第67号(平成11年 6月15日)

紡 ぎ を 着 る その1

ツムギ製法技術研究会 西城正子

手紡ぎのオリジナル洋服を作ってみよう

絹の手紡ぎの洋服は、貴女を一際美しく、熟女の気品を艶やかなムードを醸し出すこと請け合いです。そんな洋服が貴女御自身の手で「糸を紡いで、織って、着られる」としたら超贅沢な愛しの製品ではないでしょうか。その出来栄えは温もりと自然の優しさ、素朴さを呼び戻し、絹特有のぬめりの感触は「わが子を抱きしめる」のにも似た貴女だけのオリジナルな作品といえましょう。

紡ぎができるまで
これまでの主な研究成果

私は、45年もの長い間、蚕糸科学研究所で絹とともに様々な研究テーマと関わりあいながら歩んでまいりました。その中にあって「誰でもが簡単に糸を紡いで、布に織って、着用できる」ための糸紡ぎの方法について試行錯誤の結果、今までにない新しい糸紡ぎ方として『ガイド糸を用いた紡ぎ糸の製造法』の考案に辿り着きました。
これらの件の詳細については「蚕研彙報」の '86第1.・2.報、 '87年3.報、 '88年4.報、 '93年5.報に掲載発表しています。86年に開催された製糸絹研究会において同項の件について発表するとともに、この研究会では、90年に「細繊度生糸の繰製とハイブリット・ウール」、92年に「有色繭の繰製とハイブリット・ウール」、95年に外国野蚕「ヨナグニ蚕(アタカス)繭の紡ぎ方について」を発表しました。その間92年に「ハイブリット・ウール及びその製法」で日本特許(1708163 号)を取得しました。また、96年にはインドネシヤ共和国より招聘を受け、古都ジョグジャカルタで約 2週間「アトラス・アタカマ野蚕の精練と紡ぎ方法について」の研修を行って参りました。

紡ぎ糸で作られたスーツ

ガイド糸を用いた理由と効用

一口に糸を紡ぐといっても目的に叶った糸を紡ぐには、それなりに高い技術と熟練が要求されます。特に紡いだ糸に細斑の混在は手紡ぎ糸の最大の欠点となります。その欠点を克服するには従来ですとひたすら技術の習得に外なりません。
そこで均一な糸が至極簡単に紡げるように細い絹糸を採用しました。細くて美しい絹糸に僅かな材料を絡ませるだけで、難しいとされる点が解消されます。
この美しい絹糸を「ガイド糸」といいますが、糸を紡ぐときこのガイド糸に原料繭綿の先端を引き出し、必要な糸の太さ分だけ絡ませて一緒に巻き込んでいきます。ガイド糸は紡ぎ糸の命綱でもあり、上手になる近道といえます。丁度、定規を当てて線を引くのと同じ感覚です。

なぜ「ガイド糸」と呼ぶのか?

知らないところへ旅行をする時、美しいガイド嬢が案内人に付くと安心なように、紡ぎ糸にもガイド嬢ならぬ「ガイド糸」を付けました。その名を「ガイド糸」と呼びます。
ガイド糸の素材は高級機絹糸の元糸と同じ生糸で 4本の引揃えか、あるいはそれに合った太目の生糸を練って、染めてから使います。練った糸は絹本来の光沢があって、その「つや」は優雅で上品な味わいがあることは周知のとおりです。細い絹糸がガイド糸として紡ぐときに使えば一番難しいとされている細斑はたちどころに減少して奇麗に揃った糸が紡げるようになります。

図1-チーズに巻いたガイド糸

ガイド糸は 7色位常備しておくと(図 1)便利です。このガイド糸は他の紡ぎ糸にも応用可能で、その範囲は無限です。糸の女王絹糸をガイド糸に取入れることは、糸のみでなく製品のグレードも上がります。

紡ぎの原料は何?

古くからツムギの原料といえば真綿が第一に上げられます。勿論真綿も使いますが、ここでは一般的な上等の繭ではなく「玉繭」を使います。玉繭は 2匹の蚕が共同で 1つの繭を作り、その繭の中には 2つの蛹が入っています。型が丸くて大きく玉のようなところから玉繭と呼びます。
玉繭からは節のない奇麗な糸が操れないので(繭の世界では選除繭といって屑繭の仲間)玉糸や各種のツムギの原料に提供されます。繭が大きいので量的には能率が上がります。                       

原料繭の精練、染色法

紡ぎの原料は繭を柔らかく煮て繭綿を作ります。重曹や灰汁などの助剤を使って不純物を落とします。これを精練といいます。
ここではなるべく手間を省くために精練液の中に染料も一緒に入れて、同一容器内で染色も同時進行します。

丸みをおびた玉繭

「材料と調整」

1.玉繭 100粒( 180〜200g)、2.目の粗い袋(50cm×30cm)、3.20 用タンク
4.押さえ金網、重石、ガス使用、5.薬品…重曹3g/水 、6.染料…適量(絹用酸性染料)
7.浴量…水8 、うち2 は差し水、8.酢酸…重曹の2.5 倍ぐらいが目安

 

図2-材料と器財

図3-タンクの中

繭綿

「精練・染色」

繭は用意した袋に入れて口を括っておく(図 2)

繭は軽いので精練中湯面に出ないよう上から押さえて煮るのがコツです。
(1)浴量…タンクに6 の水を入れて、点火し96℃にあげる。(図 3のタンクの中)
(2) (1)の沸騰した湯に繭を入れて上から押さえて 1分数える。(繭の中の空気を抜く)〔高温滲透〕
(3)上から差し水 2 を入れる。温度が80℃位に下がって繭の中に温湯が十分に入る。〔低温滲透〕
(4)薬品の重曹と少量の湯で溶いた染料も入れてよく混合させ、再び網で押さえて30分精練・染色する。火加減は吹きこぼれないように注意する。30分処理したら一度繭袋を上下にひっくり返して斑練、斑染を防ぎ、更に30分温度管理しながら煮る。全体で60分経った頃火を弱めて、袋から繭を 2〜 3粒取り出して、水の中で煮え具合をチェックする。ポッテリと大きく柔らかくなって中まで硬いところがなければ精練完了です。
(5)酢酸は必ず精練完了時に 3回位に分けるか、袋を持ち上げて静かに入れます。よく混合するよう撹拌して酢酸が均一になるよう弱火で10〜15分煮て火を止めます。そのまま常温になるまで置きます。(一晩おいてもいい)(4)のチェックの時に繭に芯が残っている時は、更に10〜20分精練を続け、硬いところが無いことを確かめて酢酸処理します。(色の定着剤)
(6)脱水・洗浄・乾燥・蛹除去
タンクから繭袋を引上げ、そのまま30秒軽く脱水する。多目の水で汚水が無くなるまで濯いで、最後にもう一度 1分弱脱水する。練繭を袋から出して広げ、1粒毎に分離する。平な篭の上に繭の元の型になるようふくらませた状態で風乾燥する。冬期はストーブの前に置くと 意外に早く乾く。半乾又は綿の部分が乾いたら、蛹に一番近いところ(蛹が透けて見える部分)を両手の指でつまんで破り、繭をひっくり返して蛹と脱皮殻を取り除き、元の型に戻しておく。(蛹は早目に取り除くのがよい)(写真繭綿参照)

糸紡ぎ                         

電動糸紡ぎ車を使います。(図 4)
乾燥した繭綿から直接糸を引き出し、ガイド糸に絡ませて目的の太さの糸を糸口に送り込み、フライヤーを経てボビンに巻き取られるが、撚はZ撚(左撚)で、ボビンの回転とフライヤーの回転差によって撚が掛かる。ベルトの掛替によって、その撚はS撚(右撚)にもなる。

図4-電動紡ぎ車

糸の太さは目的によっても異なるが、ガイド糸に絡ませる量で決まり多くすれば太くなり少なくすれば細い糸になる。

 乾いた練繭から直接糸を紡ぐ方法もあるが、ここでは蛹を先に取り除いた繭綿を対象に紡ぎます。図5に見るように繭をひっくり返して蛹を取り出し、底の一番高いところを僅かにつまんで糸口を引き出し、繭を元の袋の状態に戻してそのまま内側から軽く引き出すと、繭を軽く持っているだけで、自由な太さの糸が淀みなく出て、ガイド糸に絡ませやすくなります。 

図5-繭をひっくり返して蛹を取る

糊と糊付け                       

糊付けは糸を紡ぐとき、糊皿をひざの上に置いて紡ぎながら右手指先で、糸口10cm手前の位置で付けて、糸条の毛羽立ちや浮いた節を安定させます。 【続く】


イ ベ ン ト 情 報

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千代田区有楽町1−9−4 蚕糸会館

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◇最寄り駅 JR・有楽町駅 地下鉄各線・日比谷駅・有楽町駅