第112号(平成15年5月1日)
「絹、そしてきもの・生命の限り」
清水とき

 この頃"きもの"姿が目につく。嬉しい限りです。毎週名古屋通いの私にとって、東京駅は散歩道。行きは午前7〜9時台、帰りは午後9時〜11時。あまり年輩女性が出掛ける時間ではないけれど、駅にはきもの姿が必ず5、6人。多いときは10人程も。愛知県名古屋は"きもの処"。だからきもの姿も多いはず。京都も、その他の地方も5、6年前に比べると、きもの姿を見かける率が高くなりました。お茶会・クラス会・観劇・コンサート・パーティーでもここ数年少しずつ増えているようです。しかも若い人達が…。

 私は「羽織、羽織…」と事ある毎に"羽織姿"のよさを伝え、私自身もいつも羽織を着て出掛けています。今は初夏なので"薄物(単羽織)"や紗あわせ・比翼羽織ですが。若い人の大正ロマン、竹久夢二調の羽織姿は魅力的で楽しそう。また渋谷の清水学園の傍らに"たんす屋"登場。生徒達もさぞや利用しているであろうと思われます。

 "自由が丘"や、"新宿花園神社"、青山学院大学の向こう側の"子供の城"前で月に一度の古着市が行われます。三千円の振袖、二千円の小紋や紬、お召、五千円の黒留袖とびっくりするお値段。案外「織・良し、色・良し、柄・良し」のものを見つけることもあります。和裁のできる本校の生徒達は自分の寸法に仕立て換えています。その折に「化繊のきものは仕立て難いし、熱度が難しい」と避けているようです。やっぱり"正絹"、"絹もの"は女心に響くのでしょう。絹のきものとして古着でも上手に仕立て換え、喜んで着ています。帯地で作ったコートも素晴らしいものになることを発見しました。

 古い本を読んで考えてみると、明治から大正、昭和の時代には"古着屋"を営む人達が多く、お店も随分あったようです。私も大正生まれ。昭和の初め、子供の頃に育った山手線沿いの大塚、トゲ抜き地蔵で有名な巣鴨でも、縁日や仲見世のでている舗道や並んだ店先の間にこうした「古着屋」は割に多く目についたことを想い出すこの頃です。不況、不景気の中での"きもの"の人気とは、潜在する日本女性の和への回帰の心なのか、単なるアンティークの流行性なのかよくは分かりません。

 ただ日本人の着るものへの感覚として着たいものの第一に「きもの・和装」があることは周知のことではあったけれど、流行に正直な街の女性の間で、きもの復活の兆しがあることは、きものに携わって55年の私も、嬉しいことと思わずにはいられません。

 私の学園は文部科学省認可の"専門学校"で、日本の和装を徹底的に"きもの学"として指導する伝統校で、総合的に「和装」のみを取り扱っている唯一の学校法人です。ひと頃の「キモノブーム」が去り、多い時には3500人もいた生徒数はひどい激減で、余りにも淋しく、現実的には大変な事なのです。弟子たちが教えるチェーンスクールも皆悲鳴をあげる程経営が難しい時代です。

 学ぶ人・若い人の減少もさることながら、「無料着つけ指導協会」とか「無料着つけ教室」、しかも堂々とNPO法人の肩書付のものまで現れ派手な宣伝をしていることも多少は影響しているのではと思っています。無料で着つけを教える、ただし反物やプレタきものを買わせたり、押しつけたり、買わないと教えないと言う団体まで多く出現し、目を覆いたくなるような情けない現状なのではないしょうか。

 そのような中で私が誇りに思うのは、永い指導校としての歴史と、各きもの産地との長年のお付き合い。全国各地の染、織などのきもの各種が私の学校と協会には何百点も用意されており、そうした教材によって販売ではなく自らの肌できものを実感できる"体験学習"ができるということです。

 これらのきものは各文化センターやモード学園等での講義やシーボン化粧品会社でのイベント、伝統的工芸品センターでの着装教室、大学や短大、高校、中学、各地区の生涯学習での聴講生向けのきもの教材に使用しています。
 日本中から集めた資料で実物提示ができるので、帯結びや、コーディネイト、変遷史、和装技術、型紙作り、染色補整(しみ抜き)、髪形等にいたるまで、きものについてのあらゆる知識と情報を提供することができるのです。高校生対象の十二単の着装体験学習は大好評でした。

 こうしてきものの話題が学校や家庭や仲間同士で広がっていくのが最大のプラス。更に国際親善のために各国の大統領夫人や大使夫人との交流にも使用され、女性上院議員などで構成されるアメリカ・ピースリンクスやマレーシア・ピースリンクス、日本ラテンアメリカ協会の大使夫人の方々も皆きものを着て大喜びでした。

 これも大切な国際平和外交になるし、このような交流はきもの指導者としての使命だと思っています。永く生きてきて苦労ぱかりの私ですが、教え子たちや支えてくれる大勢の方々から感謝や励ましの言葉をいただく度に「きもの一筋・信念を貫いて生きてきてよかった!」と思えるのです。

 私が会長を勤める(財)日本きもの文化協会が設立した「きもの芸術館」も見学を通してきものを体験していただいています。今年は江戸幕府開府四百年に因み、歌舞伎「暫」の市川団十郎の衣装等、江戸時代の各種衣装の再現や、江戸をテーマに私が創作したきものを無料公開中です。また菱川師宣をはじめとする肉筆浮世絵もきもの好きの方々のお役にたっているようです。これもきもの普及、日本文化への貢献と心中誇らしく、きもの人冥利に尽きると思っています。

 今アンティークをとっかかりとする"きもの復興"を話題としてきましたが、長年きものに携わる者としてきものの復興の声を聞くにつれ、改めてその根底に流れる"絹"の偉大さ、素晴らしさに感動し、絹を見直すことの大切さを感じるこの頃です。


 財団法人日本きもの文化協会会長、「きもの芸術館」館長、学校法人清水学園理事長、専門学校清水とき・きものアカデミア学校長、社団法人全日本きもの振興会理事、全国きもの教育連合会会長


きものに力を入れる三越本店の販売企画
さまざまなイベントでファンの集客に効果上げる
「きもの流通新聞」発行 株式会社衣盛社 安仲徹男

 百貨店で呉服売場を縮小したり、上層階へ移動する動きが相次いで表面化しているが、こうした中で頑張っていると評判なのが日本橋の三越本店。もともとが三井越後屋という呉服出身の同店だけにきものには力を入れている上に、顧客重視の姿勢は伝統的で、現在でも独自のお帳場制は健在。またきものの販促でも専門店顔負けの創意工夫をしているのが特徴だ。

 例えば、この時期のビックイベントである「きものミュージアム」(5月13日から26日まで4階呉服フロアで開催)では、他店がほとんど力を入れなくなった夏のきものを中心に展開している上に、連日のようにさまざまなイベントを開催して、きものファンの目を引く趣向を凝らしている。

 具体的には、観世流、観世芳宏・芳伸氏による「能楽の美」(13日)@鈴木暁聖氏による「ふれあう文化・きものと伽羅の香」(14日)、A茶人作家・裏千家三田富子さんの「きものの効用」B知念貞男氏による「琉球紅型彩色体験教室」(16〜18日)、C細見華岳氏によるトークショー「綴れ帯について」(17日)、D本場大島泥染め実演(17、18日)、E三越オリジナル図案復刻版なごや帯染め実演(20〜22日)F服部こはく錦箔づくり実演(24、25日)など、楽しいイベントが連日開かれており、多くの顧客で賑わっていた。

 もちろん、こうしたイベントは売場の中で実施するため、参加人員に限りがあるが、得意先に案内すると当時に申し込みが集中、1日で締め切る人気催事も多いという。例えば裏千家三田寛子さんのお点前や、知念貞男氏の「琉球紅型彩色体験教室」などはその好例で、さまざまな分野のファンの集客にも役立っている。

 また、新しい商品の扱いにも積極的で、今回は先に西陣織工業組合が開発した西陣一条帯を三越が先行発売し、コーナーを設けて品揃えしていたほか、モデルに着用させるPRしていた。これは巾が6寸(22.7センチ)、長さが1丈(378センチ)という軽くて柔らかく薄い締めやすい帯で、価格は5万円から15万円。

 「この帯ならゆかた同様に前で結んで背中にまわせばOK、しかも蝶結びの出来る人なら洋服感覚で和装が楽しめるというアイデア商品」で注目度は高く、既に何点か売れているという(同社井上マネージャー)。

 このきものミュージアム期間中、5万円以上を呉服フロアで買い上げた顧客を先着200組400人を7月14日に三越劇場で行われる人形浄瑠璃「文楽を楽しむ会」(吉田箕太郎改め三世桐竹勘十郎襲名記念)に招待する特典も行ったほか、22日には1階中央ホールで「新作ゆかたファッションショー」も開催、今年の新作30点を紹介してシーズンに先駆けてPRに余念がなかった。


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