絹だより
第209号 〈平成23年8月1日〉

発行:社団法人日本絹業協会・ジャパンシルクセンター
ホームページ http://www.silk-center.or.jp/
ネクタイビジネスの取り組みについて
大平織物株式会社 平井基之     
 現在、日本のネクタイ製造業者の置かれている状況は深刻である。

 バブル崩壊以来、ネクタイマーケットの縮小、安価な中国製ネクタイの大量流入、多数のネクタイ取扱い業者の倒産、クールビズによる夏場のネクタイ需要の激減、そして過日の東日本大震災による甚大な被害があげられます。
 その結果、省エネ、節電の名の下にスーパークールビズと云う猛暑対策。中でもネクタイは常に悪者扱いを受けて、殆どの日本人の首回りからネクタイが消滅するほどの風俗の変遷を齎(もたらす)結果となりました。
 このことは本当に日本人に取って良いことなのか?テレビのニュース番組や政治家の会合等、マスコミで流れるノータイの男性のだらしない姿、企業や役所、銀行のスタッフの姿、これらは適切な服装と言えるのか?ドレスコードのあるレストランやゴルフ場の理由は如何なものであろうか?ウインブルドンの実況中継を見ても分かる通り、摂氏30度にも達する蒸し暑い会場で、しかもテニス観戦に於いてもネクタイ姿の男性が散見する状況で察する通り、ネクタイがどれほど人間の体感に影響するのかは疑問であります。
 このような極端な変化は日本人の画一的志向の成せる業であります。
 ともかく、ネクタイ業界にはクールビズと云う怪物が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)しています。
 
 弊杜に於いても、約10年前の取引先企業売上げの90%以上の客先企業が既に倒産、廃業し、昨年から今年にかけても取引企業の内、5社が倒産、廃業してしまったと云う惨憺たる状況であります。
 どんなに新しい得意先を開拓しでも、その取扱い業者が次々と無くなってゆく現況では、ネクタイビジネスの将来を考えると暗澹(あんたん)たる思いで一杯です。

 弊杜では近年クールビズに対応して、以下の通り数々のネクタイ開発を行って来ました。
1、清涼感のあるカラーリングの研究
2、清涼感のある織物組織の開発(種々の偽紗織組織など)
3、サラッとした手触りを作り出す為の工夫(強撚糸、諸撚糸、スーパーフラット糸、バンブーファイバー=竹糸、アバカ=マニラ麻などの使用)
4、水溶性ビニロンによる独自の皴加工(水溶性ビニロン=ソルブロンを生地に織り込み、水で縮ませて、湯で溶かして緩やかなシワ加工を行う)
5、ネクタイ縫製の際に、薄くて、軽い芯地を採用した。(エアーフィット)
6、製品の抗菌、撥水加工を施す。
 本年は新たに偽紗織と平織とのコンビネーション組織の生地を開発。軽くて柔らかく、弾力のある丈夫な芯地を用いて手縫いによる丹念な縫製。そして純国産糸を使用して、様々の手法を用いて爽やかで、軽くて、丈夫で、美しい発色の生地を製造しています。
 しかしながら、如何に優秀な製品を製作してもクールビズと云う名の下にネクタイの潜在需要をも圧殺してしまうような歪んだ社会政策の結果、夏場のネクタイの需要は激減し、前述の結果を生み出すこととなりました。

 現在弊社としては、このような状況の中で、手を拱いて事態の好転を待っているだけでなく、何とか活路を見出すべく、以下の取り組みを行っています。
1、種々の野蚕糸や希少蚕糸を用いて独創的な服地を開発。
 アタカス、クリキュラ、天蚕、スーパーフラット他
2、特殊な糸使いや染色、整理を施し、マフラー、スカーフ、ストールを開発。
3、ネクタイ生地を利用した牛革本仕立ての名刺入れ、札入れ等の製作。
4、ネクタイ生地を利用したペンケース、小銭入れ、巾着、印鑑入れ等の製作。
5、ネクタイの端切れ等を利用して西陣織の栞を製作開始。
6、その他ネクタイ生地の活用を多岐に亘り模索してゆく。
7、ローカル色のあるオリジナル性に富んだデザインの開発。(京の祭、行事、四季、伝統的和柄等)

ぐんま×200ネクタイ
スーパーフラットシルク
天蚕糸入りネクタイ
新小石丸ネクタイ

 弊社の国産糸への取り組みに関しては、以下の通りです。
1、純国産糸(新小石丸、ぐんま×200、世紀×21等)
 国産糸の良さを最大限引き出す為には、製織の際に出来る限り細い糸使いで多くの打ち込みを入れゆくかが一つのカギとなります。その結果薄くてしなやか、しかも丈夫で光沢のある生地を作り上げることが出来ます。しかしながら、この最良の手法は一方では労働生産性を極端に下げる為、量産することには不向きです。
 例:通常、ネクタイの生地は21中3本片撚り糸を3本から4本位合わせて使用することが多い。その際の打ち込みは基本的に80〜100横です。しかしながら、それを単糸使いして打ち込み密度を3〜4倍。或いはそれ以上にすれば生地の織上がりは劇的に変化します。
 生地の表面はフラットで手触りが良く、手持ちが薄くて柔らかく、そして丈夫で素晴らしい発色が得られます。
2、天蚕糸
 織柄のアクセントになる部分に生のままの天蚕糸を使用して、天然の美しい色合いを楽しむ事が出来ます。
3、スーパーフラットシルク
 緻密な織生地の中に挿入することで独特な光沢の変化や手触りが得られます。
 とにかく弊杜としては、斜陽のネクタイビジネスを何とか維持発展してゆけるよう、最大限の努力を惜しまずに続けていくことが最大の責務と考えています。そして又、日本人がネクタイと云う国際的風俗アイテムを正しくリスペクト(尊重)していけるよう切望してやみません。

第8回『日本の絹展』を開催
〜国産シルクをもっと暮らしに〜
社団法人日本絹業協会       

 当協会は、7月26日から8月1日まで、日本橋高島屋8階ギャラリーに純国産絹コーナーを設置し「第8回日本の絹展〜伝統的工芸から創作デザインまで 染・織で綾なす〜」を開催しました。
 「国産シルクをもっと暮らしに」をテーマとし、純国産絹製品や国内で製織・製編、染織加工した伝統的工芸品から最新の創作デザインの絹製品まで幅広く展示し、特に養蚕、製糸、織り、染加工等の状況をビデオで紹介したり、上州式座繰り器での繰糸、組紐の実演、カイコの飼育展示を行いました。
 生産履歴を表示した純国産絹マーク、蚕糸・絹業提携グループについての説明パネルで国産繭・生糸で作られた希少価値のある純国産絹製品の紹介を行いました。

○ 純国産絹製品コーナー
 純国産絹製品コーナーでは、ミラノリブ(群馬県桐生市)の群馬県の繭・生糸で作られた最新創作デザインのニット製品、綾の手紬染織工房(宮崎県綾町)の藍染、貝紫で染織したショール、小倉商店(茨城県結城市)の新作手紬結城紬(サフランで染織した新作の絣染め)、千總(京都市)の京友禅染の振袖の展示を行いました。
 純国産絹マークの使用許諾を得ていませんが、道明(東京都)の帯締め、新啓織物(埼玉県秩父市)の経糸にいろどり繭、緯糸にふい絹を使用した帯、丸三綿業(群馬県高崎市)の農業生物資源研究所と開発したシルクフィル(シルクわた)を使った真綿布団(角真綿を広げて真綿を作るよりも効率的に作れる。)の展示が行われました。

○ 日本の蚕糸業の変遷について
 東京農工大学大学院蚕学研究室による日本の養蚕業の変遷、江戸時代から現在までの蚕品種の変遷を繭で展示説明、生きた蚕の飼育展示、世界の野蚕の繭と糸の展示が行われました。特に生きた蚕の飼育展示では、小学校
で飼育し、容易に糸を繰糸できる煮繭をしなくても水で繰糸できるカイコが展示飼育されました。小学校の先生が見学に来られ、興味を持たれました。

○ 日本の絹コーナーでは、腰光産業(群馬県桐生市)が上州座繰器で5粒繰糸を行い、いかに繭糸が細く、その繭糸を引きそろえた生糸もしなやかで光沢があることが、消費者の皆さんに感動を与えることができました。その生糸を使って染織したショールの展示がされていました。峯史仁氏(東京都)のコーナーでは、帯締めの製造実演があり、消費者の皆さんの関心を集めました。深雪スタジオ(東京都)の絹布でアートフラワー作りの実演と講習会が行われました。
 そのほか、横浜繊維振興会(神奈川県)、森博(東京都)、博多織工業組合(福岡県)、中島洋一(東京都)、染色工房鳴瀬(京都市)、コスメファーム(埼玉県坂戸市)、絹工房(茨城県)、AKIHIKO IZUKURA(京都市)、アトリエ・Kinami(東京都東村山市)、秋山刺繍研究所(神奈川県鎌倉市)、カワノ(新潟県五泉市)らの各出展者の参加を得て、自ら制作した絹製品の展示即売を行ってもらい、会場への集客に努めてもらいました。

 今後、今回のように絹製品製造者(製織、製編、染色等)が自ら製造した絹製品の展示販売する場で、多くの消費者に純国産絹製品の存在、製造技術の伝承の重要性を知ってもらい、一方で日本の蚕糸・絹業の連携による日本の繭・生糸から作られた純国産(質の高い、物語性のある、生産履歴の明確な絹製品)が多く出現し、消費者にリーズナブルな価格で提供できることを望むところです。

 

 写真は上から
◆養蚕、製糸、織り、染加工等のビデオ紹介やカイコの飼育
◆千總(京都市)の京友禅染の振袖
◆上州式座繰り器での繰糸の実演

●イベント情報
生活の中で着る方の心おどらせるシルク製品
   桜岡民枝シルクニット作品展
◎ 日時:9月12日(月)〜9月16日(金)
      12日(月)〜9月15日(木)  10:00〜18:00
      16日(金) 最終日      10:00〜17:00
◎ 場所:東京・有楽町 ジャパンシルクセンター

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