高い合成繊維(アミラン)でカバリングしたのちに通常の精練加工を施したもので、精練時の熱水処理により生糸の周りにスパイラル状に巻き付いていた合成繊維は収縮し直線状となり、その周りを絹フィラメントがカバリングした形になるため、糸は著しい柔軟性と伸縮・嵩高性を発揮します。 この素材は昨年に続いて2年目になりますが、今回は太繊度 (872デニール)が中心で、特別展示として会場入口正面に飾り付けられたウェディングドレスと婦人用フォーマルウェアが人目を引いたほか、数社が試作した婦人服地類やワンピース、ショール、寝具などが風合いと膨らみなどの面で高く評価されました。

 また、ストレッチシルクはS・Zの強撚糸に無撚りの生糸を合わせ、甘い上撚りを掛けてから精練処理を施したもので、精練によって強撚糸が収縮して糸に弾性を付与するとともに無撚糸が強撚糸に交絡して膨らみと柔軟性を発揮します。このような従来の絹素材に見られなかった特性が、編糸に伸縮性と弾性が求められる完全無縫合コンピューター緯編機に適合しており、フォーマルワンピースやジャケットなどのホールガーメントが高く評価されたほか、通常の織物やニットでも婦人服地やジャカード織地、セーター・カーデガン、寝具などに注目が集まりました。

 これらの試作研究作品のほか、地域一般ブランドシルク出展者や一般出展者からは、過去にシルク開発センターが取り上げてきたネットロシルクやキュプラトシルクなどのほか、野蚕糸や小石丸・いろどり・黄金繭など特性品種繭の生糸類の製品も多数出展されておりましたが、製品は撚糸や精練・染色をはじめ織り・編みの糸使いにも工夫が加えられ、デサインも年々洗練されて、今後の商品化に期待が寄せられるものも多く見られました。

 とくに超細繊度蚕品種「はくぎん」のネクタイ・ブラウスはしなやかな風合いと色彩・こしが評価され、一方、超太繊度蚕品種「蚕太」のワンピース・カーディガンにはウール製品に似たシャリ感とコシが見られて厚地の洋服地への用途が期待されました。
 また、今回初めて出展された加撚複合繰糸生糸による男女の浴衣も全く新しい風合いを持つ素材として注目を集めておりました。これは太繊度生糸の繰糸過程で、生糸に細番手綿糸のカバリングを施したもので、従来にない全く新しい風合いを持つものとして今後に期待が寄せられました。

 なお、ハイブリド絹展の主旨とは異なりますが、特別出展として展示された「ひとりだち」着物は着装が容易で着姿が美しく、今後の着物の普及に大きく貢献するものと思われます。
 (紙面の都合上、製品の出展者名は省略させて頂きました。詳細についてはシルク開発センター 03-3364-0469 までお問い合わせ下さるようお願い致します)

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