第51号(平成10年2月15日)

いま、シルクが面白い

蚕糸科学研究所 小松計一

健康衣料としてのシルク需要が伸びている

 衣料素材としてのシルクが最も得意とするのは、和装・洋装を問わず、美しさと着心地の良さを存分に発揮できる晴着やフォーマルウェアの分野です。ところが、最近が子が少しづつ変わって来ているようです。というのは、シルクが吸・放湿性や保温性に優れ、衣服の内外の急激な温湿度変化を和らげる作用(緩衝作用)の強い、言い替えれば「人の身体に優しい」繊維であることが再認識され、健康衣料として需要が伸びつつあるからです。

新しいシルク続々誕生 

 フォーマルウェアだけでなく、肌着や中衣のようなカジュアルウェアの分野にもシルクが進出しているということです。このような需要の変化に対応するため、新しいシルク素材の開発が進められています。ニューシルクとでも呼ぶべき新しい素材の主なもののあらましをまとめると図−1のようになります。生物の交雑種(ハイブリッド)が両親となる純粋種の性質を合わせ持つことに因んで名付けられたハイブリッドシルク及びスーパーハイブリッドシルクは、パンティー・ストッキング、タイツ、ソックスなどのほか、ニット製品や織物としてシルクの感触を残したままのイージーケア製品を狙っています。戦前に開発された網状絹糸の流れを汲むネットロウシルクとスパンロウシルクは、生糸や絹紡糸が余り得意としない嵩高な素材として、セーターなどのニット製品を中心にカジュアルウェアを目標に開発されました。ネオスパンシルクは、練ったシルクを紡績するこれまでの絹糸紡績の常識を被り紡績してから練る、いわば後練り絹紡糸で、独特の軽さ、柔らかさ、暖かさを生かしたソックス、セーターなどの衣料用ニット製品のほか、ガーゼ、包帯、化粧用小物のような非衣料分野への応用も検討されています。シルクトウは、これも戦前に開発された操繭篠の再開発ともいうべきもので、牽引切断して紡績糸とするほか、嵩高加工をして布団中綿とする技術が開発されています。

非衣料分野に進出するシルク

 美しい繊維であるシルクはまたタンパク質でもあります。このことがシルクの用途を非衣料の分野にも広げています。シルクがなぜ非衣料分野でも使われるようになったのでしょうか。それは、まずシルクが数多いタンパク質の中でもユニークな縄性質を沢山持っているからです。また、シルクは繊維から水溶液まで、材料として様々な形態を選ぶことが出来るからです。実に、シルクは純度の高いタンパク質として大量にしかも容易に入手出来るからです。
 いま、シルクの特性又は材料形態の立場からシルクの非衣料分野への利用を大まかに整理してみると、図一2及び図一3のようになります。勿論、図に示した全てが実用化されているわけではなく、研究段階のものも含まれています。それにしても、何と広い分野で利用され、また利用が考えられていることでしょうか。
 シルクはいま、まさに衣・医・食・住の分野に進出しつつあるといってもよいのではないでしょうか。
 現在までのところ、非衣料分野で消費されているシルク(フィブロイン)は30トン内外と推定されています。これは生繭に換算すると200トンほどになり、消費量としては必ずしも多いとはいえません。しかし、非衣料分野で使われるシルクの多くが衣料素材にならないというウエイストシルク(屑繭)を原料としていること及びそのウエイストシルクから高付加価値の製品が得られていることに注目すべきです。
 シルクの非衣料分野への進出は、ニューシルクの開発とともにニューシルクへの脱皮であり、『いまシルクが面白い』といわれる所以の一つのように思われます。


歴史の道『絹の道』

一日本のシルクロード−その2

八王子フアツシヨン協議会幹事 夏原進

4.黒船来航と世界へつながる絹の道
 18世紀後半になると欧米列強諸国では、商品の販売と原料確保を目的としたアジア進出が次第に本格化して、日本にもそれらの勢力が徐々に押し寄せ黒船の来航をきっかけに開国への道を歩み始めました。突然の黒船の出現は幕府や江戸の人々ばかりでなく八王子.鑓水の人々にとっても大きな出来事でした。開国後の経済や流通の急激な変化は農業をしながら商人としても活躍していた彼等に大きな影響を与えました。
 安政6年の横浜開港は近代日本の夜明であり、近代日本の経済基盤は、始め生糸でした。関東山麓の養蚕地帯から産出された生糸は交通の要衝地八王子で扇の要のように放射道路が集中し、ここから一本の道になり横浜へ通じる道、これが浜街道「絹の道」でした。八王子に集められた生糸は、八王子宿から横浜港までの約42キロメートルに及ぶ道を馬に積まれてまたは人の背に担がれて運ばれました。(『糸目の道』の名称は昭和20年代の末に地域の研究者が名づけました。)
 中世から江戸時代にかけて関東地方は鎌倉街道などの五街道の発達で、宿場町が栄え市が賑わいました。小さな漁村に過ぎなかった横浜は、開港によって文明開化の担い手として重要な港町となり、イギリス、アメリカなどの日本での拠点となりました。「絹の道」を通って横浜に運ばれた生糸は、輸出品の花形として欧米に積み出されました。
 八王子糸は、妾霧生糸需要が舌発で安政6年の開港以来5年間で生糸値段地30倍にも暴騰しました。

5.鑓水商人の活躍ぶり
 多摩丘陵のなかにある八王子鑓水は「絹の道」が通っていたばかりでなく、養蚕、糸取り、糸商の関係者が多く集まり財力もあって地域的文化も盛んとなり、鐘水は「江戸鑓水」と呼ばれました。鍵水商人は横浜港が開港されてから、近隣の信州・甲州・上州などの生糸を八王子に集め、仲買人によって横浜港を通じて輸出されました。生糸の流通や仲頁に活躍した鍵水の生糸商人には莫大な利益が流れ込み、大塚五郎吉や八木下要右衛門などは大きな屋敷を構え異人館を立てて外国人を招いたりしていました。鑓水地区には、江戸時代から明治時代に掛けて生糸商人の豪商たちが残した数々の記念物があります。彼等は糸商で蓄えた資金を誇るとともに村の繁栄、商売の成功を祈る気持ちで率先して神社や寺に様々なものを寄進したのです。明治8年建立の道了堂はその代表というべき寺院で現在も大塚山公園内には往時の石段や石碑が保存されています。

6.西洋文化と生まれ変わる絹の道跡と「絹の道資料館」開館へ
 開港地の横浜へつながる道は、西洋から入った文化を逆に国内へ行き渡らせる役目を果たしました。横浜で発行された新聞や雑誌、ランプやマッチのような珍しい生活用具、そして自由思想といった新しい考えやキリスト教までも、生糸が運ばれた「絹の道」をたどって八王子と多摩周辺の村々へと伝わりました。
 開港後、横浜へ最短距離で結ばれた道路網は、馬車や鉄道の発達によってその役割を変えました。明治五年(1872年)東京・横浜間の鉄道開通は、鉄路による物資輸送が盛んになりその後の明治政府のとった富国強兵政策により鉄道網は次第に整備され輸送力が向上しました。この新しい鉄路による「絹の道」は、より遠くのより多くの生糸を輸送することができ日本の生糸貿易は大きく成長し、多くの外貨をもたらす元となりました。
 「絹の道」は、横浜港から横浜鉄道が開通した明治41年まで使われましたが、その後、道は鉄道にその役割を譲り、廃れ、鍵水商人も徐々に活躍の場を失い、絹職人も集まらなくなって、人々のざわめきがゆっくりと時間が進む里道に変わっていきました。その後、道路の拡張や住宅地開発などで周辺環境が次第に変るとともに「絹の道」の歴史的雰囲気も損なわれ、次第に消え当時の面影を今に留めるのは、八王子市鍵水地区に残る920メートル、幅2.7メートルの細い道だけとなりました。(指定区間 御殿橋から大塚山公園まで)
 八王子市は昭和60年に係員の道」保全と環境整備を目的として基本構想を策定し、この計画に従って昭和62年からかっての鑓水豪商八木下要右衛門屋敷跡に発掘調査による道構の確認や石垣の復元などを経て建物の再建が進められました。これにより鑓水商人屋敷の景観を充分に想像させる門や塀をめぐらせ本館が完成し、その後資料館としての展示作業が加えられ平成2年3月に「絹の資料館」の開館をみました。

7.終りに

 建ち並ぶ巨大マンションや幾多の学園キャンバスを大きく飲込んだ新しい姿の八王子に住む私は、もはや「絹の道」や「桑の街路樹」は一つの時代を究めた伝統ある八王子の消えゆく挽歌との思いに吸い込まれがちであります。
 しかしながら、このニューシティー八王子が明日を作るエネルギーの根源と考えれば、今この八王子の中で敢然と21世紀に向け育ちつつある「八王子ファッンョン」にも大きな支えとなるであろうことを信じ、やがて世界をリードする八王子ブランドとして羽ばたくことも遠くはあるまいと思う此の頃であります。


イベント情報

 

第3回「真綿のヴィジュアル・アート」公募展
・期  間 平成10年2月17日(火)〜2月20日(金)10:30-18:00 最終日16:00まで
・展示内容 真綿をより身近に、また、理解を深めるため個性豊かな真綿作品の展示発表
・場  所 世界観ギャラリー(千代田区神田小川町3−28−13)
      03−3293−6334
・交  通 JRお茶ノ水駅下車徒歩5分 (入場料無料)
・主  催 財団法人日本真綿協会
・協  力 全国養蚕農業協同組合連合会・

 

繭産地ブランドシルク展示会
・期  間 平成10年2月24日(火)〜2月27日(金)土・日・祝日休館(入場無料)
・展示内容 繭産地が誇る各地の地域色を出したシルク製品の数々
・場  所 蚕糸会館1階 ジャパンシルクセンター
・主  催 社団法人日本絹業協会
・協  力 農畜産業振興事業団
・後  援 農林水産省

 

ハイブリッド絹展’98  −いまシルクがとても新しい−
・期  間 平成10年2月24日(火)・・・・・・・13:00 -17:00
           2月25日(水)〜26日(木)10:00 -17:00
・展示内容 最新のシルクハイブリッドの成果及び研究成果の数々
・場  所 蚕糸会館6階特設会場(ジャパンシルクセンターに同じ)(入場無料)
      お問い合わせ先 03−3364−0469藤田まで
・主  催 シルク開発センター
・協  力 農畜産業振興事業団、蚕糸・昆虫農業技術研究所、蚕糸科学均肝究所、ほか
・後  援 農林水産省、日本絹人織織物工業会、東京婦人子供服工業組合

 

春の大感謝セール
ブランドメーカー各社の協賛により、シルクや色々な製品を特別の価格で販売を致します。
・期  間 平成10年3月18日(水)10時-17時・19日(水)10時-N16時
・場  所 蚕糸会館6階特設会場
・主  催 ジャパンシルクセンター 03−3215−1212
・交  通 JR・有楽町駅 地下鉄・日比谷駅・有楽町駅