第74号(平成12年 3月15日)
発行: 社団法人日本絹業協会・ジャパンシルクセンター

 絹ガラ紡糸「綿蚕」繭による新衣料素材の開発

蚕糸農業技術研究所能開発部衣料素材研究室神田千鶴子

 絹は和装および洋装用を問わず高級化と多様化に進展しているが、身体に健康的な吸湿性・通気性・放湿性などに優れ、軽くて「肌触り」の良いものが好まれる。それには従来の生糸を利用するだけでなく、新たな形質を持つ絹素材の作出が必要となる。

綿蚕「49」の繭層
綿蚕の繭層ラップ
ガラ紡機

 そこで、和紡績法の導入を行い、特殊蚕系統である「綿蚕品種」を用いて繭層のセリシンを除去することなく、開繭して製造した絹綿および絹ガラ紡糸の製造法を確立した綿蚕系統には、綿蚕「49」、綿蚕、綿蚕「17」などがあるが、この中からもっとも繭層重が多く、しかも繭糸間のセリシン膠着度が弱い綿蚕「49」を選び、数世代にわたり繭糸間のセリシン膠着を弱める選抜育成を行った系統を使用した。(図1)

 綿蚕繭の乾燥は、高温では繭層セリシンの固着が強まり、解じょ率が低下するだけでなく開繭しにくくなる。その上、精練後の開繭においてもセリシンの親水性や溶解性が低下するので、通常より低めの温度で乾燥を行う必要がある。

 紡績糸用ラップ(繭綿)作は、可動ハンドガード針布で櫛削る動作を繰り返しながら繭から繭糸をほぐして原綿を作成する。この原綿をまとめ電動式カードを用いて紡績糸用ラップ(繭綿)にする。この場合、ラップの切断回数と繊維の長さが、その後の紡績糸作りと糸の繊度などに影響することから、ラップを切断して数回カーデングを繰り返すことにより、繊維長を制御でき、作業性も向上した。この時点でそのまま紡出した場合には紡績糸が太くなるだけでなく、繊度むらや切断が多く発生した。そのためさらに、サンプルローラーカードを併用して開繭綿の繊維長を制御することによって、紡績使用繭層ラップを作出した。(図2)

 原綿から紡績糸作りには、日本で発明された綿筒(綿つぼ)の上下動(引伸し)と回転(撚りかけ)運動を基本とする簡易紡績(ガラ紡・加藤繊維工業所)を用いた(図3)。はじめにウエップ状の繭綿を適量ノリ巻き状にして綿筒に装填し、巻き取りシリンダーから糸と綿筒中の繭綿を連結して操作しながら、重なりによって糸張力を調整し、目的繊度の紡績糸(図4)を得るなど、紡出しやすい条件を確立した。

ラップから作出した紡績糸
綿蚕紡績糸ブラウス

 作出した綿蚕紡績糸織物の特徴は、精練することによって、繭糸表面のセリシンが取り除かれ、糸間・繊維間の内部空隙が増大するため、織物の見掛けの比重及び剛軟度が小さく、膨らみと柔軟性に富み、優れた光沢を呈した。しかも、たて、よこ方向の防しわ率も75%以上と高い値を示したことは、実用着にも活用できる衣料素材であることが分かった。試作した婦人用ブラウス(図4)などは、ほかの繊維製品と比較しても縫製上問題がなく、仕立て易く雅趣に富んだものとなった。

 今後は、綿蚕系統のセリシン固着を少なくする選抜育成を行い、開繭作業の省力化技術については、電動化を行ったが(実用新案登録3010422号)、更に検討を行う。また、綿蚕繊維と他繊維との複合紡績糸による洋装衣料素材の開発等を進める。


絹を学ぶ・絹で学ぶ

−高等学校「化学氓`」での実践−

東京都立晴海総合高等学校教大辻貴

はじめに
 このたび、ジャパンシルクセンターのはからいで、繭と絹布を提供いただきました。
 これらを用いて繊維の性質を調べたり、染色実験の材料として使った実験授業を行いました。その結果の内容を紹介いたします。

<教育課程上の位置付け>

 現在高等学校理科には4つの分野(物理、化学、生物、地学)があり、それぞれ生活と関連付けられる「氓`」科目と、系統的に学習する「氓a」科目、氓a科目を発展させた「」科目があります。生徒は最低限この4つの分野から2つの分野2科目を学習します。

 この中の「化学氓`」という科目に「絹」を扱う部分があります。この科目は「中学校理科との関連を十分に考慮し、その基礎の上に日常生活と関連の深い化学的な事物・現象についての学習を無理なく行わせることによって、化学に対する関心を高め、科学的な見方や考え方の育成を目指した科目」(高等学校学習指導要領解説、平成元年・文部省)で、週当たり2時間で行われます。この科目の内容は大きく5つあり、その1つ「日常生活の化学」のかに「衣料の化学」があります。ここでは「衣料材料として用いられている天然及び合成繊維の性質を観察、実験を通して化学的に扱う。代表的な繊維としては、綿、絹、羊毛、ビニロン、ナイロン、ポリエステルの中から2〜3の例を取り上げ、高分子の特性及びそれぞれの繊維の性質と用途との関連で扱う」(指導要領解説)ことになっています。

<繊維の性質>

 衣料の化学の第1回として、繊維の性質を調べる実験を行っています。木綿、絹、レーヨン、ナイロンの平織り白生地を配り、観察・実験の結果ら種類を当てるという内容です。観察としては、手触り・風合い・光沢・マイクロスコープで約10倍に拡大、また布をほぐして顕微鏡で100倍に拡大しています。このようにして、布の表面の状態の違いや繊維の様子を見ることができます。絹の光沢は肉眼で分かりますし、木綿の繊維のねじれた状態は顕微鏡ではっきり分かります。実験は2つです。1つは、熱による変化を見ます。炎に近付けたときの様子、燃える様子、燃やしたときの臭いも。燃えかすの様子を観察します。この実験は、簡単な操作である程度の繊維の識別ができるので家庭科でも行われることが多いものです。もう1つは、薬品(塩酸、水酸化ナトリウム液)による変化を見ます。この4種の布のうち、絹は唯一蛋白質ですから5%水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)液で煮ると溶けてしまいます。布がバラバラになり、繊維が分解して溶けていきます。ナイロンもポリアミド(蛋白質を構成するアミノ酸のペプチド結合と同じアミド結合で結び付いた高分子)ですが、絹に比べて水酸化ナトリウムで分解されにくいので溶けません。20%塩酸では、ナイロンが溶けます。数分間漬けておくだれで繊維か分解して溶けてしまいます。

 このようにして絹と他の代表的な繊維との比較を行ってていますが、布を作る糸の太さ、織り方、織りの強さなどによって手触りや風合いは影響されるのに対して、熱や薬品に対する性質は物質としての繊維の性質になることも学ばせています。今後は吸湿性や乾きやすさについても、実験的にデーターを取って考えさせるようなことを考えています。

<繭から生糸を取る>

 8個の繭を煮て、解舒し、8本引き揃えて糸巻きに巻き取ります。そのあと、長野県岡谷市の宮坂製糸所の様子をビデオで見せています。また、合成繊維のナイロンを界面重合で作り対比させています。

生徒の感想から

●1個の繭からとても長く糸が取れるのに驚いたが、服などを作るにはさらに多くの繭がいるもんだと気付き、繭は偉大だと思った。

●蚕の力はすごい、あんなに糸を吐きつづけるのにはびっくりです。

●すごい。繭からこんなに奇麗な糸が取れるなんて、すごい。

<絹を染める>

 天然繊維の絹糸を天然染料の紅花・藍・鬱金で赤・青・黄色に鮮やかに染めます。以前は蛹を取り出した繭をそのまま染めてましたが、今年から繰り取った糸を染めるようにしました。

 さらに、絹布を玉葱の皮で染め媒染剤による色調の違いを学習します。無媒染、アルミニウム媒染、鉄媒染で比較させています。玉葱の皮の染め液から媒染液に絹布を移すと、数分で色調が変化するのに驚かされます。また、合成染料を作り絹を含む多織交織布1)を染めて、繊維による染色性の差や色調の違いを学ばせ、他の繊維と比較させます。このように染色特性に優れる絹を染色材料として活用し、染料の種類や染色方法について学習します。

<他の科目での学習と今後の展望>

 生物では、カイコの解剖などを中心とした内容となります。家庭科では繊維というより布として被服材料の視点で扱われます。また、本校にはありませんが、農業科には養蚕、工業科には繊維製品、繊維技術といった専門科目があります(養蚕は2003年からなくなります)。このように絹について学習する科目もいくつかありますが、ジャパンシルクセンターとの縁を大切にし、普通教科の理科のなかでこれからも絹について生徒たちに学ばせていきたいと考えています。

<おわりに>

 生徒たちの中には小中学校での蚕の飼育経験を持つものも多く、繭を見た経験はあるようですが、触れたり糸を取ったりした経験となると少なくなるようです。養蚕から製糸、染色、織りといった「衣」に関する文化を伝承するためにも、今回紹介した5回10時間をかけて行っている実物の繭や絹糸、絹布を用いた実験を通して、これからも生徒たちに「繭」ゃ「絹」経験させていきたいと考えております。

繭から糸をほぐす
小枠に巻き取った糸

注1)多織交織布横糸がポリエステル、縦糸が木綿ナイロン、ビニロン、アセテート、羊毛、キュプラ、アクリル、ポリエステルとなっている染色堅牢度試験用の布


イ ベ ン ト 情 報

 

2000年春の桜セール

セール品は最低15%以上値引き。多数商品を取り揃えてお待ちしています。

日時:4月3日〜4月6日

場所:ジャパンシルクセンター千代田区有楽町1−9−4蚕糸会館1階

交通と最寄り駅:JR『有楽町駅』下車徒歩5分地下鉄・有楽町線『有楽町駅』

日比谷線・都営三田線『日比谷駅』各下車徒歩5分