第109号(平成15年2月1日)
ハイブリッド絹展'03の開催
ハイブリッド絹展専門委員 水出 通男

 毎年2月恒例の「ハイブリッド絹展」が去る2月4日から6日までの3日間にわたり東京有楽町・蚕糸会館6階の特設会場で開催されました。
 この催しは日本製糸技術経営指導協会シルク開発センターが絹の用途拡大を図るため、他の繊維素材と複合化するなどして新しい機能を付与した各種のハイブリッドシルク製品を中心に、全国の絹産地や試験研究機関が工夫を凝らして新たに開発された素材や製品を一堂に集めて一般に公開するもので、開催期間中はアパレル関係の専門家をはじめ繊維関係の技術者・研究者、一般消費者など多数の来場者で賑わい、来場者は出展者やシルク開発センターの関係者(説明員)に製法や特徴・用途・価格などについて質問をしながら熱心に見学しておられました。

 出展者は特別出展者2、試作研究出展者9、地域ブランドシルク出展者15、試験研究機関出展者14、一般出展者17など計57の企業・団体・機関で、出展された製品のアイテムは和洋の外衣・中衣・内衣からスカーフ・ストールなどの装飾品やバッグ・靴下などの身の回り品、寝具・インテリア用品・化粧品・栄養補助食品まで出展品は474点に達し、会場は華やかな雰囲気に包まれておりました。

 これらの出展品のうち、今回の試作研究出展品はシルク開発センターの公募に応じて無撚シルクの提供を受けた試作研究者が、それぞれの技術を駆使して試作したハイブリッドシルク製品です。提供された無撚シルクは(財)大日本蚕糸会蚕糸科学研究所が開発したハイブリッドシルクで、何本か引き揃えた生糸を熱水収縮率の大きい合成繊維でカバリングしたのちに精練加工を施すことにより合成繊維は収縮して直線状となり、その周りに無撚・無抱合の絹フィラメントがスパイラル状に巻き付いた形となるため、柔軟で著しい伸縮性と嵩高性に富むという従来の絹にない優れた特徴を持つものです。
 試作研究者たちはこのような素材の特徴を活かした様々な製品を創り出して出展しましたが、それらの中で特に注目された製品を挙げますと、まず、愛媛県縫製品産業振興協議会SAIA研究所のカクテルドレス・スカーフ・ブラウス等(いずれもシャンブレー)は無撚シルクの特徴を遣憾なく発揮したもので、優雅な光沢と風合いが来場者から高く評価されておりました。また、京都織物卸商業組合は絹産地のみならず毛織物産地などにも委託して扁平光沢生糸との交織のシルクサテン、ウールとの二重織、ポリエステルをグランドとするシルクベルベットなど各種の婦人服地を試作し、無撚シルクの用途の多様性を示しました。その他、グンゼ鰍フTシャツ(26ゲージの天竺)は優れたドレープ性と風合いが高い評価を受け、また、池内タオル鰍フタオルハンカチ(綿のグランドに無撚シルクのパイル)は浴用タオルとしての優れた機能性を示唆するものとして注日され、ともに今後の商品化に大きな期待が寄せられました。

 試作研究展示品以外でも注目を集めた製品を挙げますと、試験研究機関では独立行政法人生物資源研究所新蚕糸技術研究チームの極細繊度蚕品種「はくぎん」を中心とするスカーフ・婦人服地・着尺地などの織物、群馬県蚕業試験場の染料入り人工飼料によるカラー繭とバッグ・ストールなどの製品(大原英雄織物工場製作)、千葉県農業研究センター応用昆虫研究室の平面繭などの加工品(染織工房ちばコクーン製作)などは試験研究機関として単なる素材開発に止まらず、製品化まで踏み込んで用途を提案したものとして注目されました。また、蚕糸科学研究所からは前述の無撚シルクの各種製品のほか、新たに考案された加撚複合繰糸生糸の製品(ブラウス・マフラー・インナー等)の展示もあり、今後の広範なアイテムの製品化に期待が寄せられました。

 その他、地域ブランドシルク出展、一般出展でも全国各地域・各社の素材や独自の技法を活かした特徴ある製品が出展されており、注目を集めたものには、たてよこの会・っむぎ技術研究会・(有)ハックの製品など、枚挙にいとまがありませんが紙面の都合上省略させて頂きます。


京都で町屋生かした染色ギャラリーが急増中
きものジャーナリスト 徳地 昭治
 全国主要都市ではここのところの地価下落によって中心部への人口のUターン現象、つまり“逆ドーナツ化”が進行中で、古都・京都の歴史的な家並みにもマンションなどによる高層化が目立ってきている。室町や西陣、京友禅など絹織物の集散地や生産地には、その立地のよさを生かしたマンション建設が引きもきらずに進み、特に市内ど真ん中の室町地区を囲む周囲1キロ範囲にはこれからマンションだけで100棟の建設計画があるという。

 低い瓦屋根の密集する古都中心部の歴史的景観はその様相を一変しつつあるが、そんな高層化計画の一方で、町屋と呼ばれる低層住宅にも人気が集まって保存運動などの後押しも受けながら、次々とリニューアルして蘇っているのも新旧が混在する京都らしい話題だ。古い町屋はレストラン、喫茶店やブティック、ヘアーサロン、雑貨店、アンティークショップなどに装いを一新して若者の関心を引きつけている。御幸町通りのように、古い町屋の並ぶ通りがそっくり若者仕様のファッションストリートに生まれ変わって京都の新スポットとして注目されるなどの動きもある。バブル期には地価の高騰で中心部の住人は追い立てられるように周辺部に人口移動してドーナツ化現象が著しかつたのが、皮肉なことにバブルの崩壊は中心部に住人を呼び返し、(建物の)高低のちぐはぐさは残しながらも、町並みに新しい活気を生み出しつつあると言える。

 町屋再生の動きの中で注目されるのが、染織業に携わる企業がそのスペースや技術を生かして、美術館やギャラリーあるいは手仕事の体験教室として生まれ変わろうとしていることだ。それら企業は、もともと京都中心部に立地する“地の利”がある上に、その中心部に住民が戻って活気を取り戻している機運を捉えた動きでもある。そして染織業の中心を占める「きもの」の不振は、そうした動きを後押ししてもいるともいえる。

 01年6月に開館した絞りの体験教室「京都絞り工芸館」は、絞り呉服卸の吉岡甚商店が開いたもので、自作の絞りの大作を2ヶ月サイクルで入れ替えて見せている。広重、北斎の浮世絵や鳥獣戯画など、広く知られる名画を絞り技術で再現したものだが、これらは10年程前から同社が、きものだけでは、技術者の持てる力を存分に発揮でき切れないとの思いからあえて制作期間のかかる大作を手がけて発表してきたものだ。美術館指定も受けて常設の形で披露できる場を持ったのだが、体験教室も併設して「(絞りの)作り手と使い手の距離を近づけ」ようとしている。

 体験教室では“老舗”の「古代友禅苑」は、大手の京友禅工場、古代友禅が27年前に始めたもの。一般の人に工場を開放して、本業の型染めや筒描きなどで簡単な染めを体験してもらう。今では京都観光のコースにも組み込まれて、春秋の観光シーズンには修学旅行生などがひっきりなしに訪れる。最近では生徒だけでなく、PTAや婦人会などの来館も増えている。

 同じ友禅の体験教室を平成5年から始めたのが、「丸益西村」。京都の中心部の込み入った町屋風の建物の中で、伝統の雰囲気に浸りながら、職人の指導で染物技術に直接触れられるのが人気だ。ここでも修学旅行生が多いが、体験教室に隣接して、ミニSC(ショッピングセンター)の「繭」を作った。若者対象の雑貨やファッション、喫茶などが町屋建ての中に並ぶ不思議空間は盛んに雑誌やTVに登場して若者の隠れスポットとなっている。そのため、体験教室にも地元や京阪神の若者が押し寄せて、友禅を介したクリエーション広場となっている。

 このほか、京都の中心部では、いまマンション建設の槌音に抗して古い家並みの凛とした佇まいが残る町屋の中には染織や刺繍、組みひも、ちりめん細工、ちぎり絵などの教室があちこちで開講されている。

 神奈川県・川崎市からほぼ月に1回の頻度で染めの教室に通っているという室戸康子さんは、勤務暦32年のベテランOLだが染物の魅力に取り付かれて小物から始まって、いまでは本格的な友禅の着物の制作に取り掛かっている。週末朝1番の新幹線に乗って、最終便ぎりぎりまで絵筆を振るい続ける。「京都に来ながら、観光らしい観光もしたことがない」と苦笑いする。自作のきものを着て1泊の京都観光をする楽しみがとってある、という。

 最初は興味半分で訪れた人が、だんだん深みに嵌るように創作の魅力に取り付かれると言うケースは室戸さんの例に留まらない。京都絞り工芸館でも、京都観光の人を対象としていたが、最近では70〜80%は地元京都の人で、本格的に習いたいという要望が多い、という。ちりめん細工教室を開く「多加楽」でも、工房の2階を教室としているが、開講して2年目ながら生徒数は急増している。最近もシティーホテルを会場に、臨時教室を開いたが1日3回の教室が2日間とも満席となっている。「お友達との会話を楽しみに来られるケースもあったのですが、最近は皆さん真剣に創作する楽しみに浸っておられます」と言うのはこの教室を主宰する西畑和美さん。

 さまざまな教室が町屋で花盛りとは言うものの、これをビジネス視点で捉えるとまだまだ本業に代わるものとはなり得ていないのも事実。せいぜいが本業の商品や技術への認識を高めてもらうもの、といった補完的効果どまりといったところだ。しかし「将来的には芽を吹くことも期待できるのでは」という見方も生まれている。

 一つには、高齢化杜会で染織などの手作業は"癒し"効果があり、もっと見直されるはずという期待。二つには「太秦映画村」のように、本業の映画産業は寂れても、撮影現場が観光資源になるという新しい発見が、新ビジネスを根付かせたように、きものにまつわるものづくりの真髄を体験してもらうことや、自作のきものを作るなどの行為は、きものを買う・着るの楽しみに新しい要素を付加するものになるはず。きものの半製品を売って、着る人に完成してもらう売り方などのシステムをうまく作り上げれば、新しいマーケットが生まれるかもしれない、などとの見方だ。

 更に、染織や伝統的な手作業は、わが国では実用的で職人的な領域に見られて認知度が低いが、欧米のようにテキスタイルアートやダイアートなどの芸術表現として取り組めば、その技術レベルの高さからも新しい地平が開けるはず、などの期待の声もあがり始めている。