絹だより
第207号 〈平成23年6月1日〉

発行:社団法人日本絹業協会・ジャパンシルクセンター
ホームページ http://www.silk-center.or.jp/
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―植物の秘めたる色彩― ART TEXTILE
テキスタイルデザイナー 原田ユリア     


 10数年前、銀座のとあるデパートで絹のストールなどに手描きの実演なるものをやったことがあります。そのころ、現代美術の作品を制作していた私は自分のいるところと一般の社会とがあまりにもかけ離れているように思い、作ったものを美術関係者ではないまったく普通の人に見せる、さらに売るというのはどういうことなんだろう?と、それが始まりでした。しかし、これといった技術の持ち合わせはなく、解りやすいのはやはり絵を描くことかなと、手描きの実演となったのです。
 なんだなんだと、人が集まってきます。特に話しをしなくても、すぐにいろいろな人と気持ちが通じ合い、楽しいと思いました。何か自分のやっていることで初めて社会とコミュニケーションをとった気がしました。それは私が今までやってきた美術とは、まるで違う世界の出来事でした。
 手描きの実演は下書きなしでシルクの生地に細い線で描いていくのですが、そのうち、昔から英国ではハーブ(薬草)類を染料として使っていたことを知り、カモミールで染めたシルク生地にカモミールの花を描くというのはどうだろう、ということになりました。当時、ハーブという言葉が流行っていたのもありました。ハーブ類は絵にするとあまり面白くないのですが、かえって手描きの重々しさがなく、できたストールも軽い気持ちで使うことができます。ただ染材にするほど手に入れるのは大変です。
 ついには、庭を全部畑にし、種から様々なハーブ類を育てる、に至りました。今でも作って染料として使っているものに、ローズマリー(青味の濃いグリーン)、ラベンダー(黄色みのモスグリーン)、レモンバーム(暖かみのあるグレイ)などがあります。ルパーブやルー、タンジーなんかもやりました。どれも堅牢で退色がありません。
 その後、日本にも古来から様々な植物が染料に使われてきたことを知りましたが、私はいわゆる草木染めではなく、自然の染料を絵の具として使いたいと思いました。草木で染めたから価値があるのではなく、ただの美しい色として使いたかったのです。つまり自分が欲しいと思う色を作るには?を基準にしました。すると出てきたのは、ちょっと古い感じのする中間色ではなく、輝くような濃色の、または限りなく儚い淡色の、コクがあり透明度の高い色彩群でした。(もちろんこれは絹という素材があっての話しです。)

ローズマリー   
びわ葉
椿
茜などで染め.絞り


 日本の染材として私がよく使うのに、五倍子(ごばいし、ふし)があります。
 ヌルデの木につく虫こぶなのですが、どうしてこれからこんな色が?と思うような紫が絹を染めると出てきます。一見、茶系に見えるその色は、古代を思わせる微妙な紫で、江戸時代にはカネ・お歯黒の染料としても使われていました。特にオーガンジーなどの透ける布で美しく発色します。
 枇杷の葉も綺麗な色をだします。新しく出た生葉で彩度の高い赤みのオレンジ、乾燥した葉でも東洋的な橙色が染まります。枇杷の木はよく育ち、その染液は殺菌力が強く、長い間カビがはえたりしないのです。椿から出るシルバーのようなグレイは、レモンバームのそれとは異なり、どこか日本的。ヤマボウシは濃く煮出し、重ねて染め黒に近いチャコールグレイに。若い方から年配の方まで日本人によく似合います。
 その魅力は、やはり透明感にあるといっていいでしょう。化学染料に出せない色はないといわれる現代ですが、同じ色を出そうと思うとあまりに多くの混色をしなければならず、そのため鈍く、濁ってしまうのです。浮世絵などを見ても、日本には独特の色彩感が根づいています。世界を見回して、1つの特徴のある色調を持つ国はイタリア、フランスと並んで日本くらいなのではないでしょうか。それは、ぼんやりと目立たない中間色ではなく、互いを引き立てあう深く澄んだ色彩たちなのです。

今年2月に桜葉で染め
絹で金属のように

 現在は、シルクにウールなどを組み合わせたり、立体的な形にデザインしたストールを制作販売していますが、ベースになる染めは自然なものから得られる染料をやはり使っています。あるとき草木染めを知る人に、これは草木なの?と聞かれたことがあります。その人の頭の中にあるイメージから連想される色彩ではなかったのでしょう。
 また、草木を使った染め生地に顔料プリント、絞りを施し化学染料をかける、絹を縮める加工など複数の工程をかけている外見からかもしれません。草木で染めると、やはり手間がかかるため、それだけを価値として主張してしまいがちです。
 しかし、これからは歴史が培ってきた自然の色をいただくノウハウを受け継いでいきながら、身につけるアイテムとして様々な形にデザインされ、その技術が伝統としてのみ終わらないように、守り過ぎず進化し、いい形で世の中に出していくことだと思うのです。それが染織工芸の伸びていく一面であって欲しいと考えます。


  23年度京都純国産絹製品展
京都で純国産絹製品の魅力を発信
社団法人 日本絹業協会    


 5月31日(火)から6月3日(金)まで、当協会は、京都の京都産業会館4階展示場にて「純国産絹製品展」((財)大日本蚕糸会、(社)日本絹人繊織物工業会、京都織物卸商業組合、(社)全日本きもの振興会後援)を開催しました。
 この時期は、京都・室町の主要前売問屋の商談会が開催され、全国のきもの販売店が京都に集まる機会が多いことや、きもの愛好家の一般消費者にも多数参加を得られやすいよう4日間を会期としました。
 また、本展示会は、(財)大日本蚕糸会が実施している「蚕糸・絹業提携支援緊急対策事業」の一環として当協会が開催したものであり、23年3月には58の蚕糸絹業提携グループが形成され、今回で3回目のきものの一大集散地である京都にて一般消費者、流通業界等に純国産絹製品の魅力を発信・アピールすることを目的としたものです。
 出展者は20者で、うち洋装関係者も1者が参加し、300 余点の純国産絹製品を展示し、来場者に出展目録のほかに、各社の製品の特長を簡単に記述した「製品概要パネル」で説明し、生産者が提携して素晴らしい純国産絹製品づくりをしていることを表現しました。また、純国産絹製品の生産過程のパネルを展示するとともに、蚕糸絹業提携システムの概要、純国産絹製品の生産の過程を映像でも分かりやすく提供しました。
 併せて、養蚕用具の展示、上州式座繰機での繰糸実演(写真)、群馬県が開発した蚕品種(ぐんま黄金、ぐんま200)のカイコの飼育展示と営繭、西陣織工業組合による繭クラフトの実演を行いました。


【来場者の声】
 今回の展示会では、次に掲げる来場者の声がありました。
▽東日本大震災震災により繭の生産が減少するのか心配である。
▽希少な日本の繭で純国産絹製品を作るには量販品を作るのではなく、日本の培われてきた技術を駆使してコレゾ日本の純絹製品といったものを作った方が良い。
▽黒の色を出すのに5回も染めて色を出すとは思わなかった。
▽ちりめんで一越の光沢は素晴らしい。
▽生糸の節を活かした反物も絹の味がある。
▽京友禅は、白があって手描き友禅の雰囲気がよい。
▽希少な純国産の反物は、たとえ傷があっても傷を活かすか、隠すか反物を加工しなければもったいない。傷を隠すには、顔料で染めるか、刺繍等の技術でカバーすれば、素晴らしいものができる。
▽日本の素晴らしい技術を駆使した先染めの純国産絹の反物でブレザー等を作って、海外に輸出したい。
▽素晴らしい日本の技術を駆使したきものを分かってくれる人に販売する方が良い。
▽純国産絹製品を販売するときに、説明パネルの貸し出しをして欲しい。
との声がありました。


【終わりに】
 各報道機関のご協力により、テレビを見た、新聞を見たので会場に来てみましたという方々が多く来場されました。報道機関のご協力に感謝いたします。


  出展各社の展示等絹製品とその特徴
出展者名
展示等絹製品
製 品 の 特 徴
01 荒川(株) 帯締め、帯揚げ 群馬県の繭・生糸で京組紐の技術で作った帯締め、丹後ちりめんの技術で作った帯揚げ。
02 綾の手紬染織工房 小石丸きもの 蚕品種「小石丸」の繭を座繰り繰糸した生糸を用いた藍染の花織のきもの。
03 (株)伊と幸 松岡姫(白生地・色無地)、又昔(白生地・色無地) 蚕品種「松岡姫」「上州絹星」の繭から繰糸(器械、座繰り)した生糸を用いた絹製品。
04 (株)岩田 袋帯 蚕品種「あけぼの」の繭から多条機生繰り繰糸した生糸を西陣で培われた工芸技術を生かした絹製品。
05 (株)小倉商店 本場結城紬着尺地 蚕品種「朝・日×東・海」の繭から真綿を作り、手紬糸用いて地機で絣を駆使した独自製品。
06 織匠 万勝 袋帯、先染着尺 優良繭から繰糸した生糸を用い、西陣織が持つ高度な技術の融合による、おしゃれきもの。
07 (株)銀座もとじ プラチナボーイ(絵羽、訪問着、小紋、大島紬、帯) 蚕品種「プラチナボーイ」の繭から繰糸した生糸を用いたおしゃれを追及したきもの。
08 第一衣料(株) 色無地(唐花風紋)、変り一越縮緬(紋付地)、きわみ絹紋付 茨城県の繭を用い、丹後のちりめん技術を駆使した反物。
09 (株)高島屋 振袖(誰が袖好み) 那須南に繭生産地を特定した優良繭を丁寧に繰糸した生糸を用い、光沢のあるシワになりにくい絹製品。
10 田中種(株) 後染小紋 極小紋型・伊勢型による極型模様風小紋。
11 (株)千總 振袖、黒留袖、訪問着、付下げ着尺白生地 徹底した飼育管理による優良繭から繰糸した生糸を用いたちりめんに京友禅の技術を駆使した絹製品。
12 西陣織工業組合 マフラー、新小石丸ネクタイ、テーブルセンター、繭クラフトキット ふい絹、紡ぎ糸を使用した手織りのマフラー。
蚕品種「新小石丸」を用いたネクタイ。
13 (株)西陣まいづる 袋帯春姫 群馬県の繭で繰糸しされた生糸を用い、金銀糸を取り入れた西陣織の伝統的技術を駆使した帯。
14 日本蚕糸絹業開発協同組合 白生地、紋付地長襦袢地、胴裏地、八掛地 群馬県の多様な蚕品種繭(新小石丸、世紀二一、ぐんま黄金、ぐんま200、上州絹星)から繰糸した生糸を用い各生糸の特徴を活かし、加工技術・工程にこだわった絹製品。
15 (株)平田組紐 冠紐、綾竹組紐、貝ノ口亀甲組紐、貝ノ口浮舟 蚕品種「ぐんま200」の特徴を生かしたコシのある風合いと美しい染色、しなやかな締め心地の帯締。
16 (株)桝屋高尾 渡来錦帯 正倉院に現存する渡来錦を「新小石丸」生糸で再現した織物。
17 (株)丸万中尾 江戸小紋 製造を信州にこだわった製品を蚕品種「ぐんま200」でつくった江戸小紋。
18 宮階織物(株) 笹絹織訪問着(燕子花・藤)、笹絹織着尺(雲龍・昇龍・喇叭水仙) 福島県産の選別された繭で繰糸した生糸を用い、西陣の御召の伝統的技術を駆使した絹製品。
19 (有)ミラノリブ アンサンブル、ボレロ、ショール 蚕品種「ぐんま200」の生糸を用い、オリジナル撚糸加工・特殊染色加工を施したシルクニットによる洋装絹製品。
20 奄美島絹推進協議会 本場大島紬、大島紬帯 群馬県の繭・生糸を用いた伝統的工芸品である本場大島紬と大島紬の技法を用いた桑染めの帯

●イベント情報
 第20回 まつり

◎ 日時:7月4日(月 )から7月7日(木)
       4日(月)から 6日(水)10:00から18:30
       7日(木) 最終日    10:00から17:00
◎ 場所:ジャパンシルクセンター(東京・有楽町 蚕糸会館)
◎ 主催:社団法人日本絹業協会/ジャパンシルクセンター

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