第79号(平成12年8月1日)

発行: 社団法人日本絹業協会・ジャパンシルクセンター

 

会長就任にあたって

社団法人日本絹業協会 会長 吉國 隆

 今年6月の日本絹業協会の理事会において、会長に就任させていただきました。

社団法人日本絹業協会 会長 吉國 隆

 蚕糸絹業共に未曾有ともいえる困難に直面している今日、責任の重さを痛感しております。関係各位のご指導ご鞭撻の下に、何とか関係産業の将来に向かっての前進につながるよう、微力を尽くして職責を果たしてゆきたいと考えています。

 蚕糸絹業一体ということが唱えられるようになってから久しい今日ですが、これに単なる相互理解とか協調というだけでなく、タテにつながった連携関係という新しい意味づけを与えて日本の貴重な絹文化を守ってゆく努力が求められる時代に入っているように思われます。

 先日、一般紙に、群馬県の碓氷製糸が委託加工で生産したベビー服の話が報道されました。赤ちゃんの肌にやさしい絹の特性を生かした製品を町も協力して利用することにより、国産絹生糸の消費拡大につなげている努力に拍手喝采を送りたいと思います。近くあるデパートが同製糸の手による赤ちゃん用品を売り出すことも報道されており、その成果が期待されます。

 山形県の製糸会社・松岡(株)が県内の農家と契約生産した伝統的な蚕品種小石丸の繭から引いた細繊度の生糸が丹後や福井の織物業者の手によって個性あるきもの地に仕立てられている提携関係も、いわゆるブランド繭の雛型として関係者に知られているところです。

<略     歴>

(よしくに たかし)

昭和

33年

東京大学法学部卒業

38年

ハワイ大学農業経済学

修士課程修了

昭和

33年

4月

農林省入省

53年

11月

農蚕園芸局総務課

農蚕企画室長

63年

1月

農蚕園芸局長

平成

元年

7月

農林水産省退職

9月

農林漁業信用基金副理事長

5年

10月

農業共済基金理事長

12年

4月

(財)大日本蚕糸会会頭

12年

5月

中央蚕糸会会長

12年

4月

(社)日本絹業協会会長

 

 衣料だけでなく、絹を使った民芸品についても、最近、福島県のご努力により、同県川俣町産の羽二重を張った扇子が来年夏に開催される未来博のマスコットマークいりで作られるような事例も出てきています。

 これらは、いずれも、はじめから特定の最終製品を前提として原料である生糸絹織物の供給とその加工とが一貫した協力関係によって行われているところに特徴があります。

 養蚕、製糸、織物、染織、縫製、製品販売といった各過程が分断されて、それぞれの段階ごとの独立した原料手当て関係だけで結びつくという方式だけでは、純国産生糸、国産技術による伝統的な絹製品を作って消費者に届けるということが困難になってきているといわざるをえないように思われます。

  一貫したタテの連携関係ができれば、文化価値を武器とした国産伝統製品の振興に役立つだけでなく、製品やその販売の側から原料供給面でのニーズが発信されることにより消費者の求めているものを敏感に川上産業に伝え、効率的な生産や在庫管理、ひいてはリスクの軽減を図ってゆく効果が期待されることも見過ごせない大切な要素であると考えられます。

 このような連携関係が、あるいは製糸業者の、あるいは織物業者その他の加工業者の、あるいは着物販売業者の、はたまた生糸商社のイニシアティヴによって多様に発達し、国産生糸、国産繭の市場の確保と日本古来の絹文化の保存に役立ってくれないものかと熱望しております。

 日本絹業協会もこのような結びつきを促進する媒体になるように努力する必要があるように思いますし、その運営になるジャパンシルクセンターもそのような方向に向かって少しでも貢献して行くことができればと考えております。


昆虫産生色素による染色効果

蚕糸・昆虫農業技術研究所 機能開発部プロセス工学研究室 加藤 弘

 衣類を藍染めやキハダで染めた風呂敷や畳紙(たとうし)で包むと虫に食われないとか、保管中のウールのフォーマルウエア一が虫に食われて穴があいたとか、よく聞かれる話です。

 

最近の研究から、昆虫産生色素に関して化学染料には認められない特性、染色効果が見出されています。例えば、(1)微生物 Janthinobacerium lividumが生産する青紫色素Violaceinには白紋羽病菌などの植物病害糸状菌に対して抗菌活性を示すこと。(2)黄繭や笹繭に含まれる緑色系のフラボノイル系色素には抗酸化作用、抗菌性のあること。(3)カイコ幼虫体液および皮膚組織に存在するビリン系色素がタンパク質と結合した状態で皮膚にシミ(メラニン色)を作る原因とされるキロシナーゼの括性化を抑える生化学作用を有する研究報告が行われています。昆虫産生色素についてはまだ十分に解明されていない点、特性をいろいろもっていると推察される。

 筆者も昆虫産生色素で染色したタンパク質繊維に対するヒメマルカツオブシムシ幼虫による食害性に関する研究を昨年からはじめたところである。ヒメマルカツオブシムシAnthrenus verbasciは野外に広く生息する昆虫。その成虫は黒色で、マリーゴールドの花などに集まる。一方、幼虫は体長2−10mmで家屋内では毛織物、動物標本、カイコのさなぎなど動物質のものを加害する。今までに、一部の昆虫産生色素はヒメマルカツオブシムシ幼虫の繊維加害を著しく抑制する興味ある結果を得たので、その概要について紹介する。

(1)供試繊維;

 染色堅ろう度用添付白布(JIS L 0801)の羊毛(モスリン)をモノゲンを用いて手洗いした。

(2)染料、染色;

 ウコン、ヘマチン、ラックダイ虫抽出液の3点の植物染料、昆虫色素(動物染料)を用いて、上記の羊毛を通常の草木染め方法で染色した。染色後、十分に湯洗いと水洗いをして、余剰な薬剤、染料を染色羊毛上から除去して食害試験に用いた。

<図2−1> ヒメマルカツオブシムシによる染色毛織物の食害量

(3)ヒメマルカツオブシムシ幼虫による食害試験;

 (A)染色していない羊毛、(B)ウコンで染色した羊毛、(C)ヘマチンで染色した羊毛、(D)へマチンで染色したのち鉄媒染した羊毛(E)ラックダイ虫からの抽出色素で染色した羊毛の各試料を同量重量(0.5グラム)づつはかり、10個体のヒメマルカツオブシムシ幼虫とともに蓋付きプラスチックスシャレー容器に入れた。実験の環境条件は温度24±1℃のインキュベーター内で暗黒で行った。観測は1週間ごとに食害量を羊毛の重量減少法によってはかり、試験を4週間つづけた。質量測定は0.05mgの単位まで行い、実験に2皿をあてた。なお、虫がかみちらした繊維くずは羊毛繊維の痕跡をとどめていないことと、くず繊維の測定が困難であるため食害量に含ませた。

 幼虫による食害量をしらべるにあたって、幼虫の成長、大きさや実験前の食べ物の与え方などによって食害量が変化することが知られているので(桑名・中村,1959)、実験に使った幼虫の大きさは大体均一の大きさのもの(ほぼ同じ齢)、かつ餌をよく食べる時期の比較的若齢のヒメマルカツオブシムシ幼虫ランダムに1試験区10個体(1皿)を選抜して食害試験した。

(4)食害結果;

 第1図は4週間後の食害状況の写真、第2図は一週間ごとに食害量をはかった捧グラフと具体的な実験データを示す。未染色羊毛(A)の試料はもっとも多く食害されて、すっかり食べ尽くされている状態である。ウコンで染色した羊毛(B)とへマチンで染色した羊毛(C)についてもほぼ同様の傾向である。一方、ヘマチンで染色したのち鉄媒染処理した羊毛(D)は食害量はきわめて少なく、さらにラックダイ虫ラックダイからの抽出した赤紫色素で染色した羊毛(E)はほとんど影響を受けていない。

 東南アジア一帯を産地とするカイガラ虫の一種“ラックダイ”から抽出した赤紫色素は化学染料にはみられない忌避効果をもつ結果は第1,2図のようにきわめて明白な傾向であり、昆虫色素がもつ大きな効果とみなされる。植物染料を鉄媒染処理したりすると、ヒメマルカツオブシムシ幼虫に食われて穴をあけられることがないことともに、その原因究明が注目される。

<図2−2> 一週間ごとのヒメマルカツオブシムシ幼虫の食害量

(5)要約;

 ラックダイ虫から抽出した赤紫色素で染色したり、鉄媒染処理したりした羊毛は、ヒメマルカツオブシムシ幼虫の食害を著しく抑制することがわかったが、なぜラックダイ虫から抽出した赤紫色素で染色すると、羊毛、生糸などの繊維のほか、乾いた動物質のものを食べ荒らす大害虫ヒメマルカツオブシムシがなぜ食われなくなるのか、鉄媒染処理した天然染料染め品は食害抑制効果があるのか、繊維害虫の食に対する好嫌判断機能の解明が待たれる。

(6)文献;

 桑名寿一・中村茂子(1959):ヒメカツオブシムシ幼虫の羊毛製品に対する食害習性.蚕糸試験場報告,15(9),493‐519.

中村茂子:学位論文内容要旨「ヒメカツオブシムシ幼虫の繊維食害性に関する研究」

中元直吉・中村茂子(1979):カツオブシムシ類の繭に対する加害様相について.糸絹研集録,29,1-5,


 

イベント情報
 

 

桜 岡 民 技 オ リ ジ ナ ル ニ ッ ト 作 品 展

協賛 ResinFRP工芸 漆畑元好

 

9月4日(月)〜8日(金) 10:00〜18:00

シルクを染め、混ぜ、糸を紡ぐ。
糸には題がある。想いがある。
生活の中で着る者の心をおどらせてくれるセーターやコート

場  所

千代田区丸の内仲通り ジャパンシルクセンター

千代田有楽町1‐9‐4 蚕糸会館 

03‐3215‐1212

最寄り駅


JR・有楽町線 地下鉄各線・日比谷駅・有楽町駅

   


編集協力: 農林水産省畑作振興課、農畜産業振興事業団