第54号(平成10年5月15日)

  桑の実(堪)

桑の実を食べたことがありますか? 

 桑の実が実る季節となりました。鮮やかな緑色した桑の葉の間に、熟れ方に応じて紅や紫さらには黒紫と色とりどりの梶が見え隠れするのは、この時期の日本的な田園風景の一つでした。口に頬張った時の甘酸っぱい味覚を楽しんだ後は、紅色や紫色に染まった口の周りや歯をお互いに咎めたり、笑いあった腕白時代を思いだされる方々も少なからずおられることでしょう。
 字典によると、桑の実を漢字で『堪』とも書き、「チン、シン、ジン」(音読)、「さわら」訓読〉と読むことも出来ます。また、意味は桑の実のほか木を割る台や弓の的、建築材などに使われるヒノキの常緑樹のことをいうこともあります。(角川・大字源による)最近では、桑の実をジャムや桑酒として利用した商品が市場に出回り、野趣豊かな風合いによって根強いファンを持っています。

世界中から1200種を集めて研究 

 この桑の実を科学の目によって見ると、桑の貴重な遺伝子の保存と優良桑品種の育成素材の重要な資源として改めて脚光を浴びています。
 農林水産省蚕糸・昆虫農業技術研究所では世界各国から1200品種余りを収集し、それぞれ特性調査を行っています。寒冷に強い品種、干ばつに抵抗性の高い品種、収穫量の多い品種等それぞれ育種の目的に沿って利用するため圃場や温室等完備した施設によって維持管理を行っています。
 これらの品種のうち、雄性の品種を除く271品種について、特性評価の調査を実施した中から興味のある堪の大きさ(長さ、重さ)、糖度等について以下ご紹介します。
 まず、どの程度の長さがあるかを比較して見ると、もっとも長いのは『大唐桑』で4.9cm次いで『カナダ産桑B』が3.6cm、『4倍性桑』が3.0cmで平均は2.0cmとなっています。また、重さは一般的に長い梅は比較的重く、最長の『大唐桑』が7.2g、『カナダ産桑B』が4.6g、『カタネオ』が3.3gとなっていますが、3.0g以上はわずか6品種です。全体の平均も1.3gと意外と軽量ですが、平均の5倍以上の重さの堪を着生する品種が見いだされたことに驚いています。

蜜柑や葡萄よりも甘い? 

 甘酸っぱい味覚に関わりを持つ精度は、東日本から北日本あるいは高地にかけて多く見られるヤマグワ系品種がやや高い傾向を示します。具体的な品種としては、『ミュリエノアール』(20.8%)、『伊達赤木』(18.1%)、『赤木』(17.5%)などが高い値を持っています。全体の平均値は11.5%ですが、品種によって6.6%〜20.8%とかなり幅のあることがわかりました。これから見ると前述の大きさ〈長さ、重さ)の首位にあった『大唐桑』は12.0%と中位になっています。
 桑の実も品種によっては、秋の味覚の主流である蜜柑や葡萄と同じ程度か、それ以上の糖度を持っていることが分かり一段と興味を覚えました。
 最後に、樋を数多〈着生する10品種を用いて十段階評価で禍の食味(官能)試験を行った結果によりますと、『大唐桑』及び『カタネオ』が比較的高い評価を得ました。
 山野の散策途中に、桑の実が目bこ留まった時、権の大きさ、味覚、品種等とともに思い出話を取り混ぜて話題を広げ、遊歩の楽しみ倍加の一肋しなればと筆をとりました。(本稿は蚕糸.昆虫農業技術研究所発行の『蚕糸昆虫ニュース』をベースに当協会が作成しました。)


 新製品情報

火傷等の治療に最適の絹フィブロイン製被覆材
 農林水産省蚕糸・昆虫農業技術研究所では、この度、火傷等の治療に優れた性能を持つ絹フィブロイン製の被覆材を研究開発し、有望との目処がたったので同研究所の資料を基に、その概要を報告します。一般に、火傷等の傷口を覆い治療の被覆材を開発する場合の条件は、
@傷口を塞ぐ細胞の成長速度が速く、細胞の形態が整い、傷面への密着性が優れている。
A皮膚への刺激が少なく、柔軟性があって、しかも雑菌等の感染が防止できる。
ことなどが考えられます。これまで傷等の被覆材として例えば豚の皮膚などが使われていましたが、その機能は必ずしも上に述べた条件を十分に満たしているとはいえず、より一層優 れた被覆材の開発が望まれていました。
 今回、同研究所では、手術用の縫合糸として長年利用されてきた絹糸を材料に創傷被覆材の開発生産を手掛けました。製造方法は図−1にあるように繭糸や生糸を科学的・物理的に処理してアモルファス(非結晶性)の絹フィルムすなわち創傷被覆材を作るのです。

創傷被覆材では初めての成果が 
 このアモルファス絹フィルムは、傷を治療する過程でα型結晶に分子形態が変化するのが特徴であり、このような変化をする創傷被覆材は初めてで、まだ知られていません。
 このフィルムを用いた実験の結果を見ますと、まず試験管を用いた人間の皮膚細胞培養の細胞増殖効果は、α型フィブロイン培養床(実験区)とポリスチレン培養床(対照区)では実験区の細胞は活発に一様な成長が見られ、細胞相互間に空隙を生じることがなく、細胞シートを形成したのに対し、対象区では細胞の増殖は見られませんでした。

動物実験でも良好な結果が見られる 
 次に、動物実験として、マウスの皮膚の一部を人為的に剥離して、フィルムで被覆し、皮膚の治療経過を見たところ、
@フィルムが傷の部分の惨出液を吸収して溶解し、傷面に密着する。
A溶解液は徐々にα型に転移(固化)する。
B刺激性が少なく、皮膚の成長を促す。
など多くの治療効果が見られ、この結果、絹(繭)糸をアモルファス化したフィルムは創傷被覆材として有望であることが確認されました。
 絹の活躍分野がまた一つ広がりました。一日も速い製品化と、ますますの新製品の開発研究に期待を抱かせます。


図-1 アモルファス絹フィルムの作出フローチャート

繭層及び生糸等

      アルカリ溶液で煮沸
     (脱セリシン)

絹糸(フィブロイン繊維

     塩化カルシュウム等の

     中性塩処理(絹糸の溶解)

絹溶液(フィブロインの溶液)

     透析膜処理(脱塩)、
     オートクレープ滅菌

フィブロインの水溶液

     室温乾燥

アモルファス絹フィルム


イベント情報

農林水産省 消費者の部屋 特別展示
 虫が豊かにする生活の週 昆虫の特つ機能性とそ利用
1.衣のゾーン ・絹のドレス・紫色素を生産する微生物利用のきものなど
2.食のゾーン ・シルク食品・蜂蜜・コロニーなど
3.住のゾーン・シルクウェーブ(布団)・繭クラフト(盛り花)など
4.健康のゾーン・抗血液凝固物質・創傷被覆材・人工健など
5.環境のゾーン・昆虫フェロモン・天敵防除・ハエのリサイクル
一期  間 6月1日(月)〜5日(金)10時-17時
     (月曜日は午後12時から、最終日は午後1時まで)
・場  所:農林水産省1階『消費者の部屋』 千代田区霞が関1−2−1
・主  催:農林水産省
・お問い合わせ先:農林水産省「消費者の部屋」 TEL03−3591−6529
・交  通:地下鉄『霞が関』駅下車

夏のグランマルシェ〈予告)詳細次号掲載
一期  間 7月6日(月)〜9日(木)11時-19時
・場  所:千代田区丸の内有楽町丸の内仲通ジャパンシルクセンター前