第110号(平成15年3月1日)
小学校総合学習での蚕糸・絹づくりの実践
多摩シルクライフ21研究会 小此木エツ子

まえがき
 蚕糸・絹業は、日本の象徴産業であるといわれている。その由来は、蚕糸・絹業がわが国の温暖な気候、風土と国民性(自然に対する独特な感受性と正確、緻密、繊細な国民性)に叶った産業だからであろう。
 わが国の蚕糸・絹業は、長い歴史の中で外国の技術を導入しながらも、わが国独自の多様な衣文化をつくりあげてきた。イギリスはウールによって、インドは綿によって、それぞれが象徴されるように、日本は絹によってその国民性が象徴されてきたのである。
 従って、この先どのような状況に置かれようとも、蚕糸・絹業は大切に育成していかなければいけないと考えている。
 以上のような観点から、当研究会では発足以来、養蚕、製糸、染織そして最終製品に至るまで、日本の風土に根ざした技術の組み立てを重視する物作りに取り組んで現在に至っている。加えて、長い伝統を継承すると共に、その技術の普及にも努めてきたが、最近その技術普及の一環として、新指導要項に基づく小学校の「総合学習」の中での蚕の飼い方、繭からの糸・絹づくりについての学習に参加している。

総合学習での蚕糸・絹づくりの実践

 実践に当たって昨年度は次のような活動を行った。

(1) 当研究会が蚕種を配布している都内160校を対象として「蚕にかかわる学習」の実態調査を行った。その結果の概略は次の通りである。
  (A)蚕を飼育する狙い
◎昆虫の生態を調べる ◎生命の神秘、生命を尊重する意義を学ぶ ◎生物環境と自然のかかわりを学ぶ ◎八王子の歴史を学ぶ ◎昔の人の知恵、農民の生活を学ぶ ◎物づくりと物を大切にする心を学ぶ ◎地域の伝統文化に関心を持たせる ◎ふるさと意識を高めるなどの他多くの意見が寄せられた。

(2)上記実態調査に参加した小学校の内、教師55名を招いて、蚕糸・絹づくりの学習会を開催した。

(3)都内、小学校12校、生徒数667名を対象とする蚕糸・絹づくりの総合的学習に参加した。

 (2)、(3)の学習内容は次の通りである。
蚕の飼い方
 自然と昆虫、昆虫の特徴、蚕の一生、蚕の飼い方、蚕の観察、桑園管理、催青、孵化法(掃立日調節)、
蚕の病気

「 繭からの糸・絹づくり

◎繭を精練して真綿を創り、そして糸をつむぐ◎繭を精練してづり出して糸をつむぐ◎繭を煮繭し糸を繰って生糸をつくる◎つくった糸で織り方の基本を学ぶ◎シルクスルー、マフラーなどの作品をつくる。

」 まとめ

 昨年一年間での総合的学習に参加して感じたことは、各小学校の総合的学習の狙いや実施方策が小学校の置かれている環境や地域、学校の歴史や伝統、在職している職員の考え方によって微妙な違いがあり、実に多様であることがわかった。従って、学習に参加する私共も、ただ単に蚕の飼い方や、糸づくりをセットで体験させて上げればそれで事足りる…というように単純に考えて参加するのでは、総合的学習の目標は達成できないことがわかった。
 これからの総合的学習は、小学校の置かれている環境や地域社会と深く結びついた物づくりとはいかにあるべきか等、総合的な物の見方、考え方をふまえた上で学習に参加することが重要になると実感した。

 以上、昨年の小学校総合学習参加の概略について述べたが、一年間の実践の中で実に多くの教訓と示唆を得ることができたことは、研究会にとって大きな収穫であった。
 加えて、教師や子供達と蚕や糸・絹づくりを通じて、新しい驚きや発見、そして喜びを共有し合うといういくつもの感動的な出会いがあり、思い出に残る一年となったことをご報告してこの稿を結ぶ。


シルクこそ最も新しい素材
ファッションジャーナリスト 鮎 川 耕 一
 日本のシルクの伝続的技術を生かして新しい素材や商品を開発し、これまでとは違った市場を開発していこうという動きが活発だ。

 パリコレクションやミラノコレクションにおいて柄演出の重要なファクターに「和」が意識され、国内においても和をモチーフにしたファッションや伝統的な京都の町屋が注目されてきている中で、シルク産業が生み出し、残してきた財産が注目されようとしている。世界を意識しながら、日本の伝統的技術を駆使して現代のライフスタイルに合う商品開発を進めようという企業群がシルクの世界に出現、新しい息吹きをもたらそうとしている。

 咋年、幻の絹と言われた「小石丸」できものを商品化して話題を集めた誉田屋源兵衛。かつて皇居でしか生産を許されず、紡糸するにも困難をきわめる品種を用いて、蚕糸科学研究所などの協力も得て、開発に成功。小石丸の本格的なきものとして大きな話題を集めたことは記憶に新しい。その誉田屋が一方ではシルクと日本の伝統技術、アジアの技術を融合させて新しいライフスタイル提案を開始した。柿渋や泥、藍、竹染めなど自然の染め加工をシルクに施して衣料品やカーペット、シーツ、クッションカバーなどの新しい分野に挑戦している。日本、韓国、中国などの職人がぶつかりあい、解け合い、アジアから発信される新しいライフスタイルの開発に動き出している。

 また今年新たに京都で和装を手掛ける職人企業グループ「布結人(ふゆうど)の会」が結成された。日本のそしてきもの、という挟い枠を超えてヨーロッパのデザインと連携しながら互いに影響し合って新しい商品を開発していこうというグループで、きものや帯び、絞りなどに関わる職人、機屋、加工場十社からスタートをきった。

 布結人の会では現在、イタリア・ミラノの美術学校、デザイン事務所三カ所と提携して、日本の着物や小物、素材をもちこみイタリア側が製品化、布結人の会はイタリアのデザインを生かして、現代生活を彩る幅広い商品開発を連めようと、動きはじめた。イタリアの学校ではきものに関する講座も開講する予定だという。シルクの専門商社同興商事では五年前に山陰に唯一残る製糸会社「石西社」と東レデュポンのストレッチ技術を融合させて、ストレッチ糸を芯にしたシルクのコアヤーン「ダイナミーシルク」を開発した。

  これまでのシルクストレッチのようなカバリング糸ではなく、表面はシルク100%ではないもので構成されているため、風合い、発色性などはシルクと変わらず、ストレッチ性をもった画期的な糸。これまでに国内のアパレルメーカーに相次いで導入され、下着やブラウス、パンツなど多彩なアイテムで商品化されている。同社はさらに拡販をはかるため、中国に新たな工場を設立、稼動を開始した。

 滋賀県長浜市でビロード生産をてがけるタケツネでは今や数少なくなった輪奈ビロードを今でも生産している。鉄線を一本一本織り込んでビロードを作る技術を継承しながら、輪奈ビロードでのショールやマフラーなどより現代のファッションに適合する商品開発を進め、国内量大の素材展「ジャパンクリエーション」にも出展、きもの業界だけではなく、むしろファッション界から新鮮な驚きと感動の目で注目されている。

  京都の亀田富染工場ではもともとシルク和装の染めを手掛けていた技術と六千枚に及ぶ型を生かして、独自にハワイアンシャツを製品化、明治や昭和前期などの古い柄を蘇らせながらシルクのシャツを生産、自社ビルの一隅をショップにして販売も開始している。この春には祇園にアンテナショップをオープンさせる計画で、一方ではファッションアクセサリーなどを展開する大手企業とコラボレーションした展示会も計画されている。

 シルク今、最も新しい素材として注目されてきている。きものという分野を越え、国境を越え、物作りに、販売に異分野と結び付き、大胆なコラボレーションが進んだ時、意外な魅力と可能性が引き出されるようだ。そしてなにもかもが中国へ向かう中で、日本を中心として考えた時、シルクこそが最も潜在的なビジネスチャンスをもっているような気がしてならない。

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