第75号(平成12年 4月1日)

発行: 社団法人日本絹業協会・ジャパンシルクセンター

多摩シルクライフ2 1研究会の活動                        

多摩シルクライフ2 1研究会  小此木エツ子

 私は、退官前の平成4年秋に、東京農工大学において開催された、TAMAらいふ21協会自主企画プログラムによる「科学技術展 ’92および絹まつり」という展示会の企画実施に参加した。

 その内容は、学会、試験研究機関、絹業界、伝統工芸関係、一般市民に参加して頂き、大学附属繊維工場原料部での製糸の実演をはじめ、多摩地域にある蚕糸・絹業、伝統工芸にたずさわる方々が実演もまじえて、作品を発表展示すると共に、学術、試験研究機関のご協力も頂き、新しい蚕糸科学技術についての発表展示も同時に行なうというものであった。

 この展示会は、科学技術展の人気とも相まって好評を博し、期間中、約7000人の入場者があった。

 その後、この展示会の絹まつりの推進役になった多摩地域の人たちがそのまま継続して、蚕糸・絹関連の研究や事業を行なっていたが、平成7年に「多摩シルクライフ21研究会」を結成し、東京都農業試験場を活動拠点として、活動をつづけ、現在に至っている。

多摩シルクライフ21研究会の主たる活動

1.東京ブランドシルクの事業の推進  絹の多様化、高品質化に向けて、蚕品種の改良をはじめとする養蚕・製糸・撚糸・精練・染織にたずさわる人々が連携して、加工技術の見直しと再構築を行なう。

2.一般市民への蚕糸技術の普及  各種絹素材づくりの公開講座の開講

3.講演会、見学会の開催

 以上の活動の発表の場として、2年に1回、「東京シルク展」を開催しているが、昨秋はセイコきもの美術館、鈴乃屋ホールに於て、第2回東京シルク展を開催した。

 以上が主たる活動であるが、このうち、1の東京ブランドシルクの事業について少し詳しく述べてみたい。

 この事業を進めて行く上で、先ず取り掛かったのが絹の高品質化に向けて、多摩地域の素材関連業者と加工業者との連携を図ることであった。

特殊品種(成熟改良など)による糸と製品展示

 絹素材となる原料繭は、東京でも最も優良繭を産出している元八王子地区の春繭のみ約ltを買い上げ、製糸は、技術の優れた製糸会社に、製糸条件を細かく指定して委託加工を依頼、その後の加工工程である撚糸・精練についても、業者と加工条件について綿密な連携を取りながら、実施して来た。

 このようにして生産された糸は、従来の絹素材に比し糸にふくらみがあり、純白で美しく、光沢に富み、その後の染色性にも優れていることが実証された。

 この絹素材は、研究会に所属する絹業者、伝統工芸、手工芸、一般絹愛好家に買い上げて頂き、各々が優れた「技」を駆使して独自の絹製品をつくり、それに「東京シルク」の標章を付して、消費者に買い上げて頂いている。

 次いで、絹の多様化に向けては、現在の蚕品種ではどうしても具現化出来ない絹の風合いを求めて蚕品種の改良を自らの手で試みている。

 大学在職中の研究結果から、在来種および改良種17種の中から目標とする製品<生絹>(未精練のまま製織した絹)にとって物性的に適していると思われる蚕品種に「青熱」を選び、これに中国改良種を交配した。その結果、生絹特有のしなやかさ、シャリ感等が得られ和洋装地共に、従来の絹にない風合いを表現出来るようになった。

 この他、多様化に向けて、特殊生糸(節のある糸他)の生産や研究会員によって開発された練減率を自由に選択出来る選択的薬剤精練法の採用、それと、今も八王子地区に残る多様な撚糸法、染織法を組み合わせることによって、様々な風合いの織物をつくり出すことが出来るようになり、特に工芸家の間で好評を得ている。

 絹素材である生糸は、平成9年迄国家管理下におかれて生産され流通されて来たが、一昨年より徐々に民間への移行が始まっている。

 従って、今まで必要とする絹素材を自由に選択し入手することが出来なかった人達にとっては、正に好機到来と言えるが、しかし、現在ではまだ目標とする素材や製品を生産するには、異業種間に目に見えない技術の壁、意識の壁があり、それらをクリアして、必要なものを必要なだけ生産するにはかなりの経費とエネルギーを必要とするのが実情である。

 加えて、絹原料である繭生産は、農業に基盤をおくことから都市農業がかかえる問題や従事者の高齢化、後継者問題等、山積する問題をはちんでいるので、新しい時代に向けての方向転換を一層難しいものにしている。

 このような状況の中で、今年から、東京都経済連、都養蚕農業協同組合、製糸会社の三者と私どもの研究会が共同して、東京シルクの振興策について検討して行くことになった。このことが、21世紀に向けて、東京の蚕糸・絹業の新しい第一歩になれば…と切望している。

 さて、研究会の今後の取り組みとして、もっとも遅れていることは、出来上がった製品の消費、流通をどう進展させて行くかである。

 研究会の発表の場である「東京シルク展」は、蚕糸・絹業の新しい取り組みである多様で高品質の絹を、素材から製品まで結びつけて具現化する方向を、展示品の解説や繭・生糸・毛羽・野蚕糸に至るまでの素材展示および各種糸づくりの実演、更には専門家のトークによって、消費者に分かり易く浸透させる成果をあげて来たが、製品の販売となると、つくる側と消費者の間には、まだまだ見えないギャップのあることを強く感じている。

トークセッション(絹の草木染め)

 しかし、当研究会では、優秀な絹のつくり手であると同時に、着用面でも、豊かな感性を持った多くの会員によって構成されているという有利な面を活かして、流通専門業者と連携して、消費者に対し、様々な問題提起をして行く方向で、少しずつ動き始めている。

 次に、私たちの将来にわたって目指しているところを申し述べてみたい。

 蚕糸・絹業は、日本の象徴産業と云われるように、種から始まり、養蚕・製糸・絹づくりに至る道程で、この日本の美しい自然とかかわりながら、多くの独自の文化を生み出して来た。

シルク製品展示

 しかし、この20数年にわたる物質優先、経済優先の画一大量生産法による絹づくりによって、絹が本来持つ他繊維にない神秘性を完全に失ってしまったこと、また、製品化にあたって、安価でもよく見せるために、ごまかしの技術が発達し、それらによって、消費者の絹 に対する信頼を著しく失わせてしまい、益々絹ばなれが加速してしまっている。

 従って、これからの絹づくりは、もう一度種から始まり、糸づくり、製品づくりに真剣に取り組み、消費者の絹に対する失った信頼を取り戻すこと、そして、絹をつくることから売る、着ること、すべてにおいて、もう一度、日本の自然と生活文化に深く根ざした蚕糸・絹業に匙らせることを目標として、活動をつづけて行きたいと願っている。 21世紀の蚕糸・絹業が再び豊かに甦ることを願いながら、この稿を結ぶ。


    
絹和紙の美しさと期待される用途

                    ふるさとの製糸を考える会  今井朗子

                       新増沢工業株式会社  星野伸男

 絹和紙との出会い

 絹和紙という言葉は、たまに耳にしたが「どんな物なのか」「どこにあるのか」「市販されているのか」との疑問が時に浮かび時に忘れて日を過ごしていた。ある日散歩がてらに寄った民芸店で「絹和紙」と書かれた巻紙に目が止まった。

「アッ!絹和紙、エッ!障子紙」思わず立ち止まりその巻紙を手にとってみる。絹張りの色紙や短冊を想像していた だけに、障子紙はまことに意外であった。障子紙包装の裏にはシルク40%、ポリエステル60%で作られていて、「たばこの煙などの有毒ガスを吸着して部屋の空気を清浄に保つ」「紫外線吸収機能が高く畳や家具の変質を防止する」「窓ガラスの結露を防止するため、かびの発生や木部の腐食を防ぐ」「破れにくく張り替えの際には剥がしやすい」「熱融着性があるのでアイロンで襖等へのコーティングが簡単」「昼の外光を透かして見るとき夜間室内照明のときと、部屋の雰囲気が変わる」といったいくつかの機能が記されていた。

絹和紙

 今まで持っていた「絹」のイメージと重ねて「まあ、そうなの。なるほど」と幾度かうな ずいた。絹和紙にすっかり魅了され、さらに知りたくなって製造元(岡谷市の新増沢工業kk)を訪れた。

 知られていない効果と期待される用途

 絹和紙は絹と低融点の繊維を特殊製法により和紙状に漉き上げた不織布である。絹和紙製品としては障子紙、ティッシュケースの他に、絹不織布の持つ鮮度保持機能や臭気吸着機能を生かして、青果物や生花を新鮮に保ち、肉や魚の鮮度を落とさず保存できるシートや包装紙・ストックパックなどがあり、これに光半導体セラミックスを加えて殺菌効果をプラスしたシートもある。遠赤外線を加えた靴の中敷もあり、適当なクッション性に加え て足のムレを防ぎ臭いを取り除く効果を発揮している。

 また書道・水彩画・版画・押し花 絵の用紙として利用され、独特の風合し、が新しい書体感覚と特異な濃淡表現を醸し出している。

 これらの製品は長野県庁1階県民ホールにて4月30日まで展示している。

                  (岡谷市立岡谷蚕糸博物館紀要3号より抜粋)

 

イ ベ ン ト 情 報

 

シ ル ク 博 物 館 特 別 展

名 称

「沖縄の伝統染織展」

内 容

青い海に囲まれた南国、琉球列島からなる沖縄の島々ではアジア交易などの影響を受けながら、豊かな自然と風土に根ざした独自の染織技術が伝統文化として受け継がれている。本展では、沖縄県指定文化財の染織作家や沖縄各地の染織作品、約50点を展示紹介し、豊かな個性あふれる沖縄の伝統染織作品を通して、沖縄染織の魅力と文化を守り続けてきた人々の力を感じていただければ幸いです。

会 期

平成12年4月22日(土)〜5月21日(日)

午前9時〜午後4時30分(入館は4時まで)

休館日:月曜日(4月24日、5月1日,8日,15日)

会 場

シルク博物館

〒231‐0023 横浜市中区山下町1番地(シルクセンター2F)  
TEL. 045‐641‐0841

展示内容

・重要無形文化財保持著作品
・沖縄県指定無形文化財染織作家作品
・沖縄染織作家作品など約50点

入場料

一   般  600円(500円)
シ ニ ア  300円(200円)
高・大学生  200円(150円) 
小・中学生  100円( 50円)
                   *( )内は、団体割引(20名以上)の料金                   

 

平成12年度 蚕糸・昆虫農業技術研究所一般公開
シ ル ク フ ェ ア

日 時

4月19日(水)午前10時〜午後4時

内 容

研究所を一般公開するとともにシルク製品の即売会を行う。

場 所

蚕糸・昆虫農業技術研究所正面玄関ロビー つくば市大わし2-1   
TEL. 0298-38-6026