第86号(平成13年3月1日)

発行: 社団法人日本絹業協会・ジャパンシルクセンター

 

シルクと古漢字

中国杭州大学史学科文物博物館学教室 鄭 瑾

元東京農工大学工学部 重松 正矩

 シルクは中国が世界で初めて作り出した繊維である。中国の神話伝説では、創世紀の伏義、黄帝は繭の糸と桑の桑から弦と絹布を作ったことを伝えている。大量の考古資料及び出土した文物により、五、六千年前の石器時代に中国の先民たちは野蚕を馴化して家で飼い、さらに蚕の糸で織物を作っていたことがわかった。

 三千年前殷商時代に至ると、人類最初の漢字と言われ甲骨文中では既に桑、蚕、糸、帛などの文字があり、さらに蚕神を祭るなどの行事が刻まれた遺物も発見されている。シルクの生産及び発展と共に関係する古漢字の形成は深く関わりがある。文字によりその時代の社会政治、科学技術、人々の生活方式に反応し、シルク技術やその文化を伝えるために必要な新しい文字が創造され、次第に伝播して行った。

 その創造後普及した文字(情報)を誘導子として、シルク文化と技術は距離を超え、時代を超えて広く伝播され、その文化と技術の“化石”の役となる。長い歴史中、シルクは独特な文化−シルク文明となり、また、伝統文化の一つ重要な内容として、文化、科学、技術及び人々の社会生活方式に巨大な影響を与えた。

1.古漢字について

 シルク文明と同時に、もっとも誇れる中国の古代文明は古漢字と言える。最初の漢字は殷商時代の甲骨文(甲羅、牛など動物の骨に刻まれた文字)であることは通説であるが、多数の資料により四、五千年前、甲骨文が出現する以前、中国では既に古漢字の萌芽状態にあった。古文字としてエジプトのヒエログリフ文字、シュメルの楔形文字などがあり、長い時期使われていた世界の文明古国の文字では、その後ついにある一つの文字を持っていた文明が別の文明によって侵略され、使用される文字が交替し、または使われていた文字を使う人間が戦等によって滅亡したので、世界の三つの始源といわれる古文字体系では今のところ漢字のほかにほとんど伝承を失った。

 漢字は誕生以来数千年の長い歴史を通じて、いまでも中国を中心としてアジア諸国に使われている。もちろん、長い歴史と政治の世界に亘って、多くの漢字の実際の意味と目に見える外面的形(つまり書体の変遷である)は変化したが、文字体系としての基本的な構造は変化しなかった。

 古代漢字は、固有の意味内容と発音情報とをもった表意文字であり、そうした漢字の伝える.文字的仕組みを手がかりに、古代シルクの文化情報を抽出してできた。桑、蚕、糸などの外形により象形的な“桑”“蚕”“糸”などの文字が創造された。文字で記録された大量の文献が古代養蚕、植桑、製糸、織物、染色などの生産、発展の状況と技術を伝え伝播した。一つ一つ具体的な漢字、たとえば“糸”、“素”、“経”、“系”、

“顕”などの文字は実物の外形、染色、織る状況及びシルクの当時社会生活中の重要性を直観的に表現した。

顕という文字は、糸を神霊の憑るところとしてそれを拝し、そこに神霊の顕ちあらわれる意。

この文字により、当時シルクの人々の心に残る印象は貴重と同時に敬虔にして真心のあることであった。

2.糸偏漢字

 遠古でも現代でも、人々が毎日使っている沢山の漢字の中には独特の現象が見られる。中国漠代の字書《説文解字》から、清代の《康煕字典》、または現代の《漢語大字典》まで、さんずい、きへん、くさかんむり、てへん、くちへん、にんべんなどの六つの身近な自然物と人間の身体に関する文字の外、人間の文明によってつくり出したもの及びその文字で一番多い文字は:かわへん、りっしんべん、ごんべんを追い越し、いとへん文字である。同時に、いとへんの文字の分類も非常に細く、たとえ“真綿”というもの、実は綸、絮、絣、絢、緜、絖など十数種類の品があること。文字の世界からみる限り、シルクは古代社会及びその後の長い歴史時期における文化及び技術の面やまた人々の生活の面でも大変重要な役割を演じていた。

 シルクの発生と生産などのことを記録する象形と会意文字では、元の漢字の形だけで当時シルクの製作の情況及び用途などが反映されている特徴を上げられる。

 以下、簡単な例として、日本で現在よく使われているシルクの生産と発展に関係する糸編文字を説明する。

1)製糸などに関係する文字

:糸たばの形、繭から出た生糸をより合わせた形。偶に東余の緒を象るものを意味する。

:手で蚕の繭から引きあげた繭糸二本または二本以上撚り合わせることをいう。

:糸をまくことを急なりという。堅く絞める時に用いる。

:もと糸の乱れることをしいぅ。紛乱・紛糾の意に用いる。

:機織の時糸をつぎつぎ繰り出すことをいう。転じて順序・段階・階級の意味となる。

:糸を繰るときのように、上から懸繋する形。掛けて糸をより合わせて太い糸にすることの意。

:もと織り目の細かいとをいう字であったが、のち細微・微賎の意となる。

:できた繭糸を絞って水分を出す形。

:もと糸を締める時、末端を結び止めた形で、ひいてことの終わることをいう。

:多くの糸の合 することをいう。ひいて統括・系統の意がある。

:五色の糸を合わせ、刺繍する意。転じて“え”の意に用いる。

:糸のむすび目をつくる。ひいて“むすぶ”意を表す。

:糸を一本一本加えていって“つむぐ”意。転じて、事業の意。

:糸をねじあわせて“しめる”意を表す。そのようにして絞殺することをいう。

:糸を結び止めるところ、転じて端緒・緒余の意がある。心がほぐれて表れることを例えて、心緒・情緒のようにいう。

:縦糸をゆるやかに張る意、ひいて、一線を以て連なる状態にあるものをいう。

:布帛など特に織文るものを作ることの総名である。

   

2)糸の作用に関係する文字

:糸で縛ることをいう。縄などを結んでことを約する証とするので、契約の意となる。

:衣を拘束するもの、礼服の上に結んで、その端を長く垂らす“おおおぴ”意。

:糸でつづり合わせる形で、ひいて小さなものを連ねつづることという。

:文字を書いた竹簡を糸でっづり合わせる意。

縣(懸):首を肌て懸けれた形、糸はその紐である。

:糸で衣服をぬいあわせることいぅ。

:糸で移動しやすいものをつなぎとめる意。

3)糸製品に関係する文字

:糸(繊維)を平らに押し伸ばして作ったもので、文字や絵画を書きしるすもの。

:ちぢみのような絹、またうすぎぬをいう。

:糸で織り出すあや模様のもの。

:もともと細かい織目のきぬ、のちに地の厚く柔らかい糸の毛織物をいう。

:むぎわら色のきぬ。ひいて“きぬ”の意を表す。

:斜めの文様の交錯する綾織りの綸子の類をいう。平織りに見られない美しさを持つので綺麗という。

綿:糸をつなぐ意、ひいて“つらなる”、転じて“わた”の意。

:模様を織り出したあやぎぬ。

:真綿をつむいだ太い糸で織った絹織物。

:糸をより合わせた“なわ”の意。縄墨の意がある、それより度る、法る、戒む、正すの訓がある。

:糸で細かい文様を構成する織物である。

4)染色に関係する文字

:玄は糸束の形、田はその糸束を染める鍋の形。その染め汁に糸を久しく漬けて染色する。久しく漬けていろを深くすることを停畜という。

:中は糸束をつらねた形、それを火で燻べて黒く染める意、また幽暗の意に用いる。

:糸を染める時、束の上部の結んだ部分が白く染め残されるところ。染め残されたところが本来の色であるので、すべ手を加えない以前の状態をいう。

:桃紅色に近い絹、またその色。

:こん色、赤みをふくんだ濃い青色、青と紫の間の絹、またその色。

:青赤色の絹、またその色。

:赤色の絹、またその色。

:青黄色の絹、またその色。

:黒い絹、またその色。

(以下、次号につづく)


シルクの祭典

特別展『シルクフェア2000』『横浜スカーフの歴史展』
『横浜スカーフデザインコンテスト入賞作品展』をシルク博物館で開催

シルク博物館 学芸員  柴本秋男

 横浜市中区山下町にあるシルク博物館では、「〜シルクの祭典〜」と名うって「シルクフェア2000」「横浜スカーフの歴史展」「第44回横浜スカーフデザインコンテスト入賞作品展」の三つの特別展を開催しました。

■『シルクフェア2000』(主催:日本絹業協会 シルク博物館  期間:平成12年11月21日〜12月17日)

 農林水産省等の後援を得て、全国の絹業関係団体及び絹業関係会社等が研究開発し、ブランド化した衣食住にわたるシルクの新製品(衣料品、化粧品、食品など)を展示紹介しました。本展には38の会社・団体から約260点の出展がありました。

 特色のある蚕品種の原料繭を選定し、繰糸・染め・織りにこだわり、特別な製法によってつくられた着物・ジャケット・ベビー用品等、インナー用からアウタ−用にと幅広く和・洋装品に用いられている製品、セリシンやフィブロインの特徴を上手に利用して作られた、シャンプーや化粧品などを数多く展示しました。来館者は絹の用途の広さに驚いていました。

 また、期間中、繰糸機を使って専門家による繭から生糸を繰る実演を行いました。この実演は普段なかなか見ることができないことなので来館者は皆興味深げに見入り、大変好評でした。更に期間中、シルク専門業者による即売会も行われたので、絹普及の宣伝と併せて絹利用の機会を広げることができました。

■ 『横浜スカーフの歴史展』(主催 シルク博物館 期間  平成12年11月21日〜12月17日)

 横浜は世界のスカーフの大生産地として知られています。スカーフは古くはハンカチ−フ(絹の手巾)の輸出から始まり、明治初期から、現在のスカーフ産地になるまでの歩みを写真や年表で示し、時代別、染色技法別のハンカチーフ、スカーフ製品等を展示紹介しました。

 明治時代に行われだしたといわれる木版捺染による大正時代の古いハンカチーフをはじめ、太平洋戦争後GHQの通達に基づき「MADB IN OCCUPIED JAPAN(占領日本の製造)」とタグをつけて輸出したスカーフなど、その時代、時代を伝える製品を展示しました。

「横浜スカーフの歴史展会場」

 特に横浜は、関東大震災、太平洋戦争によって壊滅的状態となりましたが、奇跡的に成田商店(故 成田新次郎・恒次郎氏親子)の焼け残った金庫の中から大正末期からのハンカチーフ、スカーフ製品等が取り出されました。おそらく、横浜で最古の品物といわれており、大変貴重な資料となっております。

 これらが『成田コレクション』としてシルク博物館に寄贈されましたので、これを機会にこの中から「日の丸」や「さくら」をデザインしたハンカチーフ等代表的な品物約85点を展示公開しました。見たこともない古い柄や昔なつかしい柄など、現在でも通用するような素晴らしい製品に来館者は魅了されていました。

■「横浜スカーフデザインコンテスト入賞作品展」(主催(社)横浜ファッション協会 期間 平成12年11月25日〜12月17日)

 このコンテストは、横浜の地場産業である横浜スカーフを海外市場の開拓、デザイナーの育成、創作技術の向上などを目指して始められ今年で第44回を迎えました。

 このコンテストのテーマは、『2002年サッカー・ヨコハマ」と「自由課題」でした。広く全国より、小学生から大人まで様々な作品総計400点の応募があり、これをデザイナーの中野裕通さん、タレントの神田うのさんらによる事前審査で74点にしぼり、これを審査会場である当シルク博物館に持ち込み、総勢100人の審査員(市民公募による審査員)によって入賞作品38点が決まり展示公開されました。

「デザインコンテスト」市民審査風景

 晴れのグランプリには小原純一さんの「狐の嫁入り」が選ばれました。来館者は斬新で素敵なデザイン、子供たちの純粋なサッカーにかける思いなどを表現した、それぞれの素晴らしいデザイン画に心うたれ、早く製品化されることを待ち望んでいるようでした。いずれこれらのデザイン画の中からスカーフが製品化されて世界に出て行くことと思います。

イベント情報


第二回絵染め展 Emi kikuti『花と絹』絵染め展

新作作品の出展の他、絵染めの実演、ミニ講習会、
抽選会など沢山の催しがあります。
絵染め 主宰 菊地エミ  主催:日本絵染め協会

開催日時:3月26日(月)13:〜18:00 
     27日(火)〜29日(木)10:00〜18:00
     30日(金)10:00〜16:00

場所:ジャパンシルクセンター(有楽町・蚕糸会館1階)


(同時開催)
01’春夏シルクニットコレクション-

シルクニット専門メーカーが、シルク愛好家の皆さんに
この春流行の色、柄、デザイン、を取り入れた新製品の展示会を開催します。
あわせて産地特別価格でセールを開催いたします。

開催日時:3月26日(月)13:〜18:00
     27日(火)〜29日(木)10:00〜18:00

場所:ジャパンシルクセンター(有楽町・蚕糸会館1階)


「春のシルクコレクション」

JA全農養蚕対策室では、アウターなどの春物商品と
シルク愛用の皆さんに定番商品として人気の高い肌着、寝具、靴下などの
全農ブランドシルク製品の割引販売、
在庫処分品のディスカウント販売を行います。

日 時:4月10日(火)〜4月12日(木)3日間
    10:00〜18:00

場 所:蚕糸会館1階 ジャパンシルクセンター

主 催:JA全農養蚕対策室

協 力:ジャパンシルクセンター

協力会社:矢野商事株式会社
     シルクマルベリー株式会社


編集協力:農林水産省畑作振興課/農畜産業振興事業団