Monthly Silk News(絹だより) 
第220号(平成24年7月5日)
発行 財団法人大日本蚕糸会
若い人の感覚で製作された絹の洋装

(財)大日本蚕糸会・蚕業技術研究所 井上 元   

 この5月30日から6月20日まで、有楽町のジャパンシルクセンターで、若い人の感覚で製作された絹の洋装4体が展示されました。
 これは、文化学園大学服装学部(池田和子学部長)のテキスタイル研究室(森川陽教授)とテキスタイル企画コースの学生さんが製作されたものです。私も招待いただき拝見したのですが、さる4月20日に文化学園大学のファッションショーで紹介され好評を博した作品です。コンセプトは「微細美」でして、昆虫の体の美しさを表現しています。

コンセプト「微細美」
極細1号の繭

 生地のプリンセスサテンは、蚕業技術研究所が開発したとても細い繭糸をつくる新しい蚕品種「極細1号」の繭から作られています。蚕品種開発から作品展示にいたる過程を簡単に紹介いたします。
 6年前のある研究会で織物業者の方が、純国産の14デニール糸で風合いの良い製品をつくりたいと希望されました。その声に応えるべく、蚕業技術研究所は「極細1号」という蚕品種を開発しました。育種素材に使われた原種は、昭和13年に秦信親氏が研究を開始した繭糸の細い原種に由来しますので、70年を超える長い研究蓄積の上にたって開発が進められたと言えます。
 Aという原種とBという原種の2種類の蚕が交雑されて作られる「極細1号」を、飼育された農家の方は、丈夫で飼いやすく、繰糸できない不良の繭はほとんど出ないと言われました。ただし、繭をつくる時には、蚕を回転蔟(かいてんまぶし)に入れ天井から吊すのですが、蚕が落ちやすくで苦労したとも言われます。
 おおよその繭の重さが1.70グラム、繭糸の長さが1,557メートル、繭糸の細さが1.57デニールです。このように糸が細くて長いのが特長です。一本の繭糸の太さの変化をみますと、繭の外層から内層に向かってきれいに直線的に下がっています。繭糸が細いので解じょ率は71.0パーセントと、どうしても低めになっています。

繭糸の繊度曲線

 14デニールの製糸は碓氷製糸農業協同組合にお願いしました。細い糸の繰糸でしたが、とくだんの難しさはなかったと聞きます。その糸をもとに、福島県の齊栄織物株式会社に洋装用のプリンセスサテン生地を織っていただきました。間もなく完成となる頃に東日本大震災が発生し、製織工場は被災されましたが、がんばって完成していただきました。養蚕、製糸、製織の関係者の皆様にはご苦労をおかけしたと思いますが、織り上がったプリンセスサテンを手にした時には、品種開発に関係した者として嬉しく思いました。

ジャパンシルクセンターに展示された作品4点

 若い人の感覚で製作に使用していただきたいと、大日本蚕糸会評議員の道明三保子氏に相談して、文化学園大学の服装学部をご紹介いただき話が進みました。コシの強い素材からはドレープ性の良い作品ができることを学んだとの、学生さんの声もあるようです。作品には両手をあげると翅が開くようになっていたり、タマムシの翅のように虹色的だったりと、絹を生み出す蚕から昆虫をイメージして、その微細美を描き出されたと感じられました。
写真 2枚4点
 展示中には、来客された日本や外国の方から「売り物ではないのですか」との質問もあって、「not for sale」の説明が添付されました。


純国産絹製品の魅力を訴求
―京都産業会館で「純国産絹製品展」を開催―
社団法人 日本絹業協会           


 平成24年6月2日(土)〜6日(水)まで、当協会は、京都の京都産業会館4階展示場にて「純国産絹製品展」を開催しました。財団法人大日本蚕糸会、一般社団法人日本絹人繊織物工業会、京都織物卸商業組合、社団法人全日本きもの振興会からそれぞれ後援を頂きました。(写真は株式会社千總の振袖)
(開催目的) 
 和服の一大集散地である京都にて流通業界、一般消費者等に純国産絹製品の魅力を発信することを目的としたものです。この時期は、京都・室町の染潰問屋・室町商社の商談会が集中して開催され、全国の産地問屋、呉服専門店が京都に集まる時期です。また、日程の中に土日を入れたことによりきもの愛好家などの一般消費者にも見学しやすい日程としました。
 なお、本展示会は、大日本蚕糸会が実施している「蚕糸・絹業提携支援緊急対策事業」の委託事業として当協会が開催したものであり、本年で21年度から4回目の開催となりました。
 出展者は24者で、うち洋装関係者も3者が参加し、400点余りの純国産絹製品を展示しました。
(展示の紹介)
 来場者に「出展目録」と各社の製品の特長を記述した「製品の紹介」を発行して、純国産絹製品の最大の特徴である生産履歴(川上から川下までの生産者・流通業者が提携)が明確な製品づくりをしていることを説明しました。また、製品の生産過程のパネルを展示するとともに、蚕糸・絹業提携システムの概要及びこれらを解説したビデオを放映しました。更に、養蚕用具の展示、上州式座繰器での繰糸実演、群馬県が開発した蚕品種(ぐんま黄金、ぐんま200)の蚕の飼育と営繭展示及び西陣織工業組合による繭クラフトの実演を行いました。
 なお、京都新聞が、5.31(木)夕刊及び6.2(土)夕刊(写真掲載)に記事を出してくれましたので、新聞切り抜きを持って訪れる人もいました。入場者数は、500人程度です。

華やかな展示会場
座繰器の仕組みを説明

(トピックス)
 この展示会のトピックスは次のとおりです。
1 京都室町の和装小物専門問屋は、社員教育の場としてこの展示会を活用しました。また、社内研修に使いたいと当協会発行の「シルクの手引き書」を持っていきました。
 この社員教育の場としての展示会の利用は、京都産業会館で同時に商談会を行っていた、和装専門問屋及び前売問屋も同様の社員教育の効果があるとのことで商談会を担当していた社員が入れ替わり訪れて頂けました。
 これは、@普段付き合いのない業者の多様な製品、それもそれなりの品質水準を持ったものを一同に見られるメリットがあること、A会場で展示絹製品の個々の説明が受けられるということ、B繰糸の実演、蚕の飼育展示が川下の担当者としては新鮮な体験であったこと等々が考えられます。
2 伝統工芸士の方(女性染織作家)が、シルクスーツを仕立てるための広幅(72cm巾)の白生地を入手できないかとの相談があり、織物工場を紹介しました。
3 呉服専門店(埼玉県所沢市)が、「きものの催事販売時に、ここに展示してある座繰器、養蚕用具及びパネルを貸し出してもらえないか、また実演と絹についての説明を出前で行ってくれないか。」との要望がありました。
4 たまたま、幼稚園の男子先生の卵たちが来ており、「幼稚園の子供たちに座繰りの面白さを体験させたい。」との感想が寄せられました。
5 きものコンサルタントの女性は、「座繰りが面白い。これをフェイスブック、きものプラザの情報発信の一部としてインターネットに載せて紹介したい。」と言ってこられました。
6 来場者の中には、「初めて蚕を見た。どうやって飼うのか。また、人工飼料はどのような組成で作られているのか教えて欲しい。」との質問が寄せられました。
7 その他として、この展示会の後で商談にまで至ったケースも聞いております。

繭クラフトの実演
蚕のライフサイクル(パネル)を
実物(5齢の蚕)と併せ展示


(今後の方向)
 
当展示会の開催を通じて、反省や今後の対応について言えることは、
1 当展示会をとおして、絹業界と消費者に対して、「純国産絹マークは、純国産絹製品に添付されている。」ことと、「蚕糸・絹業提携支援緊急対策事業」の存在についてアピールできたと考えています。
2 呉服専門店、前売問屋等からの意見として、「蚕の飼育、繰糸について具体的にみることができて良かった。」との声があり、これは、川下(消費者を含む)に対し、蚕の飼育展示、繰糸の実演が相当アピールするものであり、機会ある毎にこれを展示・実演する価値があることが分かりました。
3 今回の展示は、絹製品の美術館であるという評価を得ました。これは、問屋の個々のビジネスグループの展示会の境界を超え、多種多様な絹製品を展示できたことと、その展示品について生産履歴を含めた制作コンセプトを説明できたことにあると思われます。
 これは、今後純国産絹製品についての利害関係抜きの情報公開の場として育つようにも思えます。また、4年間展示会を開催してきて、言い古された 「継続は力なり」と言うことを実感しました。
4 今年の出展者は、24者であったが、21年度18者、22年度19者、 23年度20者と参加出展者は、年々増加した。増減の内訳を見ると、昨年と比べると7者の増、3者の減があった。これは、純国産絹製品に力を入れていく者、純国産絹製品を取りやめていく者がいることを示しています。
 来年度降の展示会の開催は、未定(場所、時期、趣旨)ですが、展示会の開催を継続していくことは必要で、改めて今回の展示会参加者の助言、意見も踏まえて検討していく必要があると考えています。


(出展各社の展示等絹製品とその特徴)
出展者名
展示絹製品
絹製品の特徴
荒川(株) 帯締 群馬の繭(ぐんま200)で群馬県伝統工芸士の技術で作った帯締。コシと嵩高性有り。
(株)伊と幸 着尺(一方付絵羽、
松岡姫・又昔、色無地)
蚕品種(「松岡姫」、「上州絹星」)の繭から繰糸(器械、座繰り)した生糸を用いた製品。光沢、着心地が良い。
(株)岩田 袋帯 蚕品種「あけぼの」の繭から多条生繰りした生糸で西陣で培われた工芸技術を生かした絹製品。
(株)小倉商店 結城紬(着尺地、帯地) 蚕品種「朝・日×東・海」の繭から真綿を作り、手紬糸を用いて地機で絣にした独自製品。
織匠万勝 袋帯
先染着尺
群馬の繭から繰糸した生糸を用い、西陣織が持つ高度な技術の融合による、おしゃれ帯ときもの。
(株)甲斐絹座 スカーフ
ネクタイ
山梨の繭で玉虫甲斐絹を用いたスカーフとシャンブレー効果の高いネクタイ。
(株)加藤萬 白衿
帯揚
発色性に優れた「ぐんま200」を用い、加藤萬の工芸技術を駆使した帯揚。
(株)銀座もとじ 九寸帯
江戸小紋
蚕品種「プラチナボーイ」の繭・生糸を用いたおしゃれを追求したき
ものと帯。
(株)高島屋 振袖
(誰が袖好み)
栃木の優良繭を丁寧に繰糸した生糸を用い、光沢のあるシワになりにくい絹製品。
田中種(株) 後染着尺(小紋)
名古屋帯
極型模様風小紋、江戸小紋、加賀友禅。織と染めにこだわったおしゃれな着尺と帯。
(株)千總 振袖、訪問着、留袖、
友禅着尺、色無地
極型模様風小紋、江戸小紋、加賀友禅。織と染めにこだわったおしゃ
れな着尺と帯。
富岡シルクブランド協議会 Tomioka silk
ネクタイ
世界遺産の登録をめざし、地元繭の細繊度蚕品種(富岡小町)で作った富岡製糸場に因んだブランドネクタイ。
長島繊維(株) 訪問着、
小紋、付下
東京多摩地区の繭。生繰り糸のため白度が高く光沢があり、シワになりにくい製品。
西陣織工業組合 マフラー
繭クラフト

ふい絹、紡ぎ糸を使用した伝統の手織りのマフラー。繭によるマスコット,アクセサリー細工。

(株)西陣まいづる 袋帯(典賀)
袋帯(春妃)
群馬の繭・生糸を用い、金銀糸を取り入れた西陣織の伝統的技術を駆使した華やかな帯。
日本蚕糸絹業開発協同組合 紋付地、白生地、
胴裏地、長襦袢地
群馬の多様な蚕品種(新小石丸、世紀×21、ぐんま黄金、ぐんま200、上州絹星)の繭・生糸を用い、多彩な加工技術にこだわった製品。
(株)平田組紐 帯締(冠無地)
帯締(綾竹中藤)
ぐんま200」の特徴を生かしたコシのある風合いと美しい染色、しなやかな締め心地の帯締。
(株)丸万中尾 江戸小紋
留袖
長野・群馬の繭での老舗のこだわりの製品(江戸小紋、変一越留袖)。
宮井(株 ふろしき
(本藍絞り)
岩手県の繭を使い、加工の付加価値をより高めるため、本藍を使用した絞りの風呂敷。
宮階織物(株) 笹絹織訪問着 田村・須賀川の優良な繭で繰糸した生糸を用い、西陣の御召の伝統的技術を駆使した製品。
(有)ミラノリブ スカーフ、ストール、
タイ、サマーマント
群馬県の「ぐんま200」を用いたシルクニット製品。繭を染め、色々な色の繭
を順次上州座繰器で繰糸した糸を用いて、虹色の輝きを持つ製品。
(株)やまと 袋帯 金銀糸を用いて西陣織の技術を駆使し、改良した織機で紋つづれ帯を製作。染色性に優れたふっくらとした帯。
(株)龍工房 帯締 群馬の繭を生繰りする。光沢があり、しなやかで、伸縮性がある。伝統的工芸品指定品。
奄美島絹推進協議会

イベント情報

  純国産絹製品展示コーナー
ふろしき展 正絹ちりめん(本藍絞り)のいろいろ
宮井株式会社(京都市中京区)

◎ 日時:平成24年7月9日(月)〜8月9日(木)10:00〜18:00
            8月10日(金)最終日  10:00〜16:00
◎ 場所:ジャパンシルクセンター
       東京・有楽町 蚕糸会館1階ルクセンター

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