絹だより
第208号 〈平成23年7月1日〉

発行:社団法人日本絹業協会・ジャパンシルクセンター
ホームページ http://www.silk-center.or.jp/
絹をもっと身近に
Kぷらんにんぐ 行松啓子  


 当たり前のように、自宅で繭から糸を挽く姿に驚かされた。鍋の中には、黄色の小さい繭が浮かんでいる。約60〜80粒ぐらいからざっくり挽き出された生糸は、不均一な糸で、決して綺麗な糸とは言えない。タイ東北部の農家の庭先でよく見かける光景である。「タイシルクを織るための糸」と説明されても、タイシルクと目の前にある糸が結びつかない。タイ東北部は、タイシルクの産地として知られている。しかし、タイシルクが本当に、この出来上がった黄い生糸から作られているのか疑問である。

 ラフな紬糸風の生糸と、高級感がある滑らかな表面のタイシルクとはかけ離れている。その後のタイ東北部における調査の結果、農家の庭先で作られている生糸と、タイシルク用の生糸は異質のものであることが分かった。庭先で作られた生糸は、農家の人達が身につける布を作るための糸である。

 すなわち、それは、パーシンと呼ばれる筒状巻きスカート、シャツとパンツが上下揃った野良着など日常着の素材である。絹素材は、高級服地または高級装飾品を作るモノと考えていた私達には、想像もつかない事である。購入する衣類も多いので完全な自給自足ではないが、今も、タイ東北部では、自給自足的な養蚕、糸作りそして織物作りが受け継がれている。

 自給自足的な養蚕、糸作り、織物作りとはどのようなものか、絹製の野良着作りを例に、説明してみたい。タイ東北部における養蚕は、農家における主婦の家事仕事のひとつに過ぎない。女性が一人で行うことが出来る程度の小規模なものである。カイコの飼育スペースは、屋外に木で組んだ棚を置き、それを網で囲っただけの簡単なものである。

 飼育されているカイコは、黄い繭を作る熱帯種であり、蚕種は休眠しない多化性蚕品種である。熱帯種の幼虫が作る繭は小さく繭層歩合は悪い。繭糸の繊度は約1.5デニールと細く、その繭糸長は400〜500メートルと短い。その為、熱帯蚕品種の繭から作る生糸は、古くから織物のタテ糸には不向きとされてきた。

 しかし、タイ東北部の農家では、この生糸をタテ糸として、織物作りを行っている。農家では、自家採種した蚕種の自然孵化を待って飼育し、繭が作られたら羽化する前に繰糸する事を繰り返し、生糸を作り溜める。飼育環境の悪さから、掃き立てした蚕種の量と、収繭量は大きく違い、繭が採れない時も多い。

 農家では、収繭量は期待せず、繭が採れれば採れた分だけ糸を挽き、生糸で保存しておく。その生糸を用いて、農閑期に機を織る。今も絹の野良着を作り続けている民族は、農閑期に白生地を織り、農閑期の終わりに野良着を仕立て、マックルワ(和名:タイコクタン、学名:diospyros mollis.)というカキノキ科の植物を用いて、その仕立てた野良着を黒く染める。

 そして、5月から始まる農作業時に真新しい黒い野良着を身に付ける。着用している人々は、黒染めされた絹製の野良着について、その快適さを強調する。マックルワの薬効からくる虫除け効果などもプラスされて、絹の吸湿性、放湿性が野良着として最適であるとのことである。この野良着だけではなく、絹素材の日常着を着用している人々は、同じように絹素材の快適性を指摘する。

 このような理にかなった自給自足的な養蚕、糸作り、そして織物作りを目の当たりにし、絹素材の良さを最大限に生かしたモノ作りが、日本で出来ないものか考えた。5年間暮らしたタイ東北部から帰国後、養蚕が出来る地を求めて、群馬県中之条町に自宅兼工房を構えた。絹素材を使った自給自足的なモノ作りを目指しての出発である。居住して10ヶ月で、養蚕を始める環境までにはまだ時間を必要とする。

 絹織物作りと平行させて、絹製品の良さを知ってもらうこと、怖がらずに絹製品を取り扱えるようになることを目的に、「絹をもっと身近に!」というトークイベントを、2011年1月より主催している。月に1回程度の催しで、タイの絹製品およびそれを取り巻く環境などを例に、絹製品を見て、触って、話をするというものである。この催しのきっかけは、化学繊維、合成繊維を扱う方々の前で、講演をさせて頂いたことにある。

 その時、養蚕および絹の話を始めて聞いたという方が殆どであった。化学繊維、合成繊維は天然繊維を目標に作られて来たはずである。絹素材も目標のひとつであったはずである。養蚕および絹そのものについて語られる事無く、開発ばかりが先行してしまったことに疑問を感じた。繊維業界の最先端で作る側の人々が知らない、または知ろうとせず過ごして来た部分を、消費者はもっと知らないのではないだろうかとも思う。

 もちろん古くから養蚕の盛んな群馬県では、養蚕のことは良く知られている。しかし、絹製品と養蚕が余りにかけ離れた存在だったのではないだろうか。絹は高級な和装品または洋装品の素材であり、洗濯が家でできないなど取り扱いの厄介な繊維であると認識され続けて来た。

 先に述べたタイ東北部のように、自給自足的に絹製品を生み出し、それを使用するという生活は、今の日本では不可能に近いが、もう一度、絹製品を見直すことが出来ないかと思う。「絹をもっと身近に!」というトークイベントの延長として、5月に「絹を染める」という会も主催した。中之条町六合地域で採取した山桜の枝や幹を煮出したものを染液とし、ミョウバンまたは古鉄から取り出した酸化鉄の水溶液を媒染液とした。染める材料は、市販の染色用のスカーフも用意したが、絹製品なら何でも持ち込み可とした。

 昔買ったという少し黄ばみ始めた白いスカーフを持参した方、シミが出た古い着物の裏地を持参した方など様々である。水に浸漬した後、山桜の染液に浸す事と、媒染液に浸す事を繰り返し発色させる。単純な行為を繰り返すことで染め重ねる。参加された方からは、「簡単ね。」という感想が多かった。絹の染まりつけの良さは、あまり知られていない。染める時、水に浸しても大丈夫なのだから、洗濯も自分で出来るはずである。

 古い布でも、再利用できるなど、単に山桜で染めたというだけではなく、絹の持ち合わせた特性も体験して頂いた。見て、触り、そして体験して頂く事で、参加して頂いた方々には、絹が随分身近なものになったのではないかと思う。絹を普及させるという大胆な考えは持ち合わせていないが、天然素材の一つとして絹を見直すきっかけに繋がればと思う。自然志向でかつエコが叫ばれる昨今、箪笥で眠っている絹製品にもう一度目を向けることも大事ではないだろうか。絹は、リメイクにも耐えうる素材である。カイコという生き物が生み出した素材として、その生命力を大事にしなくてはならないとも思う。

 絹をもっと身近に感じて頂ける方が、一人でも多くなることを願っている。

 写真 上から
  タイ東北部で見られる繰糸風景
  自家製の絹素材の日常着を身に付けた農家の婦人
  3齢のカイコと熱帯種の生糸
  山桜の染液に浸した絹布
  絹を染める会での風景

 

平成23年度第2次分
純国産絹マーク使用許諾について
社団法人日本絹業協会  

 純国産絹マークの平成23年度第2回審査会を6月30日(木)に開催しました。今回、9件 (うち、製品・履歴・数量の追加申請が1件、履歴の変更、履歴・数量の追加申請が1件、製品・数量の追加申請が1件、生産数量の追加申請が6件)から申請があり、審査委員会で審査した結果9件に対し、7月8日(金)付けで純国産絹マーク使用許諾する旨を通知しました。

純国産絹マーク使用許諾者は次の9件です。

純国産絹マーク使用許諾企業名
(表示責任者名)
表示対象
製品名
表示対象
数量
生産履歴の内容
(提携養蚕農家・企業等)

(生産履歴の変更、生産履歴の追加、生産数量の追加)
株式会社銀座もとじ
代表者名 泉二 弘明
東京都中央区銀座4−8−12
コチワビル3階
(担当者:青江良和)
Tel 03-5524-3222
表示者登録番号 011


結城紬

染織作家作品
(帯地)
白生地
(着尺)
  (履歴の変更)
     5反

  (履歴の追加)
     5本
  (数量の追加)
    35反
蚕品種  プラチナボーイ
繭生産  千葉県、茨城県養蚕農家
製 糸  碓氷製糸農協
真綿掛  佐藤米子
糸取り  水野商店
製 織  松本和子、田勇機業(株)
染 織  久保原由佳里

(生産数量の追加)
日本蚕糸絹業開発協同組合
代表者名 小林幸夫
群馬県高崎市問屋町3−5−3
(担当者: 土井芳文)
Tel 027-361-2377
表示者登録番号021

寝衣(おくるみ)

  (数量の追加)
   300枚
制作企画 絹小沢(株)
(側)
繭生産  群馬県内養蚕農家
製 糸  碓氷製糸農協
製 織  (株)カブト
精練加工 (有)江島屋染工場
(詰物)
繭生産  福島県内養蚕農家
真綿生産 石川彦太郎商店  
縫 製  中里諒子
(生産数量の追加)
株式会社牛島屋
代表者名 武内 保衛
富山県富山市中央通り1丁目6−9
(担当者:武内保衛)Tel 076-420-3450
表示者登録番号 082
胴裏絹
(酵素精練)
  (数量の追加)
   300枚
制作企画 日本蚕糸絹業開発(協)
繭生産  群馬県内養蚕農家
製 糸  碓氷製糸農協
製 織  坪金工業(株)
精練加工 (有)江島屋染工場
(生産数量の追加)
株式会社布屋呉服店
代表者名 小長井 宏員
静岡県富士宮市西町5番21号
(担当者:小長井宏員)Tel 0544-27-2580
表示者登録番号 144
胴裏絹
(トルマリン加工)
   (数量の追加)
   240枚
制作企画 日本蚕糸絹業開発(協)
蚕品種  ぐんま200
繭生産  群馬県内養蚕農家
製 糸  碓氷製糸農協
製 織  丸進機業(株)
精練加工  (有)江島屋染工場
(生産数量の追加)
装いの道株式会社
代表者名 山中 啓嗣
東京都千代田区麹町4丁目4番1号
(担当者:山中啓嗣)Tel 03-3230-3010
表示者登録番号 070
胴裏絹
(トルマリン加工)
(新小石丸)
  (数量の追加)
   300枚
    30枚
制作企画 日本蚕糸絹業開発(協)
蚕品種  ぐんま200、春嶺鐘月
ぐんま200・新小石丸
繭生産  群馬県内養蚕農家
製 糸  碓氷製糸農協
製 織  丸進機業(株)、(有)長島織物
精練加工 (有)江島屋染工場
(生産数量の追加)
第一衣料株式会社
代表者名 金子 守隆
東京都中央区日本橋富沢町12番20号
(担当者:金子守隆)Tel 03-3664-3231
表示者登録番号 068
後染反物
(色無地)
  (数量の追加)
    70反
繭生産  茨城県南地域養蚕農家
製 糸  碓氷製糸農協
製 織  三共織物(株)
染 色  (株)中田勝
(生産数量の追加)
西陣織工業組合
代表者名 渡邉 隆夫
京都市上京区西堀川通元誓願寺上る
     堅門前町414
(担当者:碇山俊光)Tel 075-432-6131
表示者登録番号 088
マフラー   (数量の追加)
  4000枚
繭生産  群馬県安中市養蚕農家
     福島県川俣町養蚕農家
製 糸  碓氷製糸農協
紬 糸  (有) 関根商店
染 色  (有)西山染工場
製 織  自組合
株式会社西陣まいづる
代表者名 舞鶴 一雄
京都市上京区五辻通大宮西入五辻町39
(担当者:舞鶴一雄)Tel 075-441-0001
表示者登録番号 112
袋帯
(金銀糸5%以上)
  (数量の追加)
   200本
制作企画 京都きもの友禅(株)
繭生産   上原高好、木村努
製 糸  碓氷製糸農協
染 色  にしき染色(株)
製 織   自社
(製品の追加、生産履歴の追加、
       生産数量の追加)
株式会社千總
代表者名 西村 總左衛門
京都市中京区三条通烏丸西入る
(担当者:俵 武司)Tel 075-211-2531
表示者登録番号 001
(製品の追加)
後染反物
(喪服・色無地)
(喪服・色無地)

染反物
(振袖)
(色無地)

後染反物
(振袖)
(訪問着・付下)
(振袖)



   100枚
   100枚


   180枚
   120枚


   400枚
    60枚
    40枚

繭生産  福島県養蚕農家
     宮城県養蚕農家
     岩手県養蚕農家
     青森県八戸市養蚕農家
製 糸   松岡(株)
製 織  河藤(株)、小熊機業(有)
     (株)松浦絹織、加賀グンゼ(株)
     (株)竹林、美雲織物(株)
染色加工 自社
  次回審査会の予定は平成23年8月25日(木)です。申請される方は審査会の10営業日前(8月11日)までに 正式申請書を提出してください。

ホームページ

バックナンバー目次へ