第66号(平成11年 5月15日)
絹 の た の し み
野村町絹素材研究所 主宰 志村 明
絹の織物の物性は、糸の太さや織りあげ密度、撚り数などに大きく影響されていますが、羊毛織物用に開発されたKES評価装置による絹織物の物性評価を国の研究機関が考察しています。
織物の風合いをみる項目は、コシ、ハリ、フクラミ、シャリ、キシミ、シナヤカサの6項目とし、蚕品種によってフクラミ、シナヤカサが強調されたり、コシ、シャリ感が顕著となったりしています。こうした理科学的な評価は、これまで感性に頼っていた部分を計数化し繭や生糸づくりの段階で認識されなかった織物適性を考える上で評価できます。
このことは絹織物の良さが、基本的には素材である生糸の質的要素によって決定され、この質的要素は蚕品種、繭保存法、繰糸法の組合せによって構成されているとの指摘と一致します。この質的要素とは生糸の白度やツヤ、強伸度、繊度などであり、その質的要素は織物では風合いや感触を大きく左右しています。また、その種々の組合せは歴史的に変化しており、最も大きくは明治の前後の変化を遂げていることは、以前にも述べたとおりです。
すなわち、明治5年に設置された官営富岡製糸工場に代表される西欧型の量産体制により均質で統一された規格の生糸づくりが始まり、それまで素材の多様性を追及していた芸術的な織物づくりと一線を画し、蚕業から産業へと移行していったわけです。以後、いろいろな技術が消えていき、百三十年の時の流れの中で、今は何を失ったのかもわからなくなっています。
それを探る上で今回は、明治以前のことを概観してみましょう。
江戸時代は、中国からの白糸輸入禁止によって生糸の国産化が進んだ時代であり、最初の総合性を持った蚕書「蚕飼養法記」が元禄15年に刊行されています。以来百点ほどの蚕書が刊行され、代表的なものに亨和
3年の「養蚕秘録」、文化10年の「蚕飼絹櫛大成」があります。これらは、全工程において多くの絵図を用いており、高度な技術を平易に解説し一般化していった技術指導書であり、多様な蚕品種、飼育方法、糸とりの方法があることがわかります。それらの多くは未熟で稚拙であり、現在の技術には遠く及ばないものです。しかし、これらを注意深く再現していく過程で、明らかに現在とは違う絹織物づくりが展開されていくわけで、創作する上で極めて重要な宝が隠されていることに気付くでしょう。なぜならこの多様さは、単に技術の遅れによる不統一性に起因するというより、自然・風土の多様さを背景に合理性を追及した成果と捉えるべきでしょう。それは注意深く実践するなかで、それぞれの自然観や思考法まで読み取ることができ、絹の不思議さや深淵な複雑さに興味が広がっていきます。
このことは当織物館で糸作りから取り組んでいる織姫達が気が付くことであり、奥の深さに思いをいたすところでもあります。こ奥深さは、これまでムラのない均質な生糸によるキャンバス上で描く技術の高さのみが求められてきたことに対し、画材の特性を生かしながら技術を表現していく高度な創作活動
であることです。
現在、蚕糸業は蚕業としてはほぼ終焉を迎えようとしています。繭や生糸の価格は数年前の
程度までに下がり、織物業界は経営難に喘いでおり、最近の不景気だけにその理由を求められないと思います。本当の意味での構造改革が必要だったのは織物業界であり、今その波に洗われているのではないでしょうか。
製糸業界の一部は、技術の高さから輸入繭でも生き残れるでしょう。織物業界もまた企画力があり流通コストを下げ得るところは残るでしょう。しかしながら、養蚕は組織だった農業として残るのは難しく、染織文化を支える形で地域地域で残る道しかないでしょう。
県内では、久万地域で紬糸作りのグループが生まれ、農家にお願いして繭を生産してもらい全量買い取っています。
この野村町での取組みも小さな同人会の集まりで終わるのか、優れた織物業者と連携した奥伊予の生糸生産地になるのか、香りたつ絹文化の活動拠点と成り得るのか、いろいろな可能性を秘めた状況になっています。
そのためにも、今、私たちはその必要性を理解できる人づくりとネットワークづくりが大切と考えています。
最近、絹の特性が新たな切り口で研究され、人に優しく有益な成分を持つことが評価され種々の用途の広がりが期待されています。
このことは、知らないことは存在しないことではなく、知る努力なくして存在は見えないことを表しています。絹織物づくりに素材の多様性の大事さを百編説いてもそれを知ろうとしなければ分からないことと似ています。
毎年百人を越す織姫の申込みを一つの希望として育てていきたいと考えています。
改良型多条繰糸機による繰糸
織姫による絹織物づくり
着尺(福木・あかね)
ショール
今 評 判 の 食 べ る シ ル ク
昨今の健康ブームを反映して話題となっている「食べるシルク」の中から、ジャパンシルクセンターで展示販売されている色々な製品をご紹介します。
一番人気の『くわきぬ麺』 |
夏に需要の多い『三輪の絹入りそうめん』 |
今、話題の『桑茶』 |
シルクプロテインの錠剤『スーパーシルク錠』 |
ジャパンシルクセンターにはこの他『いなにわ手綯絹入りうどん』(進物木箱入り
1.2kg価格\5,000円、一把 200g
価格\900円)、『丹後の羽衣絹入りうどん』(一袋 250g
価格\400円)、『絹あめ』(一袋 150g 価格\500円)、くわジャム(一瓶
130g 価格\500円)などがあります。
一度、ご賞味をお進めいたします。
(注)上記の価格は、それぞれに消費税 5% がかかります。
イ ベ ン ト 情 報
第63 回 グ ラ ン マ ル シ ェ
シルク製品ご愛用の皆様待望のグランマルシェが開催されます。
シルク製品有名メーカー、シルク製品小売店、ジャパンシルクセンターなどの出店各社が各種のシルク製品を豊富に品揃え、お手頃な価格で提供いたします。
期 間 7 月5 日 ( 月 ) 〜8 日 ( 木 )11 時 〜19 時
場 所 千 代 田 区 丸 の 内 仲 通 り
ジ ャ パ ン シ ル ク セ ン タ ー
0 3 − 3 2 1 5 − 1 2 1 2
’ 9 9 シ ル ク ニ ッ ト 展 示 即 売 会
期 間 6 月3 日 ( 木 ) 〜6 日 ( 日 )11 時 〜18 時
会 場 東京都豊島区池袋1−29−5 「山の手ビル」1階催場
主 催 日 本 シ ル ク ニ ッ ト 協 会
これからのシーズンに最適なシルク製品をお届けします。
ブラウスなどの上着類、肌着類、スカーフ、ソックス類、寝装品
『 日 本 絹 の 里 』 第 2 回 企 画 展 示
江戸時代から現代までのいろいろな蚕や繭の変遷、蚕種製造の手順、
蚕種育成の歩んだ道などを展示
◎主 催:群馬県立絹の里
◎開催日:4月25日(水)〜6月7日(月)
◎場 所:日本絹の里 群馬県群馬郡群馬町大字金古 888−1
027−360−6300