第93号(平成13年10月1日)

シルクが作る新しいライフスタイル

蚕は21世紀の資源

ファッションジャーナリスト鮎川耕一

 婦人服市場においてシルクが再び脚光を浴びている。

 ソフトで軽く、光沢感をもった高度な素材が要求される中で、シルクが春物や秋物で欠かせない素材として浮上、100%素材だけでなく綿や麻、レーヨンやポリエステルなどとの複合においても広がりをみせている。

 だがあくまでもそれはトレンドの流れの中での話だ。トレンドは必ず消えていく。昨今のコスト優先の市場においては日本でも中国でも産地は問われない。トレンドの流れに乗り、大量に商品を販売しようとすれば国内で作るよりも中国から安価な商品を製品で輸入して販売することが主流になる。だがトレンドが過ぎれば流れは変わる。おそらくは来シーズンで婦人服市場を飾ったシルク素材は消えていく。

 しかし、きものやフォーマル、スカーフ分野と時々のトレンドの中に位置づけられてきたシルクに今、新しい光があたろうとしている。シルクをトレンドとしてとらえず、消費者の生活に密接に関わる新しい資源としてとらえ自然環境や人間の健康と共存できる素材、製品を日本固有の産地技術もからめて開発しながら、二十一世紀型の新しいライフスタイルを作りあげよう

という動きだ。既に婦人服から化粧品、健康食品まで様々な取り組みが展開され、注目されてきている。

 一昨年五月、東京・代官山のヒルサイドテラスで長野在住のデザイナー・岡正子さんが開催した個展「シンク・シルク」はこれまでのシルクの概念を被った素材と婦人服の提案で衝撃を与えた。長野オリンピックのファッションショー「ファッション・フォー・ザ・アース」を総合ブロデュースした岡さんは、日本における産業としてのシルク発祥の地に育ち、日本のシルクへの思いを人一倍持ち続ける。長野オリンピックではそのシルクを用いて自ら新たな素材を開発、人の肌に最もマッチするシルクの特性がファッンョンの世界にいかんなく発揮されて話題をよんだ。

 代官山での個展「シンク.シルク」では当時の素材がより発展して開発され、ファッションの世界におけるシルクの可能性を大きくきり開いた。ポリエステル弾性糸と融合した素材は、たて、よこともに 三倍に伸縮して、どんな体型にも心地よくフィット、しわを気にせず、どこでも持ち運べる機能性と軽さに加え、趣味、嗜好に陥りがちなシルクの婦人服の世界を脱皮して見事にファッンョンの世界に昇華 させたデザインはシルクを日常の世界に取り込んでいく思いを切り開いた。会場を訪れた時に、作品の前で見入られるように立ち尽くす来場者の姿は、今でも目に焼き付いている。

 京都・西陣の一角の町屋にペンステモンという小さな工房・ショップがある。ここでは西陣の機屋さんが織るネクタイから出る耳糸を回収して新しい製品の開発を手掛けている。これまで捨てられていた耳糸を回収して多彩な色を 自由に思いどおりに組み合わせて、手機で織り上げ、色のマジックともいえる布を織り上げる。その素材がバッグや夕べストリー、財布、帽子、ジャケット、コートなど多様な製品に生まれ変わる。

 自分に好みの色をベースにした、世界に二つと無い商品はシルクの柔らかさを保ちながら、使えば使うほど違った表情をみせてくれる。蚕から糸が作られ、素材が作られるという、長い時間をかけた職人たちの思いのこもった糸が もう一度活躍の場を与えられ、生活の場にかえってくる。その思いと手機が生み出す奥深さが、いつまでもあきのこない一品として支持され、今や北海道から九州まで顧客層が広がりをみせる。

またペンステモンは京都のシルクの糸染め工場I.T.E(旧伴染工)と組んで廃液染め糸による商品開発に取り組んでいる。

 一度染めた染料はこれまで当たり前のように捨てられて きた。

しかしI・T・Eはいるんな色の染料を集めて混合、発色する様々なグレーのバリエーションによる染め糸でショールやシャツ、バッグなどを製品化、光沢のある独特のグレーに彩られた商品が話題をよんでいる。

 また西陣を拠点に活躍する紋意匠士や整経士、染織家な どの伝統工芸士七名が組んで結成された熱都来布は帯や着物に使ってきた素材を用いて犬のリードや首輪、バッグ、Tシャツなどを開発、販売を開始している。伝統工芸とい

 う枠にいまられず、自分たちの思いのこもった商品で新しい市場への参入を開始した。

 他にもセリシンを用いた化粧品や食品を開発して販売する企業などが全国に現れ、二十一世紀の資源としてのシルクを見直す動きが相次いでいる。既存の枠をとりはらい、学術的な研究者との連携を深めるならば蚕は新たな需要を創造する未来の資源としてこれまでとは違った産業の連環を作り出せることが示されつつある。

 滋賀県大津にシルク専門の商品をネットで販売する企業、オールシルクがある。二年前から事業を本格化させ、ネットでの販売はむつかしいと一般的に言われる中で同社は既に軌道にのりつつある。婦人服から紳士服、下着、化粧品までそれぞれのメーカーと組み、多様なシルク商品を揃える。

 ネット上でカード決済する仕組みを整え、これまでに数千人の顧客を抱えるまでになっている。とくに下着や化粧品関連などの商品のリピートが多いが、まだまだ商品のバリエーションが少ないのが悩みのひとつだが、シルクへの消費者の思いは思った以上に強いという。

 トレンドという表面の動きに流されず、蚕やシルク本来がもつ潜在力を究めていくならば、人と自然が共存していく新しい市場にシルクは予想外の展望を見いだせていけるのではないか。

 きものやフォーマル商品だけではないシルク商品開発は、消費者こそが待っているのかもしれない。


「群馬の絹」最近の動向  

 群馬県農政部蚕糸課 狩野寿作

 今、蚕糸絹業にとって大量生産の時代が終わろうとしています。

 これからの蚕糸絹業に求められるものは、多様な価値観を待った市場ニーズに対応することであり、生産者の顔の見える繭・生糸・絹製品を生産することです。

つまり、養蚕農家が再生産可能な繭代金を確保し蚕糸業の維持発展を図るためには、「群馬の絹」のブランド化を積極的に推進する必要があります。

そのためには、川上から川下までの関係者が人的なネットワークを作り、「群馬の絹」ブランド化のための多様な活動が重要です。

 このような観点から、蚕糸絹業の活性化をねらいとした「群馬の絹」の最近の動向について述べてみたいと思います。

1)群馬オリジナル蚕品種の育成

  群馬県では、ユーザーニーズに対応するため、特徴ある蚕品種の選抜、育成、改良を進めるとともに、これら蚕品種の飼育技術の確立及び普及を積極的に推進しています。

 これまでに育成したオリジナル蚕品種は「世紀二一」、「ぐんま200」、「新小石丸」、「ぐんま黄金」「新青白」の5品種です。

 群馬オリジナル蚕品種の特徴については次の とおりです。

【世紀21】 単繊度2.4デニールの中細繊度で風合いがよく染色性に優れており高級呉服用として使われています。また、織物としても光沢に優れ気品があ るため、多くの染織作家に愛用されています。

【ぐんま200】 生繰りに適し、節が少なく極めて白度が高い ため大変美しい染め上がりとなり、和装、洋装と幅広く使われています。

 【新小石丸】 皇居御養蚕所で飼育している「小石丸」と群馬県蚕業試験場が育成した「21」を交配して繰糸しやすくした品種です。

虫質強健で節や繊度ムラの少ない生糸が生産されるため、高級呉服用として使われています。

 【ぐんま黄金】 繭糸繊度は2.5デニール内外。解じょは良好で、光沢があり、特徴ある黄色生糸が生産されます。

【新青白】 文政年間に群馬県藤岡市で育成されたと言われている「青白」と群馬県蚕業試験場が育成した「200」との一代交雑種であり、この繭からは光沢があり特徴ある薄緑色の生糸が生産されます。

 また、笹色の色素(フラボノイド系)には、抗菌性、抗酸化作用などの優れた機能性があるといわれ、今後の新規用途開発が期待されています。

 このほかにも群馬県では、ニット業者のニーズに応じて太繊度蚕品種を開発したり、農業生物資源研究所と共同で、新形質遺伝子の導入による新蚕品種の作出と利用技術の開発などを進めています。

 

2)「群馬の絹」活性化研究会の活動

 絹製品が出来上がるまでの行程は複雑で多岐にわたるため、蚕糸絹業界は分業化され、川上から川下までの連携が充分に図られていない状況にあります。

また、朝日リサーチセ

ンターが調査した和装製品の段階別調査を見ても、流通マージンがあまりにも大きく製造業者が生産費を確保できないのも現実です。

 このような状況の中、平成12年6月「群馬の絹」活性化研究会が発足しました。

活性化研究会の活動の柱は、@このまま放置すれば消滅しかねない養蚕、製糸の維持・確保 A群馬の絹の活性化には不可欠な異業種間のネットワークの構築 B安定的な絹糸供給体制の確保 C産官学による新製品開発体制の確立です。

 会員数は百余名、養蚕農家、製糸業者、絹加工業者、デザイナー、コーディネーター、着付け指導者、消費者、蚕糸関係団体職員、県職員など多様な会員構成となっており、その活動としては撚糸、精練及びセリシンについての研究、養蚕、製糸、染織についての現地研修、各種講演会などを実施しています。

 いずれにしても、活性化研究会は、従来いがみ合ってきた蚕糸関係者と絹業関係者が同じテーブルにつき「群馬の絹」のブランド化のために活動する組織であり、今後の活動が大いに期待されているところです。

                          (以下次号につづく)

イベント情報

−第40回農林水産祭『実りのフェスティバル』−
会場には日本絹業協会・ジャパンシルクセンターの
特設展示販売コーナーが設けられています。

日 時

11月9日(金)〜11日(日)
午前10時〜午後5時まで
(但し11日は午後3時まで)

場 所

東京ビッグサイト西展示棟4階 

入場料

無料

交 通

新橋→国際展示場正門前(ゆりかもめ)新木場駅(JR・地下鉄乗換)一国際展示場駅下車徒歩5分(臨海副都心線)東京八重洲口・浜松町駅一束京ビックサイト(都営バス)

主 催

農林水産省・(財)農林漁業振興会

−第16回国民文化祭ぐんま2001−
全国繭クラフト展
全国各地で作られた優れた繭クラフトの
作品を一堂に展示いたします。
繭から生まれた造形のすばらしさを堪能してください。

日 時

11月2日(金)〜12月24日(月)
[国民文化祭開催期間11月3日〜11日]

場 所

群馬県立日本絹の里 
群馬県群馬町大字金古888‐1

主 催

群馬県養蚕婦人クラブ連合会 
群馬県立日本絹の里

 編集協力:農林水産省畑作振興課、農畜産業振興事業団