83号(平成12年12月1日)

発行: 社団法人日本絹業協会・ジャパンシルクセンター

20世紀をふり返り21世紀に期待する

財団法人日本きもの文化協会 会長 清水とき

 絹はいったい何千年の歴史を有しているのか…。

 きものは本来T小袖Uなのであるから小柚の歴史はまだ700年か800年か、衣裳に用いられるようになってからは1000年以上のルーツをもっているのだが。

 20世紀をふり返って見た時、きものの発展史は何といったらよいのか。上がったり下がったり、良くなったり悪くなったり・・・。

 明治の時代を思うとき、何といっても暗く寂しく、ひそやかな愛、昔の女らしさ、謙じょうの美徳の感じられるような柄が思い浮かぶ。そしてその素材は何といってもT古代ちりめんU。細い細いT千筋Uとか、T万筋Uとかの目立たぬが微細で精巧なたて縞の縞柄、そしてTむじな菊UとかT小米柄Uとかの江戸時代から続く細かく酒落た一色染めの品のよい江戸小紋柄。あとは五つ紋の江戸褄文様の色留袖、三枚襲の裾引き返し、帯は丸帯の地味目な正倉院文様、太めの丸ぐけ帯締めで、髪は日本髪、鼈甲のかんざしが目に涼しく品よくうつった時代です。

明治時代の花嫁衣装

 大正は1900年代、20世紀の中で最も華やかな美しいきものの時代。哀しくもあり華やかでもあり、目立つファッションの時代であり、風俗史上変化に富んだ、私にとっても想い出多い、忘れえぬ大正ロマンの時代。

 モボ・モガ、ラッパズボンに燕尾服のモダンボーイに短いワンピースにオカッパ頭のモダンガール。西洋の服飾文化と日本の伝統文化のきものがいよいよ交差し始めた時代。

明治・大正時代の若い女性のきもの姿

 そして昭和の到釆。

 きものの他に白いカフェの女給のフリル付エプロンが目に映る。やさしいお母さんの白い割烹着姿も、おみそ汁や白いご飯と共に思い出す。

 そして戦争。                   

 一番よく覚えているのはきものではなく、陸軍のカーキ色の軍服と海軍の真っ白な軍服姿。女性のきもの姿より従軍看護婦の白衣の天使の姿が目に鮮やかに残っている。絹から離れてしまうのでこれは欄外の原稿になってしまうが……。

 何といっても戦時中のきもののファッションは他とは異なるもの。

 モンペ姿のさっそうたる軍国ファンション。絹の素晴らしいきもの、大島も、銘仙も、お召も、すべてゴムを入れて足首をしばったり、上はひもで結んモンペスタイルに。

 結婚式も白無垢の花嫁姿はなく、モンペの少々派手な縞お召姿で行われていた。

 20世紀の後半、戦後はがらりと変わって洋服時代。「きものは遠くなりにけり」で、せいぜい成人式に振抽を着る程度で、きものが着られない若い人が増えて着付教室が繁盛したり、二部式のきものが登場したり。

戦争中の女性の姿

 戦後という今まで開かれたことのない時代の扉が開かれ、ミリタリールックの流行や化学繊維の登場から、きものでは「縫い取りお召」や「マジョリカお召(十日町産)」が一世を風靡したり、茶羽織から黒の一つ紋付の絵羽織の中羽織に流行が移ったり、きものにとって随分と変化の訪れがあった時代です。

 そして平成はというと、TきものUはどこへやら。最近では、文様づくりもコンピューターを使ったり

するようだが、手作業の良さ、技術の素晴らしさを忘れていないだろうか。七五三は全国的に普及し、京都では十三参りという豊かな日本の伝統を表現したお祭りが今なほあるが、その他は後退。

 きもののリフォーム最近もてはやされ、古いきものを着て明治を偲んだり、きものをアンテイックとしてとらえる時代が到来したり。随分きもの好きとしては素直に喜べない時代が20世紀の最後にやって来てしまった。

現代の華やかなきもの

 さて21世紀は如何なることやら。

 かつてのきもの華やかなりし時代に戻ることは絶対にないけれど、日本のきものの染めや織りの技術はもっとドレスの世界に活かすことができると確信している。そしてきものの美しさが見直される時代も来ると信じている。不安の影がよぎることもあるが、いつか日本の染め、織り、刺繍といった技術が世界に進出し、世界中の人々を喜ばせる日も来るであろうと思っている。

 問屋も小売店も次の時代を早く知ってもらい、もっと研究してもらいたい。

 日本はもはや日本ではない。世界の中の日本として物事をとらえる必要がでてくるはずだ。そう考えて行動することによって世界できものを中心とする日本文化が注目され、喜ばれる時代が21世紀に到来することを信じて疑いはない。

 21世紀を期待し、若者にも期待する……。

筆者近著紹介---『礼装きもののルール』(世界文化社)清水とき著(1400円+税)が、本年4月に出版されました。本書は、結婚式、卒業式、不祝儀など礼装のルールから、きもの別のルール、男の礼装や家紋のしきたり、礼装の小物まで詳しく解説し、好評を得ています。この本のお問い合せは、清水学園插K03-03-3400-0286まで。


 

国際絹業協会(I.S.A)会長、日本の蚕糸・絹業の実状を視察

国際絹業協会(I・S・A)(フランスのリヨン市に本部)の会長 Michele Caepa氏と事務局Xavier Gavyn Lavergne 氏が去る10月 2 2 日から約1週間の日程で日本の蚕糸・絹業視察のため来日された。

 当協会では、ヨーロッパの蚕糸・絹業の状況を知る良い機会であると考え当会の会員、農林水産省、農畜産業振興事業団等関係団体並びに業界関係者とマスコミ関係者を交えて10月24日に「ISA会長と日本絹業界との情報交換会」を開催いたしました。

 情報交換会は、日本絹業協会の吉國会長から歓迎の挨拶とISA会長、同事務局長の紹介並びに日本側出席者の紹介から始まり、約3時間に亘って熱心に意見交換会が行われました。

 最初に日本の蚕糸・絹業の現況について、繭、生糸、織物等何れも需要の低迷と海外からの輸入の増加によって大幅に減少しているが、世界の4分の1を消費2位の消費国であることなどの概略を説明しました。

ヨーロッパでは、良いものは売れる

 次いで、Canepa会長からヨーロッパの蚕糸・絹業について現況と今後の方針について、概ね次のような報告がありました。   

 「シルクは現在ファッションの中心ではなくなって、過去のものとなっています。しかし、長い歴史に裏付けされたシルク産業は、技術的にも素晴らしいものをもっています。ヨーロッパにおける養蚕はすでに産業としてはなくなっていますが、撚糸以降の工程、染色、織物等については技術も進歩し、今日でも重要な産業となっています。シルクは、古い商品では決してないし、高価であると言う認識は間違っていのるではないでしょうか。シルクの価格が高いから消費者離れをしたと云うのは正しくないと思います。価格においては、ポリェステルとはほぼ同じです。洗濯性にしても合繊も洗濯に弱い物もあります。シルクは合繊に比べファショナブルな商品であります。

蚕天・絹業業界の関係者が一同に出席した会議

 繊維の中でシルクのシェアーは0.2%しかないので他の繊維と競合することはありません。ヨ−ロッパでは、値段が高くても良いものは売れています。中国のシルク製品の粗悪品でシルクのイメージが悪くなりま

しが、ヨ−ロッパの良い製品でこれを補っています。ISAでは、シルクのイメージアップの広報活動を積極的に展開して努力しています。」

国際絹業協会会長(中)同事務局長(左)と挨拶をする吉國絹業協会会長(右)

 これらの報告を受けて、日本におけるシルク製品の現状について各分野の専門家から次のような報告がなされました。

各分野の協調がシルク産業を再生する

 マスコミ関係者からは、「日本の売場はどこも同じ製品、デザインの商品が並んでいます。これから注目される製品は素材でです。昨年あたりから天然繊維が注目されていますが、シルクはコットンやリネンに比べ取り組みが消極的です。シルクは環境に優しい繊維なので、シルクの需要喚起には今がチャンスであると思います。消費者はシルクと云えば値段が高く、高級品のイメージを持っていますが、このイメージをどのように変えていくかが課題であると考えます。シルク製品のなかでもインナーは消費者に定着しています。」

 流通関係者からは、「絹織物は卸、小売共減少しています。昭和50年代は売上が1兆8千億から2兆円ありましたが、今は8千方から8千7百方円です。年々減少してきています。特にシルク需要の大半を占める和装は、きものが危機的状況であます。このようになった原因は様々言われていますが、一例として1950年代のきもの需要は、フォーマル一辺倒でした、それを引き続き追求してしまいましたが、現在、需要は伸びていません。最近ではカジュアルきものにも力を入れています。きもの地のブランドもの開発とかを行い、きものの需要の裾野をひろげて行きたいと考えています。」

 最後に、ISA会長から日本の蚕糸・絹業について次のような感想を述べて会議を終えた。

 「シルクは繭から最終製品まで多くの分野からなっています。養蚕の分野は非常に経営状態が悪いが、川下の分野は厳しい中でも活動していると云う感じでシルク産業全体をみれば、懸命に頑張っていると見られます。シルク産業は縦の産業ですから各分野が協調していくことが非常に重要であます。」

(社団法人日本絹業協会)

 

 

イベント情報
〜繭の美・手業の美『全国繭クラフト展』

会  期
1月13日(土)〜1月28日(日)

会  場
シルク博物館 

横浜市中区山下町1番地 
045-641-0841

編集協力:農林水産省畑作振興課/農畜産業振興事業団