第89号(平成13年2月1日)

発行: 社団法人日本絹業協会・ジャパンシルクセンター

シルクシンポジウム2000に注目集まる

テーマは「ブランドシルクと健康

平成12年11月30日蚕糸科学研究所において開催

                             製糸科学研修所 研究員 清水重人

 

主催は、製糸絹研究会並びに日本製糸技術経営指導協会の共催で110名弱の参加者のなか、盛況なシンポジウムとなった。

農林水産省、農畜産業振興事業団、大日本蚕糸会をはじめ、各研究機関、各企業や個人、そして報道関係者など多数の参加者があった。

 このシンポジウムは例年、12月初旬に開催される製糸絹研究発表会に合わせ、その前日に日本製糸技術経営指導協会主催で開催されてきた。平成11年度は、「小石丸を解剖する」というタイムリーなテーマに大勢の参加者があった。平成12年度については、「シルク」、「健康」、「ブランド」をキーワードにシルクのもつ抗菌・抗酸化作用など人の健康に効果的な機能について、その研究の現状およびその機能を活用した製品化・商品化への取り組みと開発状況に焦点を当てることとなった。

座長の勝野盛夫氏と司会の藤田隆男氏

勝野盛夫製糸絹研究会長は、「シルクは数千年前から美しく着飾ることを通じて人の生活をより楽しくしてきた。その特長は、光沢、ドレープ性、染め上がりの美しさなどで、感性を着る衣料として利用されてきた。そのシルクが近年になって健康衣料として注目されるようになってきた」と挨拶。

 藤田隆男日本製糸技術経営指導協会専務理事の開会の辞で開幕。座長は、勝野盛夫製糸絹研究会長が務め挨拶に続いて各講師の紹介が行われた。以下、各講師の講演内容の概略を紹介する。

蚕糸科学研究所
主任研究員 山崎昌良氏

シルクの機能特性に関して研究中。シルクに含まれる整理活性機能が低分子量にあることを解明し、その存在を発表して以来、学者や企業から注目を浴びるようになってきた。その研究内容と現状を研究者の立場から解説した。

1.シルクの機能性―吸放湿性―

水分を吸収しやすく外気に放散しやすい。高い吸湿性、透湿性、保湿性をもつ。この機能が人の皮膚に対して優しい環境に調整し、皮膚の健康を守ってくれる。

2.シルクの機能性―紫外線吸収性―

 紫外線の皮膚細胞(DNA)の刺激によるシミや皮膚の老化防止などに有効。

3.シルクの機能性―ガス吸着性― 

悪臭物質・有害ガスを吸着する。アンモニアの吸着は清潔・快適性を与える効果がある。エチレンの吸着は、植物ホルモンエチレンの作用抑制により、果実、生花などの鮮度保持に効果がある。

4.シルクの機能性―金属吸着性―

 抗菌性をもつ銅、銀イオンや各種天然物機能物質をフィブロインに吸着させ、医療用健康衣料にも利用。

5.シルクの機能性―抗菌性―

 笹繭、天蚕の繭層に含まれるフラボノール色素に抗菌性が認められた。この特性を利用した健康衣料の開発が進められている。

6.シルクの機能性―抗酸化性―

 フラボノール色素に強いフリーラジカル消去活性(抗酸化)機能が認められた。また、シルク自体(フィブロイン)にも24時間後など時間の経過とともに明らかな活性が認められた。

 抗酸化機能とは、様々な病気、老化などの原因の一つとされる活性酸素の働きを抑える機能であり、アトピー性皮膚炎、皮膚乾燥、掻痒の予防に効果があるとされる。


埼玉県では、緑色の笹繭系統である「いろどり」をメインにして特産化に取り組んできた。従来は、この繭でできる糸の特長である「こし」の強さを活かすため、京都の織物業者と提携して帯地を手がけたが、景気減退による絹需要減少から取りやめとなった。

埼玉県農林部農芸畜産課
特産担当主査 佐野悟郎氏

埼玉県では、シルクの機能を取り入れた製品づくりに取り組んでいる。その一例として、「いろどり」ブランド繭による健康衣料製品を開発中で、その現状について解説。

緑色の色素である「フラボノイド」に、抗菌、抗酸化作用があるとの研究発表があり、また、セリシンがチロシナーゼ阻害作用、保湿作用などをもつことから、これらの機能特性を活かしたインナー、フェイシャル、コスメティック向けの製品づくりの開発を進めてきた。

 現在製品化されているものは、紳士用トランクス、ふんどし、キャミソール、フレアーパンツなどで、JAちちぶにより、道の駅で販売中である。また、蚕糸科学研究所と(有)ハックの開発による無撚シルクに「いろどり」を使用し、婦人、子供用ニットインナーの開発を計画している。このニットは、風合いと肌触りの良さに特長がある。さらに、(株)シンコーシルク(和歌山)と共同で、いろどりのセリシンを2%配合した洗顔石鹸や洗顔パフ、ボディスポンジなどを試作中である。

ちちぶにより、道の駅で販売中である。また、蚕糸科学研究所と(有)ハックの開発による無撚シルクに「いろどり」を使用し、婦人、子供用ニットインナーの開発を計画している。このニットは、風合いと肌触りの良さに特長がある。さらに、(株)シンコーシルク(和歌山)と共同で、いろどりのセリシンを2%配合した洗顔石鹸や洗顔パフ、ボディスポンジなどを試作中である。

 埼玉県では、シルク生産工場が撤退した。織物に関する前向きな企業も少なく、県や農協の予算も少ないという現状の中で、今後はいかにして良きパートナーを見つけるかがカギとなる。


碓氷製糸農業協同組合
代表理事組合長 茂木雅雄氏

赤ちゃんの産着などベビー用品の販売について、高島屋と提携することになった経緯と、その取り組みについて講演。

 現在の製糸工場では、生糸のプレミヤムには頼れず、ブランド繭を含む各種原料繭により、14中から180中の各種繊度の普通生糸、60〜210中の玉繭生糸、さらにネットロウシルクなど様々な糸づくりをして、顧客の注文に応えている。現場の気づかいは大変なものである。たとえ1括でも販売に対応し、納期の短縮にしても最大限要望に応えている。今後は精練、染織、撚糸加工も施し細かい要望にも応じていくことが必要だ。

組合長は、以前から100%シルクの靴下、下着をつくって着用し試してきたが、毎日、他のものと一緒に洗濯して脱水して同じように干していても、すり切れなどの問題は全くなかった。あかすりなどはヒットした。新生児の産着にどうかと考えてきたが、昭和50年7月にできたホルマリン規制により手がけるメーカーはなくなっていた。

自社工場でなら、ホルマリンを全く使用しない生糸生産は可能だ。群馬県ブランド繭の新小石丸を原料とし、製造工程でホルマリンを使用しないで繰糸し、その糸で新生児用の産着を作った。当然ホルマリンは全く検出されなかった。そしてこの産着を同級の松井田町長に勧めた。当時町長は、町内の新生児誕生のお祝いに記念品を贈っていたが、これを新小石丸によるシルク100%の産着にした。この様子を日曜日朝7時からテレビで放送された。このTVを見ていたのが高島屋のベビー用品担当の豊島氏だった。その2日後、碓氷製糸に出向いたのが提携の出発点となった。最初は「あの天下の高島屋が、しかも高崎でなく東京から、まさか本気で・・・」と碓氷製糸側は面食らったようだった。


 株式会社高島屋開発事業部MD総括本部
 子供服ベビー用品DV担当課長
            
   豊島伸一氏

産着をはじめとするベビー用品一連の商品化と今後の対応などについて講演。

 

氏は、子供ベビー用品担当で、他社との差別化について検討していた。松井田町の取り組みをTVで見て、「これは差別化になる」と思い、碓氷製糸にアプローチを開始した。昭和50年のホルマリン規制(2歳乳幼児まで0.05ppm以下)以来乳幼児用のシルク製品は99%市場からなくなっていたからである。

ホルマリンを使用しない碓氷製糸の糸で、九州にある「赤ちゃんの城」で縫製し製品化することとした。これにより流通マージンを排除でき、適正価格の実現が可能となった。

 このシルク100%の産着には糸使いにもこだわった。通常絹100%の表示には縫い糸の素材は除外されるが、刺繍から縫い糸まで、新小石丸の糸を使用した。また織り方も生地の裏と表が全く同様平らになるフラットシーマー加工という高度な技術を取り入れている

百貨店はものを売らなくては仕事にならない、売れて初めて金になるという認識で取り組んでおり、この産着の製品開発には相当リスクを負っている。

「ミトン」という赤ちゃん用の手袋(寝ているときに顔をひっかくのを防ぐ)に使われているゴムはピンセットで通している。裁断は、(伸びを戻すため)1日置いてから行う。また、通常何枚も重ねるが、シルクは滑ってズレるため、一枚一枚行っている。PRも、全国版、赤ちゃんを抱えている人、固定客用とそれぞれに対応して宣伝した。今後、色もピンク、ブルーなどを製品化する予定である。

 

 

 

 

「タグ糸まで新小石丸の生糸を使った」と、こだわりを強調。

 

「ブランドについて一言。ブランドとは、一般消費者に指示され、認知されなければ意味がない。繭もシルクもブランドではなく製品名だ。その点で流通業界に携わっている人と隔たりがある。」また、「絹製品は高い、という認識を払拭したい。シルクの産着などを買ったお客さんが価格は少し高かったが、使ってみると絹はやはり良いものだ。と思ってもらえるように、絹の良さ、国産の良さを訴えていきたい。」と豊富を語った。

 

おわりに

 講師4人の講演のあと闊達な質疑応答があり、盛大のうちに終了となった。碓氷製糸と高島屋の提携は、地域ブランド化を進めていく上で、理想的なパターンであると言える。ホルマリンに関しては、市場から手当てした糸では保証でき得ないことであり、一社の生糸に絞るからその信用の上で供給可能となった商品開発といえる。

 今後、このような提携パターンが他の商品や分野でできないだろうか。特に今までタブーとされてきた分野に、現在の技術やいわゆる川上から川下までの総合力で切り込みできないものだろか。

イ ベ ン ト 情 報

春爛漫、色とりどりの花をシルクに染めて、第二回絵染め展を開催。

『花と絹』絵染め展

日 時3月26日(月)13:00〜18:00

    27日(火)〜29日(木)10:00〜18:00

    30日(金)10:00〜16:00

場 所ジャパンシルクセンター(有楽町・蚕糸会館1階)

主な出展内容:新作のブラウス、ショール、パラソル、その他の小物。
絵染めの実演、ミニ講習会。その他、かわいい絵染めの作品があたる抽選会もあります。

絵染め 主宰 菊地エミ    主催:日本絵染め協会

編集協力:農林水産省畑作振興課/農畜産業振興事業団