第113号(平成15年6月1日)
京手描友禅と日本の絹マークを一体化
日本と京都の品質・デザインをアピール
ファッションジャーナリスト 鮎川 耕太


 京都工芸染匠協同組合(白木周生理事長)は「京手描友禅」の証紙と日本絹業協会の「日本の絹」マークの両方を共同表示した新しいタグを製作し、5月10日より製品に添付して流通を開始している。

 京手描友禅の証紙は同組合員が創作・プロデュースした和装商品に添付してきた、いわば京都職人の証し。京手描友禅の文字を上部に染匠・京都の文宇を中央に配してデザイン、生地の生産国、創作地、創作方法が印刷されている。日本の絹マークは、日本絹業協会が日本国内の産地で織られ、なおかつ、日本国内で染色加工された日本の伝統技術による国産絹製品をアピールするために昨年制定したもので、日本国旗の中心に白生地を抽象化してデザイン化、一目で日本国産のイメージがわかるようにビジュアル化されている。

 一枚のタグの表・裏に二つの表示が印刷されるのは初めてで、手描友禅のマークには生産品の通しナンバーが印刷され、絹マークには生産者の登録ナンバーが印刷される。京都工芸染匠協同組合は二つの団体のアピールを組合参加の職人の手を経たすべての製品に添付して相乗効果を発揮、輪入品との差別化、国産品の優位性、京都ブランドの育成をはかっていく。

 バブル崩壊後、洋装分野を中心に安価な中国製品が急増、国内各産地の機屋や加工場が廃業、倒産を余儀なくされてきており、産地がまるごと崩壊に瀕するようなところも出てきている。和装業界も例外ではなくなってきた。以前から縫製分野では中国やベトナムに進出する日本企業が出てきており、素材でも韓国や中国から輸入して日本国産として販売されるケースも問題になってきたように、着実に海外生産品が国内の和装を侵食しつつある。この数年は白生地だけでなく染色して製品化をはかって国内に持ち込まれるケースも増えつつある。消費不況に加え、海外品の流入が日本の産地、職人を弾き出し、貴重な技術が消え去ろうとしている。

 こうした動きに対して一方では今世界的に日本の染色や加工の技術が認められる動きも出てきた。洋装の分野では欧米で日本の伝統技術から生まれた素材や製品が注目され、ヨーロッパのスーパーブランドの素材に取り入れられるケースも少なくない。日本の素材の品質とデザインが中国のアパレルメーカーに注目され、素材輸出をてがける企業が相次いで出現している。それらはいずれも日本の和装から生まれた加工技術であったり、染色技術、モチーフであることが多い。洋装のデザイナーやテキスタイルメーカーが京都を注目する背景がそこにある。

 日本の和装は日本全体のテキスタイルを支える技術をいまだに有している。和装に関わる企業や、職人が減ることは日本固有のテキスタイル、染織文化を希薄にしていくことにほかならない。あえて今、日本の文化を支える二つの団体が共同して、日本ブランド、京都の産地をブランド化していこうという動きは和装、洋装にとっても、日本のテキスタイル文化にとってもきわめて貴重な挑戦として評価したい。


前回を上回る規模と内容で
2003「きもの学」講座が今秋開講
社団法人全日本きもの振興会


 「きもの」が大学の講座にのぼり、それが市民にも公開されるシティカレッジとしても取組まれた「きもの学」は昨秋にスタートしましたが、開講と同時に希望者が殺到する人気ぶりでした。この秋も一段とスケールアップした内容で始まりますが、取組む大学も一般受講者の数もともに前回を上回っており、感心の高さが伺われます。

 このきもの学は、(社)全日本きもの振興会から京都学園大学へ寄付講座として提供され、大学コンソーシアム京都が単位互換科目兼市民公開のシティカレッジ科目として実施しているものです。講義は30講座を予定、1回の講義時間は90分で、9月2日から20日までのロングラン講座です。今年も3月に講座開講の案内が始まると同時に申込みが殺到して早々と定員を超過しました。受講する大学は前回より3校増えて30校(基礎コース)185名、(発展コース)151名に、一般からは(基礎コース)165名、(発展コース)191名が受講することになります。

 「きもの学」へのこうした期待の高まりはどのようなことを示しているのでしょうか。 昨年の結果を分析すると、次のような点が指摘できると思います。まず、「きもの学」は大学コンソーシアム京都で開催された市民公開講義(シティカレッジ)の中でも過去最高を記録する人気講座となりました。また、受講生の構成が、概ね学生3分の1、一般市民3分の1、きもの業界関係者3分の1となり、当初想定した学生層へのきもの知識の浸透、および業界関係者の再教育に資するという目的に合致したといえるでしょう。

 一方、講師の方々もこの講座の意義をそれぞれに大きく評価され、熱の入った講義をしていただけました。受講生の地域的分布は、近畿を中心に、北は山形県から南は沖縄県まで広範囲に広がっており、広い地域で関心を呼ぶことができました。

 毎回、百数十名以上の参加者があり、ほぼ想定した出席率でした。更に受講生のアンケートを実施しましたが、毎回の講義がたいへん熱心に受講され、学ぶところが大きいと受けとめられ、こうした講座が待たれていたこと、次年度以降も継続してほしいなど、肯定的な記述が多数にのぼり、受講生のあいだで非常に好評であったことが裏付けられました。当講座の昨年度コーディネーターの波多野進・京都学園大学教授は前回の講座を通じて4点の事柄を指摘しています。

 (1)「きもの離れ」がささやかれる中、日本人の美意識の中心にあるものとして、きものへの社会的関心は極めて高く、この講座の社会的意義もまた高いと思われる。
 (2)きものは、若い世代にも知的好奇心をかきたてる教材で、教育効果が高い。
 (3)一応の知識を備える業界関係者にとっても、「目から鱗が落ちた」という感想が寄せられるなど、系統的な教育機会が持てなかった欠陥を埋めるものとなった。
 (4)きもの文化・産業を促進するには、関連の産業界はもとより、大学をはじめとする教育機関、大学コンソーシアム京都や京都市染織試験場、ハイテクカレッジ、博物館、郷土資料館などの行政関連機関、さらに文化人・芸術家など多方面の連携と参加で実現できるもの。
この講座はそうした新しいネットワークの新次元を開く端緒となることでしょう。

○きもの学の意味するもの
小澤淳二さん(「きもの学」担当委員長)
 こう言う言い方が許されるなら、スポーツは体の足しになり、学問は頭の足しになります。その延長で言えば、文化は心の足しになるものです。しかし、これはじわじわしか効きません。その日本文化の中で、あまり知られていないものの一つにきもの文化があります。きものに表される染織文化は世界に冠たるものを持っているにもかかわらず、日本にはきものを知らない若者がたくさんいます。きもの文化と若者を結び付けるこの事業には素晴らしい意義を秘めていると思います。
市田ひろみさん(「きもの学」講師)
 実は20年ほど前に、業界の新入社員のための集合教育に『きもの大学』の設置を訴えたことがあります。きものの一応の知識を身につければ実践の場でも役立つことが多いのではないかと思ったからです。また、当時小売店へ伺った時のこんな経験も教育の必要性を痛感したことでした。その店に来られたお客様が辻が花ってどんな花ですか、と聞かれて店の人が"三色スミレ"と答えたのです。訂正するわけにもいきません。初歩的な教育さえすれば、お客さんとも間違いのない対応が出来るのに、と痛感しました。「きもの学」でこの時以来の夢が実現して、嬉しい限りです。

「きもの学」開催趣旨
 新しく21世紀を迎え、国際化がますます進行していく中で、私たち 日本人が日本文化を端的に表現するには「きもの」が最適と思われます。きものを着ることで日本を表現することが出来るのです。
  「きものは日本のパスポート」といわれる所以です。海外との交流の機会が多くなった今日、日本人であることの証を求められることも多くなっています。きものを着ることにより、そして「きもの」の本質を知ることにより日本を語ることが出来、世界とメッセージを交わすことが可能になるのです。
 このたび開講する「きもの学」においては、「きもの」の視点から日本の文化、生活、経済という様々な世界を見つめなおしていただきたいと願っ ています。
 本講座を通じて、きものが日本の歴史と風土の中で磨かれてきた衣装としての変遷や、伝統的な形態の中に表現される美の追求と、 多様で清新な染織文様、色彩、技術の創造力、そしてそれらを生み出す 職人や工芸家の生の姿など、日本文化の本質ともいえる多彩な価値の集 積を、各方面から幅広く学んでいただくことを目的としています。


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