第117号(平成15年10月1日)
  ― ぐんまシルクによる商品開発 ―

  絹は人の心と心をつなぐ

高橋 和夫     


  日本の絹は、多くの人の心と心をつなぎながら、生活を支え文化を育み悠久の時を刻んできた。とくに明治の初期から蚕種、製糸、織物は輸出の花形として、産業の近代化や文化の振興に大きく貢献してきた。しかし、隆盛をきわめた蚕糸絹業も、1960年代以降途上国の進展や国際化の流れのなかで、急速に衰退し、今日では崩壊の寸前にある。こうした厳しい状況ではあるが、自然環境に負荷が少なく、人にも優しい絹のはかり知れない可能性に夢を託した、商品開発の一端の紹介と、微か見える展望について考えてみたい。
「商品開発の経過」

 これまで、ぐんまの絹を使用してワンピース、ブラウス、スカート等の婦人服製品、スカーフ、ストール等の服飾製品、セーター、ジャケット等のメリヤス製品、バスタオル、ボディータオル等の浴用製品等々の開発に10余年携わった。この間、展示会や商談会も県内をはじめ東京、ヨーロッパ等で数多く開催し、販路の開拓に努めてきたが、婦人服以外はかなり健闘したものの、肝心の婦人服に充分な結果が出せなかった。それは、高額商品のため景気後退の影響も考えられるが、トレンドの掌握、デザインの開発、営業活動等に不充分さがあったと思われ、今後に課題を残した。

 一方、ネットロウシルクは、新たに製糸機を導入し各種の糸からはじめ、膨らみがあり、軽く、柔らかく、暖かい等の特性を活かしセーター、スカーフ、ボディータオル等を開発した、弱点の毛羽立ちをおさえる加工方法にも見通しがつき、売れ行きも順調で期待以上の結果をもたらした。

「蚕種の改良」
 群馬県では、衣料用の新たな消費需要に応えるために、白度の高い「ぐんま200」細く長い「世紀21」ムラ節が少ない「新小石丸」等のオリジナル蚕品種を開発し成果をあげてきたが、これからも品種改良や研究用として、多くの種類の蚕を保存、継承している有利な条件を活かし環境、健康、美容等の分野にかかわる新しい蚕糸の創出が期待される。

「製糸の多種類化」
 多様化する本もの志向、県内製糸では、すでに100種類以上の生糸を生産しているが、さらに、小石丸、天蚕、座繰り糸等往年の名品の再生や合撚糸、飾り糸、極太糸、ネットロウシルク、ハイブリット等特化した糸を開発し生産者、作家、学生等多くの需要者のニーズに応える、幅広い生産供給体制が必要である。さらに、製糸工程でホルマリンを全く使用しない生糸を安全、安心の健康素材として乳幼児、アレルギー性体質、皮膚障害等の人たちを対象に、積極的に宣伝すれば普及の可能性は大きい。

「商品の開発」
 商品開発は簡単ではない、企業の多くが零細で中間製品の生産や委託加工等の状況にあり、新たな開発に挑戦するには情報収集、技術革新、資金調達等多くの課題を乗り越え、英知と努力の集中が求められる。市場の熟成により、消費者の意識は個性化、多様化、高級化等の傾向が顕著となり素材、デザイン、技法等に拘った手づくりの一点もの、一生もの等の高級品に関心が高まっている、これらの対応には、多くのエネルギーが求められリスクも伴うが、オンリーワンをめざし一点突破で臨む決意と努力が必要。

小さな開発グループ
 お節介と好奇心が嵩じたのか、商品開発に興味をもつ織物、縫製、刺繍、染色、レース、メリヤス等の企業の比較的若い人たちを対象に3名〜5名の開発グループを10以上立ち上げた。グループ化のメリットは、仲間の動きがよく見える、競争心が生まれパワーアップされる、決断が早くフットワークが良くなる、活動が社会的に認知され責任感が生まれる、個々では難しい事業でも実現の可能性が生まれる等である。

 このグループ活動は万能ではなく一つの手法であり、共感、共生の時代が求める資質向上への動機づけと、そのトレーニングの場と位置づけており、その結果を個々が日常の現場おいてどれだけ活かしたか、その姿勢と努力により評価が決まると考えている。

 この活動では、創造性と技術力を融合させた開発商品を目標としてアメリカ、オランダの公立美術館で開催した展示交流会、産地間、異業種間の交流連携等による商品開発や、話題性のあるヒット商品の誕生等着実に成果をあげてきたが、現在でも様々なかたちで活動が継続している。

目標の明確化
 日本の絹業振興に、群馬の絹の需要拡大が果たす役割は大きく、素材から最終製品化、販路の開拓までの一貫した体制の確立を目標と定めた。実行段階で曖昧さや手抜きに妥協せず、計画の進捗状況、問題点の改善、到達点の確認等、目標を確実に達成させるための迅速で的確な対応が肝要である。
情報の収集

 トレンド傾向、消費者ニーズの掌握、素材技術情報、異業種の連携交流、調査研究等により情報の収集と信頼関係の醸成につとめるが、とくに必要なのは、自らの体験と広い人脈による生きた情報の収集である。

計画の具体化

 満足して頂ける物づくりとは、いつも悩む、やはり、共感を共有できる物づくりは、革新技術も大切ではあるが、地域に集積された小型機、低速機、手作り機等に熟達した丁寧な手作業、この技術の活用が最も有効と考える。計画の良否が全ての結果を決める、間違いは許されない、使用素材の選定、製造や仕上げ加工の方法等に検討が重ねられ確かな計画となる、ここが総合的技術集団の優位さか。

 しかし、これまでの製品化では、トレンドの掌握、素材を生かすデザインの開発、パターン展開等に力が及ばず常に課題を残したので、これからは実効性を重視し、知名度と実力のあるデザイナーやパタンナー等の専門家の指導もうけ完成度を高め、楽しい物語があり、説得力のある本ものの商品開発をめざす。

販路の開拓

 商品をつくっても売れない、どうしたら売れるか、お客さんや販売者の声、意見や苦情は最大の情報源であり、バイヤーやマーチャンダイザー等専門家の指導もうけ、商品や販売方法に反映させる必要がある。また、生産者の顔や考え方、商品の特徴、素材、加工の内容、取り扱い方法、保存方法等の商品情報を可能なかぎり提供し、消費者の信頼獲得に最善を尽くす。

 来春、一つの到達点として北京市で展示商談会を開催することと、同市に店舗を開設することを計画しているが、それを契機にしてさらなる展開を予定している。

展示会等の当面の予定 

 11月:群馬県、日本絹の里
 12月:東京ビックサイト
  3月:東京(場所未定):群馬県庁:中国北京

まとめ
 急速な多様化に対応できず、後退を余儀なくされる場面も見受けられるが、日本は品質と感性の優れた製品をつくり出す伝統と高い技術力をもっており、それは世界の何処にでも通用するものです。お客様は、どの商品を何処で誰から買うかに拘るようになってきました。これはお客様との信頼関係が前提であり、誠実に応えることが大切です。

 一方、急速に経済力をつけてきた近隣諸国に富裕層が着実に増大しているが、日本の高級商品は憧れの対象として人気も高く、ビジネスチャンスが広がり販売攻勢をかける時期の到来を感じます。乏しい経験と微力しか持ちあわせませんが、要は実行する強い意志とその手順づくりにあると考え、この先を楽しみにしています。

※社団法人日本絹業協会注記:筆者は桐生市在住のシルク研究者。


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