Monthly Silk News(絹だより) 
第213号(平成23年12月8日)
発行 社団法人日本絹業協会
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 江戸小紋の歴史と工程
東京都染色工業協同組合 副理事長 富田 篤

 江戸小紋小史

 東京と聞くと、高層ビルが建ち並び、多くの人がカバンを手に立ち働いている町と連想されるでしょう。しかしその煩雑な世の中に、キモノの染色業が全国の三大産地(京都・金沢・東京)になっていることは、ご存知の方が少ないと思います。江戸時代には、神田から浅草周辺までの神田川から隅田川の流域にかけて多くの染関連業者が存在していました。


 日本橋界隈には大きな呉服店が数多くあり、その多くは当時軒を連ねる神田紺屋町から浅草にかけて鮮やかに染め上げられていました。これが江戸の染の文化の始まりといわれております。

 元来、江戸時代の小紋染は、大名が参勤交代のときに江戸城に上がる時に着ていた裃に柄を入れたのが始まりで、裃でどこの藩かを判別するために裃の上に背紋だけでなく文様を入れて識別するようにしたのが始まりと言われております。

 各藩が、競って紋柄に工夫を重ね、細かい文様へと競争したようです。これを自分の藩の文様を、他藩がまねできないように、〈お留柄〉と呼ばれておりました。そのような各藩の競争は、町人文化にも、波及し、野菜柄やトンボのような虫柄など楽しい柄を生み出してきました。これを〈お留柄小紋〉に対して〈いわれ小紋〉と呼ばれておりました。

 時代が江戸から明治になると裃の廃止とともに、細かい小紋は、すたれていき、徐々に文明開化の足音とともに、おしゃれな多色刷りの小紋染めが流行ってまいりました。この流行は明治の中ごろから、昭和40年代後半まで続き、昭和30年に小宮康助さんが人間国宝になられるまで裃の<お留柄>は、地色と目色の白の二色で構成される極小紋の総称として続いておりました。これが江戸小紋のルーツです。

 一方、おしゃれな多色刷りの色々な技法を型紙の中で工夫を凝らした小紋は、江戸小紋に対して〈東京おしゃれ小紋〉と、呼ばれております。

 江戸時代の〈お留柄〉は「江戸小紋」に変化し、〈いわれ小紋〉と呼ばれた江戸ッ子の粋柄をあしらった有色柄は「東京おしゃれ小紋」と呼ばれております。

 技法は同じ伊勢型紙を使う小紋であっても、江戸(東京)の染屋で染められていたお留柄の小紋を「江戸小紋」、京都で染められていた小紋を「京小紋」と呼ばれているものは、そのためです。現在は経済産業省認定(伝統的工芸品東京染小紋)のブランドの中には、江戸小紋ブランドと東京おしゃれ小紋ブランドが両立して、伝統的工芸品に指定されています。

代表的江戸小紋の柄
鮫小紋柄
大小霰(あられ)柄
弥次郎兵衛柄

 型染江戸小紋技法の解説
 
◇型地紙

 型紙は、伊勢〈三重県鈴鹿市白子・寺家地区〉で多く彫られているが、その紙は岐阜の美濃手漉き和紙が用いられている。美濃和紙の中でも型紙に使用される原料は楮(こうぞ)100パーセント天日干しの物が、最良とされている。何故、江戸小紋型紙が美濃和紙を使用するかと言えば、型紙の上から何度も繰り返して、糊を乗せて捺染加工し水洗いするため、地紙が丈夫なことと、水に強いことが大事です。そのため、江戸時代から「から傘等」に使用された、水に強い地紙が美濃和紙でした。型地紙は、2・3枚の薄引きの美濃和紙を柿渋で、塗り合わせ、耐水性を増して固めている


◇型紙の彫刻(右の写真)

 柿渋で固めた地紙を3・5枚重ねて一度に彫り抜く〈重ね彫り〉が一般的で、1枚だけ彫ることは、あまりない。重ねて彫ることにより、一度に型紙が3・5枚できるのである。但し、一度に彫る為には彫刻刀の善し悪しが肝心である。彫り師は彫刻刀も彫り師自身が作り、彫刻刀の鋼(はがね)の善し悪しで、彫り味が決まると言われている。江戸時代日本刀は世界でも有数の切れ味だそうで、その鋼を使い彫刻刀を作ったと言われている。
 現在の彫りと江戸時代の彫り味では、顕微鏡で見ても紙に対する切れ味のシャープさが違うそうである。技法には「錐(きり)彫り・突き彫り・縞彫り・引き彫り・道具彫り」等の技法があり、文様によって、彫り分けられている。
 柄文様に飛び柄等不安定な場所がある場合や型紙強度を増す場合に「紗張り」と言う技法が使われている。彫られた型紙に絹の網を漆で張り合わせ、補強する。染工房では新型が彫られてくると、気を付けないと漆かぶれすることがあった。


◇江戸小紋の染め工程

(1)小紋糊を作る。
 工房で、糯粉(もちごめ)とヌカ・塩を調整 し糊蒸釜に入れ、よく練り合わせて、小紋 元糊を作る。
 糯粉の粘りを調整して使いやすい小紋元糊を作る。

(2) 目色〈色合わせ〉
 小紋元糊に染料を入れ、試験染めをしながら、慎重に色を調合する。目色が白の場合は防染 効果の高い防染剤を入れる。

(3)型付け。
 伊勢型を使い、型の上に糊を均一にのせていく。
 糊が均一に置かれないと、柄がムラになる。型星を合わせる。型の上に彫られた送り星を合わせ、柄をつないでいく。約13メートルの生地の上に柄が均一に置かれていく。非常に大変な作業で熟練するまでに10年の修業が必要である。

目糊の調合

型付け

(4)地色糊を作る〈地色合わせ〉
 地色糊は、特に色見本と合わせないと、着る方の年齢と大きく違ってくる場合がある。そのため、何回も試験染めを行い、慎重に色を作る。配色職人は<手 秤り>といわれている。感覚と眼で色を調合するので、その色合わせの時の天気で色の出方が異なる。特に江戸小紋が地色と目色と白との対比なので、色の出し方が難しい。

(5)シゴキ〈地色染〉
 糊が乾いたところで、生地を長板からはがし、地色を染める。染料の入った糊をシゴキへらで、均一に糊を付け地色を染める。これをシゴキという。以前は板の上でシゴキをしていたが、現在はシゴキ機にて均一に糊を置き、ムラなく染める。江戸小紋の特徴の裏生地が白いのは、このシゴキ技法をしているためだ。

(6)蒸し
 地色が乾燥しないうちに、蒸気の出る蒸箱にシゴかれた生 地を入れ、90度ー100度の温度で、15分から30分蒸す。そこで、染料が生地に定着し、発色をする。蒸加減は熟練を 要する。

シゴキの色入れ

シゴキ(地染)とワク掛り

 
蒸し
 

(7)水元<洗い>
 蒸し上がった生地を、糊や余分な染料 を洗い流す。昭和30年代までは、神田川等で、生地を流し、水洗いをしていたが、河川汚染防止条例により、井戸水を汲み上げて水洗いをしている。

(8)乾燥仕上げ
 生地を棒から垂らし、干して、乾燥させる。張って生地を、乾燥させると生地本来の風合いが損なわれるためだ。 その後、生地幅を整え<湯のし>を行 い完成させる。

水洗い

乾燥

 江戸小紋の特徴

 遠目からみると無地に見え、近くによると柄が地色の中から浮き出てくるような文様で、地色と柄の線の白さがはっきり見えることが特徴です。
 一つ紋を付ければ準礼装となり、帯を変えることにより、おしゃれ着にもなるという非常に汎用性の高いキモノです。また、特に江戸小紋で使われている色は、濃度に深みがあり着用すると肌になじみ、品の良さを浮き立たせます。
 特に厳選された江戸小紋は、江戸時代より江戸〈東京〉で、染められてた伊勢型小紋を言います。東京都染色工業協同組合では、〈江戸小紋の地域ブランド商標登録〉をし、所属している組合員が、厳選された規格基準を守り、高品質な江戸小紋を送りだしています。

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 域ブランドの江戸小紋

江戸小紋証紙
地域ブランド証紙


 東京都染色工業組合の会員によって生産された江戸小紋の製品にはの証紙(江戸小紋証紙)が貼付されています。
 また、地域団体商標登録制度(地域ブランド)により、同組合会員によって東京で染色された「東京染め小紋」「江戸小紋」「江戸更紗」「東京無地染」は商標登録され、商標(地域ブランド証紙)が貼付されています。




●イベント情報

 ●入賞デザイン発表会 ー東京発表会ー

第15回 全国きものデザインコンクール

◎ 日時:平成24年1月18日(水)から19日(木)
              10:00から18:00
    20日(金) 最終日  10:00から16:00
◎ 場所:ジャパンシルクセンター 
 (東京・有楽町 蚕糸会館1階)
◎ 主催:全国染織連合会

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