Monthly Silk News(絹だより) 
第223号(平成24年10月2日)
発行 財団法人大日本蚕糸会
2012(平成24)年リニューアルオープンを迎えて
伝え続ける絹の魅力

シルク博物館副主幹 石鍋 由美子   
リニューアルオープン
 横浜市中区山下町にあるシルク博物館は、2012(平成24)年4月25日(水)にリニューアルオープンしました。今回は、前回のリニューアルから12年経っていることもあり、展示照明のLED化などの設備機能の更新とともに、分かりやすい展示や工芸美の鑑賞環境の質的向上を中心にし、2010(平成22)年秋頃から計画の検討がされました。
 途中、東日本大震災があったことにより計画の延期を余儀なくされましたが、2011(平成23)年9月に再度計画の検討がなされ、その結果、簡易なプロポーザルによる提案を受けて行うこととしました。10月中旬には施工会社が株式会社丹青社に決定しました。その後より具体的な改装計画を検討・調整することとなりましたが、予算的な制約があったため全面改修とはならず、蚕や絹を紹介する常設展示部分を生かした改修、絹服飾工芸品を展示する2階の外装の一新、そして展示照明のLED化を極力進める計画内容とし、2012(平成24)年1月から4月24日までを休館して工事を行いました。

 次に、新装となったシルク博物館の様子を紹介します。
 先ず、博物館への導入部分では、シルクセンター内の入口からは桑の葉をモチーフとした床と壁で来館者を誘い、海側の入口からは、やはり桑の葉を印刷したスクリーンにより来館者を迎えます。博物館のフロアは、1階に「ふしぎファーム」と「しらべライブラリ」、2階は「シルクのあゆみ」の3部構成になっています。

 「ふしぎファーム」は蚕の飼育から絹ができるまでを紹介し、蚕の生態観察や生糸の特性、染色や織物など製品ができる工程を展示しています。改装後の常設展示コーナーは、仕切りとなる壁面がないために開放感のある展示室となりました。建物の構造上、展示室内に点在する柱は、間接照明の効果を活かした光柱として登場し、やや低い天井ながらも圧迫感を感じさせない空間になりました。説明グラフィックは壁面だけではなく、めくり式、ブック型などを取り入れたことで、特に校外学習で来館する小学生は遊び感覚で展示を見ている様子が見受けられます。

 「しらべライブラリ」は「絹と横浜」、「絹と生活」、「シルクの未来」のコーナーがあり、横浜における絹の歴史や生活の中の絹製品に加えてこれからの絹の可能性を紹介し、日本絹業協会が許諾を与えている純国産絹マーク使用許諾者一覧も展示しています。当博物館はシルクの情報発信基地になることも目指していますので、シルクに関する研究機関、大学、団体などからも協力を得て、来館者に新しい情報提供を行っていきたいと考えています。
【写真1:1階 常設展示風景】

 博物館の2階にある「シルクのあゆみ」のフロアは、絹服飾工芸品を展示する美術館的空間作りを目指しました。展示ケースが大きいこともあり、全面改修をすることはできませんでしたが、展示ケースの外装と展示場床面とを黒を基調としたことにより、重厚感が出て絹の工芸美を鑑賞できる展示室となりました。

 所蔵資料のほとんどが染織資料であるため照明に重点をおき、劣化や褪色の防止とランニングコストの削減も兼ねてLED照明を導入しました。LED照明は紫外線域の波長成分を含まないとされていますが、照度は80ルクス以下としているため1階展示室から比べるとやや暗く感じます。しかし、ケース内には演色性の高い間接照明とスポット照明で資料本来の色を忠実に再現し、通路には“光溜り”のスポットを配置して、暗くなりすぎないように来館者を誘導しています。
【写真2:2階 会場風景】

 また、1階にあるイベントホールは、主に特別展や講演・講習会などに使用していますが、ハロゲン電球による照明をLED照明に変え、電気料の節減はもちろんのこと、光量の確保、点灯消灯が頻繁にできるなど利用面でも幅が広げられるようになりました。

 なお、今回LED化できなかったところについては、ハロゲン電球の生産も減ってくる現状も考え合わせると、いずれLED照明にする必要があると考えています。
写真1:1階常設展示風景
写真2:2階会場風景
オリジナルキャラクター「まゆるん」
  今回改装なった博物館に相応しく、オリジナルキャラクターとして「まゆるん」を新たに創ったことがあります。繭とカイコガを思わせる愛らしいキャラクターとなりましたが、名前は小学生からの公募で決定しました。2月13日(月)〜2月29日(水)まで募集し、188名、148種類の応募がありました。シルクセンターの職員一同で厳選なる審査を行った結果、横浜市内の小学校4年生信岡亜希さんの「まゆるん」に決定しました。信岡さんは「まゆるん」を応募した理由として、「キャラクターを見てかわいいイメージで名前をつけた」と話していました。信岡さんには4月29日(土)に行われたリニューアルオープンセレモニーにおいて表彰と記念品の授与をしました。

 この「まゆるん」は展示グラフィックの中にも登場し、当博物館の案内役となっていますが、エントランスのステージに高さ180cm大の人形も職員の手で制作しました。土台となるボディに約1kgの角真綿(繭約3,000粒分)を引き伸ばして何層にも貼り付けました。手はシルク生地に真綿を詰め込み、触角を模したものにも染めた真綿を巻きつけて、真綿でできた「まゆるん」が完成しました。現在のゆるキャラ人気もあってか、小学生だけではなく高校・大学生や大人の方々にも人気があり、記念撮影をしたり、握手をしたり、なかには抱きついてしまいそうになる方もいます。当館としては予想以上の反響がありました。

 「まゆるん」に触っている方に真綿が使われていることをお話すると、真綿と棉(木綿)の違いがわからない方が意外といることに驚かされます。シルク特有の真綿の感触の良さに感嘆の声があがりますが、そんな時に真綿と棉の話をすると熱心に聞き入ってくださる方が多いのです。
【写真3:オリジナルキャラクター「まゆるん」】
写真3:オリジナルキャラクター「まゆるん」

小学校の団体見学受入
 シルク博物館を訪れる団体見学者のなかで大半を占めるのは小学生の団体です。横浜市内をはじめ神奈川県下の小学生がほとんどですが、3年生が理科教育の一環として蚕を飼育していることもその要因の一つかと思われます。蚕の飼育は当館の蚕種配布事業によるものがほとんどです。

 蚕種配布事業は、1999(平成11)年から主に小学校向けに実施しています。蚕種とは蚕の卵のことで、これは神奈川県蚕糸検査場の閉所に伴って当館が引き継いだ事業です。今年度も5月11日(金)、12日(土)の両日に飼育の仕方の説明会とともに配布事業を行いました。配布は事前申込による有償配布(注)となりますが、神奈川県内、東京都内の小学校、幼稚園、保育園などから約550件の申込みがありました。昨年度からは土曜日にも説明会を設けたことで、小学校の先生が大勢参加されるようになりました。蚕の飼育について先生方に周知ができて、蚕種配布事業の蚕飼育に伴う問合せ件数は減ってきました。それでも、運動会などの学校行事との関係で孵化時期を調整するために誤った冷蔵保存などをして孵化できなかったり、孵化していたはずの毛蚕(けご)がいつのまにかいなくなったなどと慌てて電話をしてくることも数件ありました。こうした事業を通して、学校や先生とのつながりもでき、校外学習として当館を選んで来てくださるのではないかと思います。

 見学にあたっては生徒数、滞在時間にもよりますが、蚕の説明に加えて、展示の見学のほか機織りや糸繰りの体験などを通して、シルクに親しんでいただいております。リニューアル後の見学風景を見ていると、全体を見渡せる「ふしぎファーム」で、次々と目に入る展示に夢中になって見入っている様子が見られます。

 子どもたちがまず集中するのは体験できる機織り、糸繰りで、機織りは時間の関係で緯糸を1〜2本織り込む程度ですが、長蛇の列を作るほどの人気です。繭からの糸繰りは針金ハンガーとペットボトルを利用した簡易糸繰り器で巻き取ります。煮繭して糸口を出した繭を水の張ったボールに7〜8粒入れ、ハンガー製のハンドルを通したペットボトルに巻き取っていくのですが、これも夢中になってまわしています。

 人差し指で巻き取られる糸を触ってもらい感想を聞いてみると、「かたい」「やわらかい」「べたつく」「ぬれてる」「光ってる」など、指から伝わる感触を子どもたちの言葉で聞くことができます。また、触れるコーナーには繭、生糸、撚糸した糸、絹糸、スカーフ、真綿、真綿紬糸、天蚕の繭と糸、綿花、芭蕉糸、化学繊維などが置いてあり、順々に触ってもらいます。ここでの多くの声は「気持ちいい」といった感想です。真綿を触って「ふとんにしてみたい」という声もありました。

 リニューアルに伴い新たに導入したものとして「めくり式」と「ブック型」の展示がありますが、隠れているものを探しているような錯覚になるのか、こどもたちは熱心にめくっては説明を読んでいます。もしかすると壁面にある説明よりもよく読んでいるのかもしれません。そして、当館で用意しているワークシートや学校で配布される校外学習の栞(しおり)、ノートなどに書き込みをしているこどもたちが以前よりも増えているようです。

 こどもたちにとって書くのにちょうどいい展示台が増えたことにもよるかもしれませんが、仕切りのあった展示室に比べて、自然と目に飛び込んでくる情報をつかもうとしているのではないかと思ってみています。当初、開放感のある展示室では子どもたちが走り回るのではないかと懸念もありましたが、ところどころに配した展示台に興味もひかれるためかそのような心配はいりませんでした。

 団体見学に対応するため、職員も会場内で体験指導や個別の質問を受けていますが、毎回のように蚕のことに興味を持っていることを実感します。蚕種配布事業とともに小学校の団体見学は重要な活動の一つとして受け入れていきたいと思います。
【写真4:小学校の団体見学】
写真4:小学校の団体見学
写真5:世界一薄いシルク生地のウェディングドレス

美しい日本の絹 ユミカツラブライダルコレクション
 今回の博物館のリニューアルの柿落(こけらおとし)として、春特別展「美しい日本の絹 ユミカツラブライダルコレクション」を開催しましたが、最後にこの特別展について紹介します。
 会期は2012(平成24)年4月25日(水)〜6月10日(日)、開館日数は41日間でしたが、入館者7,138名と多くの方々にご来館いただきました。日本のブライダル界の第一人者である桂由美氏のブライダルコレクションを一堂に展観できるとあって、服飾・ブライダル・観光関係の学生をはじめ多くの方々にご来館いただきました。ウェディングドレスやイブニングドレス(ウェディング用)など約70点のドレスを展示しましたが、黒を基調とした展示室に生まれ変わった2階に華やかなドレスが展示されている様子は、まさに当館のリニューアルに花を添える特別展となりました。期間中には桂由美氏による展示解説が2回あり、大勢の方々にご来館いただきました。

 桂氏は友禅や絞りなどの日本の伝統技術を駆使した生地を用いたり、日本の古典模様や素材、帯結びをアレンジした欧米向けのドレスなどを発表しており、その豊かなデザイン力による世界は限りないものに思えます。その中でもひときわ目を引いたドレスは世界一薄いシルク生地によるウェディングドレスです。これは福島県の齋栄織物株式会社が開発した超極細絹糸を使った世界一薄い絹織物で製作したドレスです。同社は第4回日本ものづくり日本大賞(経済産業省2012年)の内閣総理大臣賞を受賞(14デニール)していますが、それよりも薄い8デニールで作られたドレスで、ケース越しに見ただけでも軽く、「妖精の羽根」と名付けられたのもうなずけるものです。シルクの限界に挑戦した同社の意気込みを、桂氏がドレスに仕上げた逸品でした。
【写真5:世界一薄いシルク生地のウェディングドレス】

おわりに
 1959(昭和34)年に開館してから54年が経ちました。横浜市山下町1番地という、開港当初に横浜で最も多くの生糸を輸出した英国総合商社のジャーディン・マセソン商会があった跡地にシルク博物館はあります。日本の経済を支えた蚕糸業を後世に伝え、現在の蚕糸にかかわること、これからのシルクを紹介していくことが当シルク博物館の使命の一つであると考えています。生糸貿易で栄えた横浜からシルクの情報発信をしていけるよう、今後とも関係諸機関のご協力もいただきながら活動していきたいと思います。

(注)蚕種配布事業は例年4月に受付を行い、5月中旬頃に配布します。今年は約500粒を500円で配布しました。申込にあたっては当館HPから申込書をダウンロードしていただき、ファックスにて送信していただきます。蚕のエサとなる桑葉の確保ができること、来館して受領することが前提となります。

シルク博物館のご案内
 住 所 神奈川県横浜市中区山下町1番地
 電 話 045−641−0841
 休館日 月曜日(月曜祝日の場合は翌日)、展示替休館、年末年始
 入館料 一般500(400)円 シニア300(200)円 高・大学生200(150)円 小中学生100(50)円
     ( )内は団体割引(20名以上)の料金  特別展は別途料金
 アクセス みなとみらい線日本大通り駅下車 3番出口 徒歩約3分
 URL http://www.silkmuseum.or.jp
〜くまもと絹物語〜
地産地消のモノづくりに可能性を求めて
株式会社鶴屋百貨店呉服部長  平川 秀夫         


熊本の養蚕

 かつて西日本一の養蚕の地であった熊本が養蚕消滅の危機にある。 県の統計によると、県内の養蚕農家は1930(昭和5)年の6万9千軒をピークに年々減少。1989(平成元)年に千軒を割り込み、2010(平成22)年には8軒、11(平成23)年には6軒になった。高齢の夫婦のどちらかが働けなくなったり、機材が老朽化したタイミングでの廃業が目立つという。 生産量は、平成元年に531トンあったものが昨年の平成23年度は580Lにまで減っている。九州では、農家が繭を出荷するのは熊本のみ。鹿児島と宮崎の染織工房が自前で生産している他は、養蚕は消滅。これが、今の九州・熊本の養蚕の現状である。

くまもと絹物語
”光り輝く 一本の糸を後世へ”〜歴史に紡がれた熊本の絹の伝統文化を守る。〜
熊本の養蚕を途切れさせてはいけない。 熊本の九州の絹を守る。こんな思いのもと…。
地場の企業として、百貨店としてやれることは何だろうか?
呉服業界人として、やれることは何だろうか?
非常に大きなミッションであり、そしてまた、大きなチャンスではないかと…。
【写真1:鶴屋 くまもと物語のパンフレット】

写真1:鶴屋 くまもと物語のパンフレット


 2011(平成23)年3月九州新幹線全線開通。交通利便性が増し、熊本への観光客増が見込まれそれにあわせた「鶴屋 くまもと物語」というパンフレットの製作プロジェクトが社内で立ち上がった。タイトルの通り、熊本の魅力を発信する内容が求められる中で、ストーリー性の高いオリジナル商品群と食料品を中心としたお土産群の2本柱となることが決定。たまたまではあるが、そのプロジェクトの一員に名を連ねることとなったことが、この取組を加速させる要因となった。

◆2008(平成20)年:この純国産絹の現状と提携システムに着目し、今後の進むべき方向性を探りはじめる。このときの熊本養蚕農家数11軒。生産量は、1.2トン。

◆2009(平成21年):熊本県産繭100%の胴裏を制作。鶴屋特撰きものにはこの県産繭の胴裏を付けることからスタート、熊本の方々へ純国産絹の現状・熊本の養蚕の現状も合わせてお知らせする。

◆2010(平成22)年:白生地・長襦袢を催事毎に制作し特別企画品として発表・販売。現状をさらにお知らせをする。

◆2011(平成23)年1月:「鶴屋 くまもと物語」のパンフレット制作配布開始。寝具にも商材を広め熊本県産繭の手引き真綿ふとんも制作に加えた内容となる。
 同年2月:九州で初めての純国産絹製品展を鶴屋にて開催。熊本各メディアの取材や店頭での販売・現状告知をさらに強化する。
 同年3月:「日本蚕糸絹業開発協同組合国産シルク研究会熊本部会」の提携システム確立を承認
 同年6月:鶴屋創業60周年に絹バージョンである「くまもと絹物語」特別企画商品の企画案作成。
 同年8月:結城M小倉商店訪問し制作を依頼。
 同年9月:(晩秋繭)を使用した結城紬の制作に着手。
◆2012(平成24)年2月:2回目の純国産絹製品展を開催(シルクレポート2012年5月号/No24掲載)昨年以上の反響。絹の現状認識が進んでおり、より深く取材依頼されるメディアも目立つ状況となる。
 同年3月:結城M小倉商店2回目の訪問し手紡ぎ糸確認。制作作品の最終打ち合わせを行う。
 同年5月末:熊本県産繭100%使用 本場結城紬完成
 同年6月:平成25年春発表「くまもと 絹物語」企画案作成、作家依頼
 同年6月20日:鶴屋創業60周年大誕生祭にて結城紬発表
以上のような経緯でこれまで進め、来春発表の作品に向けての制作を行っている状況。

鶴屋百貨店創業60周年のコンセプト
 2012(平成24)年6月22日は、鶴屋創業60回目の誕生日。1952(昭和27)年創業で、百貨店では比較的に歴史が浅い百貨店である。「くまもと 絹物語」を進めるうえでも、この時に何を発表するかは大事なことで、この取組を始めた時から何を発表しようかと考えていた。

先ず、  
 (1)ひとの手の温もりを感じるもの
 (2)もの作りのこだわりがビジュアル表現できるもの
 (3)誰もが知っているもの
 (4)ロットが小さなもの
 (5)きものになった時の素晴らしさを感じられるもの
この5点を基準に、考えた中で最終的にたどり着いたのが「結城紬」。では、どんな結城紬を作るのか。日頃から結城紬を見て、販売して来て「今までにない結城紬」とは何か。頭の中で試行錯誤の繰り返し。そこで…もう一度、繭からの制作工程を順序よく見直し、どこでどんなものづくりのこだわりを作品に生かしていくのかという考え方に切り替える。

そうして導き出した今回の制作ポイントは、
 (1)繭は、熊本養蚕農家6軒の中の、有水健喜さん生産の平成23年晩秋(9月)繭
 (2)乾繭ではなく、生繭からの袋真綿づくり
 (3)160亀甲の細さの手紡ぎ糸
 (4)無地ではあるが、単色ではなく複数色を使用した多色使いの無地
 (5)糸の細さがわかるように口(くち)に絣(かすり)を入れる
 (6)地機(じばた)にて織る
 (7)純国産絹マークの添付
以上の制作基準(コンセプト)を設定し、具体的な打ち合わせを進めていくこととした。
【写真9:口織り1】【写真10:口織り2】

写真9:口織り1
写真10:口織り2


2012(平成24)年3月15〜16日:結城にて
 群馬での仕事を終え、両毛線で小山経由で結城へ入る。株式会社小倉商店さんへは2回目の訪問となる。1回目は、昨年の8月。どんな結城紬がいいか意見交換を重ね、試行錯誤を繰り返しながらスケジュール作成。 熊本県下益城郡美里町の有水健喜さん生産の晩秋繭(昨年9月)を送り出してから、糸ができるまでの約半年後である。
 結城へ到着後、出来上がった手紡ぎ糸を見せてもらった時の感動と、新たなモノづくりへのプレッシャーを感じたことは、今でも忘れられない。キラキラと光沢を放つ細い手紡ぎ糸。人の手の温もりを感じさせる、予想をはるかに超えた出来であった。 糸の量は2反分。失敗の二文字はありえない。
【写真6:熊本県産繭からの結城手紡ぎ糸1】【 写真7:熊本県産繭からの結城手紡ぎ糸2】

写真6:熊本県産繭からの結城手紡ぎ糸1
写真7:熊本県産繭からの結城手紡ぎ糸2


  制作のポイントは出来上がっていてもここからが“一発勝負”、腕のみせどころの色出しとなる。最近の結城紬の無地は、鼠系や濃地など非常にいい色が多く販売されていて、現に鶴屋に於いても「結城紬鼠三十選」などの独自企画で発表もしている。 結城紬は、経糸1,360本の平織り組織。組織としては、一番単純な組織ではあるが複数色を使って織った場合、色の組み合わせと配列でおもしろいように変化する。

 株式会社小倉商店には、今まで世に送りだしたことのある結城紬の端切れのスクラップが資料として保管されている。先ず、平成に入ってからの作品スクラップに目を通す。 次に昭和60年代。次は50年代と約40年間分の織り見本との格闘が始まった。2反分の糸しかない。どんな色?どんな配列?考えれば考えるほど難しい。見れば見るほどわからなくなる。タイムリミットは、移動予定の明日11時まで…。 結局その日は、何回も何回も見返すだけの時間に当てた。 宿に帰り、とりあえず食事を済ませ一人になって改めて思い返す。「落ち着いて…」と自分に言い聞かせながら、印象に残っている色を思い返し、頭に浮かべ…。 優先順位1から5の5反分の構想がまとまったのは、夜の12時を廻ったあたり。後は、翌朝の最終打ち合わせだなぁと「ホッ」とした瞬間に爆睡!
 16日朝9:00何度も見返した織り見本を再度開き最終確認。2点に絞り込んだ内容を告げる。この瞬間、私の頭の中には織り上がった素晴らしい結城紬のイメージがはっきりと浮かんでいたのは言うまでもない。
【写真8:昭和50年代からの結城紬の見本布】

写真8:昭和50年代からの結城紬の見本布

  2012(平成24)年5月21日(月)待ちに待った結城紬が着荷。
 ときめくような思いを胸に梱包を解く。イメージ以上の出来。自画自賛の絶品!糸の細さがイメージ以上の出来に作用している。軽さ・地風・色。素晴らしい60周年記念作品が出来上がった。 訴求用の写真撮影を済ませ、東京の(社)日本絹業協会での純国産絹マークの審査会へ作品を提出。
【写真2熊本県産繭100%結城紬】【写真3結城紬(売場展開風景)】

写真2熊本県産繭100%結城紬
写真3結城紬(売場展開風景)


  2012(平成24)年6月に入り、出来上がった作品を一番に見せたかった人のもとへ持っていくことにした。 今回の熊本県産繭の生産者、有水健喜さんと奥さんのところへ…。アポも入れず自宅に伺うと、ちょうど今年春一の養蚕中。営繭が済んだ頃。ご夫婦は、飼育場の後片づけをされていた。回転蔟(まぶし)には、きれいな真っ白な繭が沢山入っている。今年の繭は、天候にも恵まれ非常にいい出来らしい。

 早速、結城紬の出来映えを見てもらった。作品に添付されている純国産絹マークには、生産者の有水さんの名前が入っている。感慨深いような表情で手に取られ、見入る有水さん。繭からの生産工程をひとしきり説明し終えたところで、有水さんがポツリ。「今春から、まぶしば新しくしたもんなぁ。まぶしの新しかと、美しか繭の出来るもんなぁ。もうやめようかと思っとったばってん、こぎゃんやって見せてもらうと、美しか繭ばもうちょっと頑張ろうかと思とるたい。」感謝! 感激!涙が出るくらいうれしい言葉を戴いた。
【写真4:熊本県養蚕農家の方々&熊本県蚕糸振興協力会の方々】

写真4:熊本県養蚕農家の方々&熊本県蚕糸振興協力会の方々

熊本日日新聞の記事掲載
 熊本日日新聞は、熊本県の日刊地方新聞で発行部数約33万部。熊本での購読率が最も高い新聞社である。
 本年、6月6日(水曜日)から10日(日曜日)までの5日間、5回連載記事が紙面を飾った。その連載記事の題名は、「消滅寸前 養蚕は今」。執筆は、熊本日日新聞の山鹿支局長、岩下勉氏。山鹿地区は、6軒ある熊本の養蚕農家のうちの4軒が残るところである。
 今回の記事は、
 (1)高齢化する県内農家(現状報告)
 (2)業界団体が支援強化(熊本県蚕糸振興協力会の支援について)
 (3)蚕糸業の父(熊本蚕糸業の歴史説明)
 (4)”王国”群馬の製糸工場(碓氷製糸・純国産絹製品展について)
 (5)存続の動き本格化 (熊本の行政も含めた存続へ向けた協力体制について)の内容で5日間連載され、
 (6)6日目に山鹿地区・春一繭(162Kg)の出荷風景が写真とともに掲載された。
 非常に分かりやすい内容で、この記事を読まれたお客様から何人も「鶴屋でやってるあれ(くまもと絹物語)よね」と話を言ってきた。新聞の力は、やはりすごい。少しでも多くの県民の皆様に、養蚕や絹の現状を知っていただく機会となった。

終わりに
熊本に於いては、養蚕をなんとか残したいと日々懸命な努力が続いている。鶴屋としても、「郷土のデパート」として役に立てる部分を関係各所と連携し、続けて行きたいと考える。先ずは、その現状を広く県民の皆さんに知っていただき、またその輪が広がり、繋がることを願いつつ…。
【写真5:来春に向けた本県産繭の糸取(宮崎:綾の手紬染織工房 秋山先生と)】

写真5:来春に向けた本県産繭の糸取(宮崎:綾の手紬染織工房 秋山先生と


編集者の注
口織り(くちおり):反物の端のこと。そこに通常の単色無地だと80亀甲位の糸使いだが、今回は、160亀甲位(半分の糸の細さ)が解るように160亀甲の絣を(詰めで)いれている。


  純国産絹マーク使用許諾について(平成24年度第3次分)

  平成24 年9月18日         
社団法人日本絹業協会           

 純国産絹マークの平成24年度第3次審査会を平成24年9月11日(火)に開催しました。今回、5者(うち、新規使用許諾申請が2者で新規製品が4品目、使用許諾されている者の製品の追加が1品目、製品の変更が2品目、生産履歴の追加が1品目)から申請があり、審査委員会で審査した結果5者に対し、9月18日(火)付けで純国産絹マーク使用許諾する旨を通知しました。
純国産絹マーク使用許諾企業名
(表示責任者名)
表示対象
製 品 名
表示対象
数 量
生産履歴の内容
(提携養蚕農家・企業等)

(新規申請者)
(株)つたや  
代表者名:平岡幸子
(担当者:平岡幸子)
大阪府枚方市大垣内町2-5-5
Tel:072-844-1131
表示者登録番号:170



後染反物(小紋)
   (変一越)
   (紋意匠)

 

 



    15反
     5反



制作企画 田中種(株)
繭生産  JAにったみどり管内養蚕農家
製 糸  碓氷製糸農協
製 織  南久ちりめん(株)、 芝井(株)
染 色  高田勝(株)

(新規申請者)
(株)京呉服 小糸伸輔の店
代表者名:小糸伸
(担当者:小糸伸)
熊本県熊本市東区東本町1-32
Tel:096-368-2462
表示者登録番号: 171

後染反物(小紋)
   (変一越)
   (紋意匠) 


  

    25反
     5反


制作企画 田中種(株)
繭生産  JAにったみどり管内養蚕農家
製 糸  碓氷製糸農協
製 織  南久ちりめん(株)、 芝井(株)
染 色   高田勝(株)

(製品の追加)
福絖織物(株)
代表者名:丸本繁規
(担当者:丸本徹)
福岡県福岡市西区泉1-18-4
Tel:092-806-1223
表示者登録番号: 162

(製品の追加)
先染帯地
(八寸名古屋帯)

    100本 蚕品種  ぐんま200
繭生産  JA前橋管内 養蚕農家
製 糸  碓氷製糸農協
染 織  自社
(製品の変更)
装いの道(株)
代表者名:山中啓嗣
(担当者:秋山徹)
東京都千代田区麹町4-4-1
Tel:03-3230-3010
表示者登録番号: 070
(製品の変更)
白生地(帯地)
白生地(表地)

    100本
     35反
蚕品種  いろどり
繭生産  JAちちぶ管内養蚕農家
製 糸  松岡(株)
製 織  江口機業(株)、番國(株)
(生産履歴の追加)
日本蚕糸絹業開発協同組合
代表者名:小林幸夫
(担当者:土井芳文)
群馬県高崎市問屋町3-5-3
Tel:027-361-2377
表示者登録番号:021
長襦袢地    300反 (生産履歴の追加)
制作企画 絹小沢(株) 
繭生産  群馬県内養蚕農家
製 糸  碓氷製糸農協
製 織   (株)藤憲
精練加工 (有)今井整理

 次回審査会(平成24年度第4次)の予定は平成24年11月8日(木)です。
 純国産絹マークの使用許諾を申請される方は、事務局との事前協議を経た上で、審査会の10営業日前(平成24年10月24日(水))迄に、純国産絹マーク使用許諾申請書を提出してください。

     
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イベント情報

第9回 日本の絹展
◎ 日時:平成24年10月18日(木)〜10月23日(火) 10:00〜20:00
                    最終日  18:00まで
◎ 場所:日本橋高島屋 (東京都中央区日本橋)
◎ 主催:社団法人 日本絹業協会

群馬の絹 東京展 展示即売
会期  平成24年10月16日(火)〜18日(木) 午前10:00〜午後6:00
                 (最終日は午後4時まで)
会場  ジャパンシルクセンター

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