第114号(平成15年7月1日)
− 加 撚 複 合 糸 −
ハイブリッドシルクの新しい展開
蚕糸科学研究所  青木 昭ああ

 今やハイブリッドカー、ハイブリッドコンピューターなど生物用語「ハイブリッド」が各界に定着した用語になっている。オイルショックを契機として「きもの」需要が低迷し、1983年には17万俵を越える生糸が滞貨して以来、新しい絹の用途の開拓が強く求められてきた。
  そのような背景のもとで養蚕、製糸、絹加工に及ぶ蚕糸研究陣が総力を挙げて開発したのがハイブリッドシルクである。繰糸の工程で繭糸と化合繊糸とを組み合わせて、両者の得失を補完した複合生糸に命名されたものである。華やかにデビューした新合繊も絹の知識に先導されてきた。いずれも蚕糸の科学・技術が時代を拓く先駆けを果した歴史の一コマである。

 パンティストッキング用のシルランに始まり、高速繰糸を可能にしたスーパーハイブリッドシルク、弾性糸と組み合わせたダイナミシルク等々の新素材が登場して、洋装分野を中心に新しい機能をもった製品を生み出してきた。

 これまでのハイブリッドシルクは、繭糸と化合繊糸とを引き揃えながらセリシンで膠着・抱合して1本の糸条にまとめたものである。構成素材の割合や弾性挙動の違いによって糸条が裂けたり、ループ状の節が発生したりするため、繰製後、直ちにボビンに巻き上げて撚糸するなどの複雑な後工程を必要とするものが多かった。
 これらの後工程を必要としない安定した形態の原糸ができれば、コスト、品質の両面から極めて有利であり、この解決が長い間の懸案であった。

 1、加撚複合生糸の誕生
 そこで、現状の自動繰糸機に組み込めるカバリング装置(撚糸機構の一種)を考案し、繰糸過程で走行中の生糸に化合繊糸を一定のピッチで巻き付ける方法を蚕糸科学研究所が開発した。これにより、天然繊維や化合繊のフィラメント糸、紡績糸および特殊加工糸などと繭糸との複合糸が容易に繰製できるようになった。糸の構造が安定しているため、取り扱い易く、カセ仕上げで供給できる。
 この装置は各緒毎に異なる素材を、所要のピッチでカバリングできるなど小回りのきくのが特色で、少量多品種、クイックレスポンスなど現代流通事情に適合した新素材といえよう。
 このカバリング&繰糸の複合糸は、あたかも通常の撚糸(Twist Yan)と同様に扱えることから「加撚複合糸、または加撚複合生糸」と呼んでいる。繰製して直ちに精練・染色や製織工程に投入できることから、いわゆる「完成原糸」ともいうべき新しいタイプのハイブリッドシルクである。試作過程の製品を紹介して、この糸の可能性を展望してみよう。

 2、織物にして
 ナイロン、ポリエステル、ポリウレタン、強撚生糸および絹紡糸等との複合糸を繰製して、織機上に仕掛けた生糸の経糸に、これらの複合糸をそのまま緯糸として織り込み、精練して白生地(後練織物)に仕上げた。ナイロン混やポリウレタン混は強撚しないでもクレープ効果を発揮し、絹と複合する材料との弾性の違いが固有のシボ立ちと風合いを形成する。殊に、ポリウレタン混では複合率や延伸率のコントロールによって大きなシボ立ちが得られる(写真2−C)。また、絹紡糸混の生地は膨らみと柔らかさをもち、強撚生糸混は爽やかなタッチの生地となる。いずれの生地も支障なく縫製でき、それぞれ特徴ある外観・着心地のブラウスに仕上がった。
 織物規格に合わせて繰製すれぱ、そのまま先練織物、先染織物の工程にも投入できる。

 3、ニットとして
 ポリウレタン混の加撚複合糸は、従来の引き揃えタイプのハイブリッドシルクに比べて著しく取り扱いが容易になった。精練すると大きなストレッチ性(伸縮自在な機能)を発揮して、フィット性豊かなTシャツに仕上げることができた(写真3)。
 衣服素材のストレッチ性は、衣服と皮膚との間の「ゆとり」との関連のもとに、肌着の着心地やスポーツウェアのボディラインの美しさに関わる性質である。ウーリーナイロン混単独の編地、ナイロン混とポリウレタン混の交編を、それぞれポロシャツやTシャツに仕立ててみた。両者の微妙な違いが編地の構造(写真4−AC)からもうかがえる。
 最近、完全無縫製コンピューター横編機が登場し、その製品をホールガーメントと呼んでいる。自動的に編目を増減して、編機上で完成品に仕上げる。
 裁断、縫製、リンキング(編目同志をかがり縫いすること)などの工程が不要になり、多くのコストメリットも生まれ、新世代の編機として注目されてきた。これらの機械では、編糸の変形が大きいため、弾性糸の利用が不可欠の条件となっている。まさに加撚複合糸は時代の要請に応えられる資質をもったニューシルクといえよう。

 4、これからの課題
 かって、スーパーハイブリッドシルクが登場した時、「洗えるきもの」に挑戦して、所要の寸法安定性や染色堅ろう度が得られている。水洗いができることは、環境にも好ましい。

 織物では、フォーマルな絽の正絹着尺とともに、夏の風物詩を飾る「浴衣文化」にも絹を加えてみたい。シルク/綿(写真1−B)、シルク/麻などの加撚複合糸は、活動的な夏着尺に向けての利用が課題の一つである。
 ニットでは、加撚複合糸の構造や素材との組合せから、緩やかな(10〜20%)、活動的な(20〜40%)、そして強力な(40%〜)ストレッチ率など、スポーツやファンデーションの分野にも手掛かりがみえてきた。

 近頃、消費者志向として商品の氏素姓が強く求められている。履歴や由来が安心して使える保証にもなり、価値観を支配する要因になっている。特に「きもの」では国産品への要望が強く、蚕品種「小石丸」の高い評価も消費者心理の顕れであろう。

 人工の豊かさのなかで、昔の自然に残された感性に、新しい息吹を添える技術が求められている。今や「小石丸」からニューハイブリッドシルクに及ぶキメ細かな素材開発が、衣生活における絹を広げて、新しい絹の文化を育むものと期待される。


− 桑の多目的利用 −
「果実としての桑の実利用について」
群馬県蚕業試験場 主任研究員  関 耕一ああ

 最近、健康志向を背景に、桑の持つ機能性に着目して桑の多目的利用の研究が進められ、研究成果が実用化されつつあります。中でも、桑の実は、体の酸化を予防する作用のあるポリフェノール(アントシアニン)を含んでいることから新たな注目を集めており、生食用、ジャム、菓子等の加工素材として見直されつつあります。県内では「どどめ」の名で知られる桑の実、英語で「マルベリー」といわれるので、「ストロベリー」や「ブルーベリー」などの「ベリー類」の一つとして考えられます。

 当場では桑の実を食品等への利用目的に、桑品種の選定、栽培方法および利用方法について調査・研究を進めておりますので、その概要を紹介します。

 (1)桑品種は、桑の実を収穫することを目的に下記の18品種を栽培して調査・研究を行っています。
   一ノ瀬、剣持、フィカス、カタネオ、大唐桑、ララベリー、ポップベリー、九71-94四培体、トルコ2四培体、米国13号四培体、ミラン5号、米国13号、富陽桑、類無、多胡早生、白椹桑、No319、No405。「ララベリー」、「ポップベリー」は独立行政法人農業生物資源研究所が果実採取用として育成した、豊産性・大粒な桑品種です。

 (2)収穫時期は5月下旬から6月中旬頃まで、大唐桑、ポップベリー等は5月下旬頃、フィカス、カタネオ、ララベリーは6月上旬頃がピークで、収穫期間も長い傾向です。収穫量は、フィカス、カタネオ、ララベリー等が多い傾向であり、ジャムやジュース等の果実の採取用に適しています。

 (3)果実の大きさは、普通1〜2cmですが、「ポップベリー」はポップコーンをイメージして名付けられ、4〜6cmと大きく、果重も6〜7gあります。次いで、「大唐桑」が3〜5cm、4〜5g、「ララベリー」は3cm、4〜5gで、実が大きい品種です。

 (4)実の成分含量をみると、食味に関する糖度と酸味では、Brix糖度(甘さ)が高い品種は剣持、多胡早生、一ノ瀬等で、多収であるフィカス、カタネオ、ララベリーは低い傾向です。酸味(酸っぱさ)は、九71-94四培体が低く、他は大差ない結果でした。タンパク質、ビタミンC、無機質は品種間に特徴的な差異は認めがたいが、同類的なブルーベリーと比較すると、鉄、カリウム、亜鉛が高い含量を示しています。
  フィカス、カタネオ、大唐桑、多胡早生の4品種について、ビタミンA・B群・E及びアントシアニジンの測定をした結果、どの品種もビタミンB1・Eの含量が高めであり、多胡早生以外の品種ではブルーベリーと同程度のアントシアニジンを含有しています。生食用では多胡早生、一ノ瀬等が「糖度と酸味」のバランスから好まれています。

 (5)食材への利用では、東日本製菓専門学校に依頼し、ケーキ、アイスクリーム、サブレの試作を行い、程良い酸味と甘みがあり、ケーキ、アイスクリームに合うという評価を得ました。実用面では沢田農協(中之条町)がワインやジャムを販売しているほか、前橋市荒口町で「ハーベリーガーデン」を営む住谷さんは生食用とジャムをJAの直売で販売し、ケーキは注文販売を行っています。

 以上、果樹としての桑の実利用について述べてきましたが、桑の実の機能性については、まだ、化学的な解明が十分ではありませんので、大学との共同研究によりその効果を明らかにして、利用拡大を図っていきたいと考えております。


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