第111号(平成15年4月1日))
全体傾向は60年代ルックス・伝統素材を現在に蘇生 
日本繊維新聞 石 川 重人

 03年秋冬東京コレクションは、伝統的な素材やディテールを現代に蘇生させるスタイルが打ち出されました。先に行われた欧米のコレクションを反映したのか、60年代のサブカルチャーから影響された安易なスタイルが多く、独自のクリエーションを見せたデザイナーは非常に少ない。中でも、デザイナー独自の「美」を追求したコレクションが目を引きました。また彼らは不況とされる日本市場で、着実にビジネスを進める「異端」でもあります。

 ここ数シーズン、実力を見せつけているのがヴェットモン(水野直昭)です。今回のテーマは「足す」ということで、要素を絞って伝統的な素材やディテールを“足す”服を発表しました。出来上がった服は、新しさを感じさせるフォルムやバランスで非常に新鮮です。特にタックでつまんだ構築的なジャケットに、ひきずるほど分量のあるスカートの対比が印象に残ります。

 デザイナーの水野直昭さんは「タータンチェックやツイードも昔からある素材。その素材を使って、新しく見えるように考えました。特に英国調をアピールした訳ではなく、自然に装飾的な服を作りたいという意識が働きました」と語っています。

 キョウイチ・フジタ(藤田恭一)は、ドレスと一体になった“バラ”のコサージュウエア、さらにゴブラン調のジャケットにもバラの花を咲かせ、特徴的な服を発表しました。輝く金属などを使用し、近未来的に見える服も伝統に裏打ちされたものです。“クラフト感”という手の温もりを感じさせるテクニックに長け、見るものをほっとさせるウエアリングでした。

 近年の新人では珍しく、完成度の高いテーラードジャケットを発表しているア・プライマリー・アキコ・オガワ(小川彰子)は、基本となる細身テーラードジャケットに加え、ムートン、ニット・カットソーなどトータルスタイルに意欲を見せています。前回よりもテーラードの完成度は高く、さらにドレスのドレープ感も美しいものでした。
 デザイナーの小川彰子さんは「ウール素材は国内で調達している。さらに国内の縫製工場と仕事を続け、テーラードの完成度を上げたい。まだまだ発展途上です。これからもバイヤーやスタイリスト、ジャーナリストに知名度を上げていきたい」。

 ボックス調のシルエットと独自の素材展開で異彩を放つホンマ(本間遊)は、ニットのレイヤードやニットと布帛の中間的ウエアでコレクションを構成するという新境地に挑みました。見た目では分かりませんがニードルパンチの可能性を探り、ごわつきがなく仕立ての良いアイテムになっています。

 ここに上げた4人のデザイナーに共通しているのは、着実にビジネスを行い、売り先も順調に開拓している点です。ヴェットモンは東京・南青山に直営店を展開し、キョウイチ・フジタも青山骨董通りに路面店を開設しているほか、百貨店への出店も本格化しています。藤田恭一さんは、アパレル企業のワールドと提携して以来、日本人デザイナーとしては異例の攻勢をかけています。

 ア・プライマリー・アキコ・オガワは、セレクトショップのバーニーズ・ニューヨークをはじめ、アクアガール、ビームスなどヘアイテムを卸しています。また西武百貨店(池袋、渋谷、有楽町)の自主編集売り場「パラグラフ」へも展開中。今後は「直営店も出したい」と意欲的です。

 ホンマは、東京・青山の直営店に加えて、西武百貨店池袋店4階にインショップを開設。コンテンポラリークロージング売り場で販売し、海外ブランドと厳しい争いをしています。

 また、見逃せないのが、各デザイナーともに日本国内で素材調達を行っていることです。ヴェットモンは様々な国内産地から素材を取り寄せ、ほぼ100%が国内素材となっています。またキョウイチ・フジタ、ホンマとも国内産地との関わりが深く、独創的な素材でブランドに付加価値をつけているようです。ア・プライマリー・アキコ・オガワは、愛知・一宮でウール素材を調達し、ジャガードもすべて国内で対応しています。

 4人ともビジネスとの両立を図っており、発表したクリエーションには“甘え”がありません。服が独創的とはいえ、結局売れなければ意味がないのです。そんな「綱渡り」の中で、真剣勝負を繰り広げているのが、この4人なのです。彼らの努力が東京コレクションのレベルを引き上げ、ひいては東コレ全体に良い影響を与えていくでしょう。


きもの振興の現場の声
社団法人全日本きもの振興会 課長 中江正子
 「催事で○○作家のきものを購入したが、この作家って著名な人なのでしょうか」「○○染めのきものを○○万円で買ったけれど平均的な価格ですか」一など、ほぽ毎日といっていいほど全国各地の消費者や消費者センターからの問い合わせが入ります。

 当振興会に初めて専任事務局が設置されたのが一昨年の6月。全国の産地メーカーから流通、小売のいわゆるきもの業界と消費者を結んで、一人でも多くの方にきものを好きになってもらう為にきものの振興を図ることが役割です。事務局に寄せられる消費者からの電話は生の声が聞ける貴重な機会ですが、残念なことに冒頭のようにきものを買ってから不安になられてのものが少なくありません。購入される前に相談が寄せられたら少しは役立つアドバイスも出来たのに、と思ったりもします。

 問い合わせは、この他にも「きものが当選しました。今からお伺いします。と言われたのですが、どうすればいいのでしょう」「モデル募集できものをプレゼントします、というチラシが入っていましたが、どういうことなのですか」など、きものの販売手法に対する苦情交じりの問い合わせも後をたちません。多くの人が認める美しいきもの、優雅なきもの姿。それに比べて事務局に寄せられる消費者の問い合わせの内容とはちょっとかけ離れているようで、残念でなりません。

 昨年11月15日(きものの日)には第36回目の「全日本きものの女王選出全国大会」が東京白金台の八芳園でありました。この事業は当振興会が発足当初から続けているメインの事業で、このときはアシェット婦人画報杜の“きもの大好きパーティ”との共催で、パーティ参加者も交えた大勢の人で華やかな舞台がいっそう華やいで盛り上がりました。その舞台の裏では全日本きものの女王の座を目指す厳しい審査が行なわれていて、会場の周辺ではどこかぴりぴりとする緊張感が支配していました。
 
 審査の一つで、全員が「10年後の私」のテーマでスピーチ発表しました。「私が一番尊敬する人は母です。小さい時から母は私にきものを着せてくれ、それがなによりの楽しみでした。将来は、母が好きだったきものに関わる仕事をしたい、と強く望んでいますし、10年後の私を想像するとき、どんな形であれきものと切り離して考えることが出来ません」。

 「海外に留学して日本の良さときものの素晴らしさを痛感しました。機会がある毎にきものを着て、10年後はもっときものの似合う女性になりたい」などなど、参加者の10年後の夢ときものが熱く語られました。それを聞いていて、私も昭和52年4月に京都織物卸商業組合に勤めて以来、和装関係の仕事に一貫して携わってきたことを思い起こしていました。各地区女王たちのスピーチを聞いていて、勤め始めた頃のきものへの情熱をいまさらながら掻き立てられる思いでした。そして同時に、彼女たちのきものへの思いを現在の仕事を通じてもっと多くの人に伝えることの重要性に気づかされました。

 2年前に初めての試みとして京都織商加盟企業の女性社員だけによる「きもの解放区」という企画の立ち上げに参加したことがあります。きものをもっと自由に、気楽に楽しんでほしい。でもいまのきものでは…、という多くの若い女性の共通の思いを女性の立場から提案したものですが、その思いは今も色あせていません。
 きもの離れが言われて久しいですが、一方できものを着たいと本気で思い始めている女性が多いのも実感しています。以前ならきものの雑誌は2〜3誌でしたが、最近はアンティークきものだけで編集する雑誌も現れ、それが人気を得ているとも聞きます。2年前から始まった「きもの解放区」の試みの種が実り始めているのだとしたらこれほど嬉しい事はありません。

 昨年末にフロリダに行く機会がありました。びっくりしたのは走っている自動車はトヨタ、ホンダ、ニッサン、三菱などの日本車、テレビ・ビデオもSONYやパナソニック。日本の技術はこの国を圧倒しています。一方、道行く人が着ている洋服は、Tシャツにジーパン。日本のファッションの方が多彩で豊かです。つくづく、日本って良い国だなあと感じました。でも、ディズニーワールドヘ行った時のこと。アメリカの子供は私とすれ違って声を掛けてくれるのですが「ニイハオ」です。彼らにとっては、中国人も韓国人も、私たち日本人との区別がつかないのでしょう。
 
 「私は日本人よ」と心の中で叫んではみても、外見から区別がつかないのも現実です。はたして、彼らに日本人の証明を見せるのは何かと考えた時、それはやはり日本の伝統的な文化の形をみせることではないでしょうか。外国に来て日本の良さを実感するとよく聞きますが、本当にそうです。その大好きな日本を形で表す日本文化を学び直し、その精神を体得することが必要だと、そのとき痛感しました。もちろん、その筆頭は「きもの」です。きものが着られることにとどまらず、きものの価値を学び直して、外国に出た時にも説明できるようになることで初めて日本人であることを証明できるのだと思います。

 幸い、当振興会では、昨年に引き続いて「きもの学」の連続講座がこの秋から始まります。今年の申込も大盛況で定員を大幅に上廻りました。先日も、事務局に74歳の女性が受講申込みをされました。「きもの」と「学ぶ」ことへの情熱に年齢は関係ないのだと、自分への励みにしていきたいと思いました。

 いよいよ当振興会は正念場を迎えます。過去2年間、継続事業を踏襲しながら、再生に向けての改革を行なう中で“新生・全日本きもの振興会”の基本理念として「きもの憲章」を制定し、その精神を具体化すべく事業・組織・財政・運営の4つの項目に亘る“再生基本計画”の策定を終え、いよいよ今年度から実行段階に入ることになりました。未来に目本文化のきものを繋げて行く為に、「きもの憲章」の精神を普及し、共有できる輪の広がりに向けて取り組みを行なっていきます。

 全国各地区に地域と業界が一体となりr消費者の方に喜んでいただけるきもの振興」を会員の方と一緒になって実行してまいりたいと思います。