第124号(平成16年5月1日)

Silk guide book(シルクの手引書)の刊行について(2)

 時代に対応したシルクガイドブック

 

駒沢女子短期大学 元講師 水 出 通 男あああ


〈2〉シルク素材の種類
 日頃、私達が手にしているシルク製品には、それを産出した蚕の種類やその繭の糸(繭糸)の加工方法によって様々な種類があります。シルク製品はこのような種類別にそれぞれ固有の特徴があり、光沢や風合いが異なるだけでなく価格や耐久性も大幅に異なります。したがってシルク製品の購入や取扱いに当たっては、種類別の特徴を理解しておくことが望まれますが、現在の「家庭用品品質表示法」では商品に貼付されているタッグ等ではすべて「絹」と表示されているため、シルク製品を手にしたとき種類の判別ができない場合が多いようです。そのため、ここではシルク製品の購入時や取り扱いにあたって判別に役立てて頂けるよう蚕の種類と糸の加工法による区別とそれぞれの特徴について解説しております。

1、蚕の種類による区別
 絹を産出する昆虫は数多くありますが、ここでは18種類の絹糸昆虫とその原産地(分布地)を掲げ、その中で、現在利用されている主な蚕とその糸の特徴・用途等について説明しています。

2、製造方法による区別
 同じ蚕の糸でも加工法によって糸の表情は大きく異なります。家蚕糸の場合は通常の繭から引き出した繭糸を何本か合わせて作った生糸と、玉繭から繭糸が縺れた状態のまま引き出して合わせた玉糸、繭を精練して綿状にしてから繭糸を引き出し、それを何本か指先で擦り合わせて糸にした紬糸、繭糸をある長さに切断し短繊維化してから紡績した絹紡糸、生糸を製造する過程で他の繊維を混ぜた複合繰糸生糸などの区別があり、それらの形状や用途は大きく異なります。
 なお、糸ではありませんが、最近多方面で需要が増大しつつあるシルクパウダーの製法と用途についてもこの項で簡単に説明しております。

〈3〉シルクの生い立ち
 シルクのある生活を楽しむためには、それがどのような過程を経て作られてきたかを知っていること
が望まれます。
 ここでは、シルク製品の大半を占めている家蚕の生糸の場合に限って、蚕と養蚕の概要と繭から製糸・絹加工を経て製品に至るまで過程を簡単に説明しております。

1、蚕と養蚕
 蚕には世界各地に蚕の眠性を始め、蚕が作る繭の形や大きさ・色などのほか繭糸の太さや長さ、解れ具合などの異なる品種が数多くあります。これを原種といい、そのまま飼育されているものもありますが、多くはこの原種に改良を加え、他の品種と交配した1代雑種(ハイブリッド)が使われています。蚕の生態と成長過程は品種により多少異なりますが、その模様を蚕のライフサイクルとして図解しております。

2、製糸
 繭から生糸を製造する工程を製糸といいます。製糸工場では繭を丁寧に煮て軟らかくしてから引き出した繭糸を目的の太さになるように何本か合わせ1本の生糸にて枠に巻取ります。わが国をはじめ主な蚕糸国ではこれらの作業には殆ど自動化された機械が使われており、その模様を図解しております。

3、製織・製編・染色
 通常の生糸は細いので何本か合わせて織物や編物に加工します。合わせた生糸の撚りや製織(編)・精練・染色などの順序や加工方法は製品のアイテムによって異なります。以前はシルクの用途は和服が大半を占めておりましたが、近年は洋装のカジュアル分野でも使用されるようになり、加工工程は複雑多岐にわたっておりますので、それらの概要は後の「Wシルク製品」の中で説明しております。

〈4〉シルク製品
 近年、消費者の嗜好が高度化・多様化するとともに、シルクの良さが見直されてフォーマルウェアからカジュアルウェア、寝装品などのほか、インテリア用品、化粧品、健康補助食品など幅広い分野でシルクが消費されるようになりました。そのため様々なシルク製品が市場に出回っておりますが、ここでは衣料品に限定して織物、編物(ニット)、不織布、染色などについて述べております。

1、織物
 織物の種類は原糸・撚糸・織物組織・精練・目付け・寸法などの組合せによって決まります。この中で、織物組織には経糸と緯糸の組合せによる平織・斜紋織・朱子織の3通りがあり、殆どの織物はそれらの変化または組合せによって作られています。また織物は精練・染色を織りの前に行うか、織りの後に行うかで先練織物、後練織物に分かれます。また、織物の種類別の性質や寸法・用途など、シルク固有の区別や特徴も図や表で説明しております。

2、編物(ニット)
 近年、伸縮性に富む絹糸や新しい加工法が開発されて様々なニット製品が市販されるようになりました。ニットは糸でループを作りながら横方向に連結させたものが横編み、縦方向に連結させたものが縦編みで、それぞれに基本組織と変化組織とがあり、その編み方による製品の種類を図解しております。

3、不織布
 通常の布は、織りや編みの工程を経て作られますが、不織布はこれらの工程を経ず、接着などの方法によって、直接繊維から製造された布です。従来の洋服の芯地などのほか、化粧用品・医療用品やオシボリなど各種の生活用品の分野に用途を広げております。シルクの不織布はたんぱく質繊維としての絹の優れた機能を活用するのに適した素材であり、広範な分野での利用が期待されております。

4、染色
 染色したシルク製品には先染織物と後染織物があります。先染織物は糸の段階で染色した経糸・緯糸を組み合わせて織り上げたもので、縞や格子縞・絣・紬などがあり、代表的なものに黄八丈・結城紬・大島紬などがあります。また、後染織物は織物にしてから染めるもので、無地染めや模様染め(捺染)・手描き友禅染などができ、羽二重や縮緬はこれに属します。

〈5〉シルクの改質
 シルクは感性面で最も優れた衣料素材として主としてフォーマルウェアの分野で利用されてきましたが、更に一層シルクの特徴を発揮させるための新素材や、耐久性・イージーケア性などシルクの欠点を補ってカジュアル分野に用途を広げるための新素材開発も進めちれております。ここではそれらの中から繭糸繊度や繭糸の配列を変えた生糸・絹糸や他繊維と複合化した絹糸などのぽか、合成樹脂・化学薬品や機械的処理などによって特殊な加工を施した素材の概要を紹介しております。

1、特殊生糸・特殊絹糸
 衣料素材は糸を構成する繊維の繊度や配列によって風合いや膨らみ・伸縮性その他の機械的性質が大きく異なります。そのため繭糸繊度が普通品種のほぼ半分の「はくぎん」の生糸や江戸時代から飼育されてきた細繊度の「小石丸」の生糸などのほか、生糸を構成する繭糸の接着を和らげたり、クリンプを残した生糸、繭糸の配列を網状にした生糸、繰糸過程で生糸の中心に他繊維を入れた生糸、異なる撚糸数の生糸を組み合わせて精練し、伸縮性と嵩高性を与えた絹糸などの新素材が開発されております。

2、複合素材
 シルクは感性面で優れた特徴を持っていますが、実用面では幾つかの欠点を持っています。これに対し、合成繊維は実用性で優れている反面、感性面で弱点があります。このような相反する両者を複合化することによってお互いの欠点を補うことを目的に、合成繊維と複合化した複合繰糸生糸(ハイブリッドシルク)をはじめ、各種の混紡織(編)物、交撚糸織物、交織機物・交編編物などが実用化しており、その概要を解説しています。
3、特殊加工
 シルクの風合いを一層改善するとともに、イージーケア性を付与するため、古くから各種の改質加工が行われてきましたが、ここではその主なものとして、増量加工・撥水加工・グラフト加工。ソアドメール加工・スコッチガード加工・パールトン加工・ストーンウォッシュ加工・ピーチスキン加工などを紹介しております。

〈6〉シルクの特性
 シルクには他の繊維素材にない数々の特性があります。本文ではそれらの中から、光沢と色彩、風合いとドレープ性、引張り強さと伸び、吸湿性・透湿性、帯電性、防しわ性、耐摩耗性、黄変と脆化、難燃性、紫外線カット性、抗菌性その他などシルク固有の長所・欠点を説明しております。

1、帯電性
 乾燥状態にあるシルクは帯電し易い性質があります。天然繊維の帯電列の中では中央に位置し、羊毛やナイロンと摩擦すると+に、レーヨン・綿やポリエステル・アクリルと摩擦すると−に帯電しますが、シルク製品は吸湿性に富んでおり、通常の環境下で帯電することは殆どありません。しかし、冬季など空気が乾燥しているときの合成繊維などとの重ね着には注意が必要です。

2、難燃性
 シルクは羊毛と並んで最も熱に強い素材です。綿や麻は紙のように良く燃え、合成繊維の殆どは200℃以上で分解・溶解・燃焼し有毒ガスを発生しますが、シルクは300〜400℃にならないと燃焼しません。しかし、シルクには薄地の製品が多いので、炎に触れないよう注意が必要です。

3、黄変と脆化
 シルクはポリペプチッドの分子構造を持つたんぱく質繊維で長期の貯藏中や日光に晒したりしていると黄変と脆化が起こります。この欠点は羊毛やナイロンなども共通の課題です。化学加工によってある程度補うことができますが、この加工を施すとシルクの特徴を失ってしまう恐れがあります。従ってシルク製品は日差しの強い場所での着用は避け、保存は空気の動きの少ない冷暗所を選ぶことが望まれます。

4、紫外線カット性
 紫外線はシルクのフィブロインを構成するアミノ酸(主にチロシン)などに吸収されることが知られています(このことは上述の黄変の原因でもあります)。そのため、シルクは羊毛などと並んで紫外線カット率が高い素材であり、ほぼ90%に達するという報告もあります。

5、抗菌性
 最近になって絹たんぱく質とフィブロインやセリシンに含まれる微量成分が、例えば笹繭など色繭のセリシンに含まれるフラボノール色素が抗菌性を有することが知られているほか、シルクには抗酸化性・物質吸収性など、ひとの生活や健康に優れた機能を発揮することが明らかにされてきています。

〈7〉シルクとのつき合い方
 化学加工や染織技術の工夫などによって様々な新しい機能を持ったシルクが登場しており、シルクは以前のような扱い難い素材ではなくなってきたことが分かって頂けると思います。シルク製品には高価なものが多く、気に入っているものは大切に扱って永く愛用したいものです。そのためのシルクとのつき合い方として、ここではシルク製品を取扱ううえで心掛けたい主要な注意点を列記し、日常の取扱い、洗濯(クリーニング)、アイロン掛け、保管、シミをつけた場合の応急措置などの方法や対策を具体的に提案しております。

〈8〉これからのシルク
1、衣料分野
 シルクの特性を失うことなくイージーケア性を付与した衣服や、たんぱく質の特性を利用した健康衣料など新しいシルク素材の提供が必要であり、一方では細繊度繭糸の利用などによる差別化素材・ブランド化素材の作出など、これからの方向に触れております。

2、非衣料分野
 近年、絹たんぱく質の機能解析が進むにつれて医療用品や化粧品、健康補助食品、インテリア用品などが開発され、広範な非衣料分野での用途が広まっています。特にシルクは数千年にわたって人類に愛用されてきたもので安心・安全な生活素材でありますが、ここでは最近各方面で開発された新素材や開発研究の現状を紹介しております。

※本文中でご案内した各項目の詳細は(社)日本絹業協会のホームページ・Silk guide bookをご参照ください。
 Silk guide bookのアドレス↓
 ここからリンクします。



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